見出し画像

やさぐれた顔

子どもの頃、父の顔を忘れていた。
遠洋漁業のマグロ船に乗っていた父は、マグロを追って大西洋やインド洋にいたらしい。年に一、二回、帰って来るだけの父はよそのおじさんにしか思えなかった。

たぶん淋しかったのだろう、母はよくパチンコに行っていた。車の免許を持っていない母は私の手を引いてパチンコ屋に行く。母がパチンコをしている間、私はやることもないので足下にうずくまって遊んでいた。タバコ臭くて、うるさくて、なにより子どもが行くところではないことは雰囲気で理解できたので、パチンコ屋は嫌いだった。

母のパチンコ通いは、だいぶ続いた。幼稚園から小学校の低学年、つまり一人で留守番ができるようになるまで、私はよくパチンコ屋にいた(ほとんど昼間。夜になることはめったになかった)。夏休み、冬休み、学校が休みになると母のパチンコ通いにつきあわされた。

ここから先は

1,457字

田口ランディが日々の出来事や感じたことを書いています。

日々の執筆を応援してくださってありがとうございます。