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マンガでわかる 日本経済入門 中野剛志

デフレ時にインフレ対策をやり続けた日本

橋本龍太郎政権時の1998年からデフレに突入しました。
財政構造改革と称して、政府支出、特に公共投資を削減しました。
さらに、消費税率を5%に引き上げました。
つまり、政府の需要と民間の需要を大幅に減少させたのです。
これでは日本経済がデフレに突入するのも当然です。

橋本政権を継いだ小渕恵三政権は、公共投資を急増させました。
おかげで日本経済は恐慌を免れ、一息つくことができました。
もう少し長く、公共投資の拡大を続けていれば、日本経済はデフレを脱却し、成長軌道に乗っていたでしょう。

ところが、2001年に成立した小泉純一郎政権は、「構造改革」を掲げて、再び、公共投資の削減を始めてしまったのです。そして、この公共投資の抑制は今日に至るまで、ずっと続いています。

2008年には、世界恐慌以来と言われるリーマン・ショックが起きたので、当時の麻生太郎政権は、公共投資を急増させました。
これはデフレ不況対策として、正しい政策でした。
しかし、2009年に成立した民主党政権は、「コンクリートから人へ」をスローガンに、公共投資の削減に乗り出しました。
それだけでなく、「事業仕分け」と称して、その他の政府支出の抑制にも努めました。

2012年に成立した第二次安倍政権は、公共投資を増やしたように言われますが実績を見ると、実は民主党政権時と比べて、それほど、増えたわけではないのです。
それどころか、2014年には、消費税率が5%から8%へ、さらに2019年には10%へと増税されました。

このように日本政府は、これまで20年以上にわたって、小渕政権や麻生政権という例外を除いて、基本的にデフレ対策である積極財政をしてきませんでした。
それどころか、政府支出の削減や消費増税など、いわゆる「緊縮財政」を基調としてきたのです。

間違った貨幣論ーー商品貨幣論

貨幣とは何か。
原始的な社会では物々交換が行われ、そのうち何らかの価値を持った商品(金の貴金属など)が便利な交換手段、つまり貨幣として使われるようになりました。
しかし、金そのものを貨幣にすると、その純度や重量など貨幣の価値確認に手間がかかるので、政府が一定の純度と重量を持った金貨を鋳造するようになりました。
さらに政府は、金との交換を義務付けた紙幣を発行するようになりました。
政府が発行する紙幣が、普通の貨幣ということになり、最終的には紙幣は、金との交換による価値の保証がなくても、みんなが紙幣に価値があると信じ流ようになって、貨幣として使われるようになったのです。

この「商品貨幣論」に説明では、人々がどうして紙幣を単なる紙切れではなく、価値があるものとして信用し、貨幣として使っているのかが、よくわかりません。

正しい貨幣論ーー信用貨幣論

「信用貨幣論」とは、貨幣を「商品」ではなく、「負債の一種」と考える説で、結論から言えば信用貨幣論が正しい貨幣論です。
イングランド銀行の季刊誌(2014年春号)に、貨幣について入門的な解説がありますが、そこにもこう書いてあります。
「今日、貨幣とは負債の一形式であり、経済において交換手段として受け入れられた特殊な負債である」
ここで言う「負債」の意味は、「春にイチゴを収穫したAさんが、Bさんに渡し、Bさんは秋に取った魚をAさんに渡すことを約束する」としたら春の時点ではBさんはAさんに対して、「秋に魚を渡す」と言う義務が発生します。
この義務が負債です。
そこでBさんが「秋に魚を渡す」と言う「借用証書」の紙切れをAさんに渡すとしましょう。
その「借用証書」という紙切れには「Bさんから秋に魚に交換してもらえる」という価値があります。
そうすると、例えば、Cさんが火打ち石を持っているとしたら、Aさんは「借用証書」と火打ち石を交換できるかもしれない。
つまり、Aさんは「借用証書」で火打ち石を買えるのです。
この場合、「借用証書」、つまり「負債」はAさん、Bさん、Cさんの間で「貨幣」として使われます。
これが「貨幣は一種の負債である」ということの意味です。

銀行の機能

現在、そのような「貨幣」として使われているのは「現金通貨」と「銀行預金」です。
重要なのは「銀行預金」も貨幣に含まれるということです。
貨幣のうち、8割以上を占めるのは「銀行預金」です。

さて、「銀行預金」という貨幣は、どのようにして生まれるのか。
これを理解することが、非常に大切です。

銀行は、A企業に1000万円を貸し出す時、A企業の口座に1000万円と記帳しているだけです。
その瞬間に、1000万円という銀行預金が新たに生まれるのです。
全国銀行協会が編集している「図説 わが国の銀行」にもこう書いてあります。

「銀行が貸出を行う際は、貸出先企業Xに現金を交付するのではなく、Xの預金口座に貸出金相当額を入金記帳する。つまり、銀行の貸出の段階で預金は創造される仕組みである」

銀行とは、貸出を行うことによって、貨幣を創造するという特殊な機関なのです。

安倍政権下の財政政策

アベノミクスはデフレ脱却を掲げた国債発行を増やし、財政支出を拡大したのでしょうか。
第一の矢「大胆な金融政策」についてはデフレ脱却には無意味でした。貨幣についての理解が間違っていたからです。
第二の矢「機動的な財政政策」はほとんど、行われませんでした。むしろ、財政健全化を目指し、消費増税を行いました。これはデフレ圧力を発生させるものです。第二の矢は逆を向いていたのです。
第三の矢「民間投資を喚起する成長戦略」についてはデフレ圧力を生じさせるものばかりでした。

これではアベノミクスが成功するはずもありません。

国債発行と財政支出の実際

銀行が新規発行国債を購入する場合(市中消化の原則)
①銀行が国債を購入すると、銀行保有の日銀当座預金は、政府の日銀当座預金勘定に振替え
 ※日銀が銀行に供給、民間から集めた預金ではない
②政府は、例えば公共事業の発注にあたり、企業に政府小切手で支払い
③企業は取引銀行に小切手を持ち込み、代金の取立を依頼
④銀行は小切手相当額を企業の口座に記帳(新たな預金の創造)。同時に、日銀に代金の取立を依頼
 ※民間貯蓄の増加
⑤政府保有の日銀当座預金が、銀行の日銀当座預金勘定に振替え(日銀当座預金が戻る)
 ※日銀当座預金に変動なし。国債金利は上昇しない
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つまり、このプロセスは何度も繰り返すことができるのです。
この間、民間預金(貯蓄)は、減っていません。それどころか貯蓄は増えているのです。
また、民間銀行の日銀当座預金は変わっていませんので、金利も変わりません。
したがって、財政赤字が拡大すると、民間金融資産が減って金利が上昇するなどということは起こりえないのです。

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