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富の食物連鎖と資本家の心構え


1. はじめに 

 生態系には食物連鎖という序列があり、人類は道具を使いこなすことで食物連鎖の頂点に君臨することになりました。本稿では少し解像度を上げて人間社会での食物連鎖(序列)を観察します。 

 人間社会での序列は現代資本主義に倣い「富の食物連鎖」という形で表現します。資本(お金)を基準に人間社会での食物連鎖がどのように形成され、変化しつつあるのかを日本とグローバルの双方の視点で整理します。 

富の食物連鎖のイメージ図

2. 歴史上もっとも厳しい要求水準の到来

 資本主義社会では人々は大きく「資本家・管理者・労働者」の3つの階級に分類されます。自身の時間を労働力として切り売りする労働者が多数を占めます。

 管理者は労働者をマネジメントする立場の労働者で企業の管理職~経営層が該当します。資本家は資本の提供(株式や債券等への投資)を通じて企業活動の結果である利益を受け取ります。

 資本家は経営者を兼ねている場合もありますが、純粋な資本家は自身の労働力を提供することで資金を得るのではなく、資本を有効活用し多くの資金を得る人を指します。 

 国によって構成比率は異なりますが資本家は上位の数%、管理者は上位の10%~20%程度、残りが労働者というイメージです。もちろん労働者の中には例外的に特質した能力で管理者以上に稼ぐ人もいますが例外です。(プロスポーツ選手など) 

 従って富の食物連鎖のピラミッドは資本家>管理者>労働者という序列となります。上位ほど少数で下位は大勢となります。富の分布は逆で上位が社会全体の富の過半を占め、下位が占める割合は極僅かです。 

 良い悪いは別としてこれが現代資本主義の掟であり、ピケティがr>gという方程式で示した法則です。資本主義というゲームをプレイする以上、世界の経済がどのようなルールで動いているか理解することは必須です。 

 資本家というジョブに就くためにはルールを熟知し資本主義というゲームに適応する必要があります。ただしルールは技術の進化やグローバル化の影響で年々と変化を速めている点に注意が必要です。 

 20世紀末から2000年頃はグローバル化の影響が大きく、先進国から途上国への生産拠点の移動などを通じて低賃金労働を背景とした安価な工業製品の普及と労働賃金のグローバル化(地域間の格差の縮小)が進みました。 

 2010年代はGAFAのようなプラットフォーマーが台頭し資本家により一層の富が集まりました。そして2020年代は現在進行形で高度なAIの台頭による「労働生産性のレバレッジ」が労働市場に大きな影響を与えつつあります。 

 1990年代から2000年代にかけてのグローバル化は、特に製造業のブルーカラー労働者に影響を与え、工場の移転が顕著でした。一方で、2020年代に入りAI革命が進むと、この波は中流階級のホワイトカラー労働者にも及んでいます。

AIの進化による職業構造の変化を示すイメージ図

3. 中間層の消滅危機

 リーマン危機以降、格差社会という言葉が頻繁に用いられるようになりました。リーマン危機の反動である金融緩和は資本家に大きなチャンスをもたらしました。資産バブルによって金融資産が大きく増加しました。 

 一方で技術の進化によって労働者に要求する能力値は益々高まり、賃金圧力はリモートワークや便利なツールの普及によりグローバルで高まり、先進国・途上国の差が減少しつつあります。(下方圧力の形で)

 これまで中流と定義されていた人が下流に転落し上下の両極にくっきりと分かれることで格差を感じる場面が増えつつあります。マクロ視点で評価すると中間層が崩壊することにより製品・サービスの消費市場が崩壊することに繋がり、結果として資本家に対してもマイナスに作用することになります。 

 先進国はコスト構造的に中間層の労働が途上国の労働力やAIなどとの競争に晒されており厳しい状況です。中間層の縮小は避けられません。現状は人口増加と途上国の発展により世界全体で見た経済規模は増加しているため資本家は中間層の消滅の影響をほとんど受けませんが、人口増加がストップし新興国の成長が一巡し、世界経済の成長がストップすると悲惨な結果が訪れます。 

 脅威ではありますがこれだけでは中間層の消滅まではいかないのではないか?流石に大袈裟ではないか?という疑問が生じます。今後の資本主義では搾取の対象が労働者から高度なAIにシフトする可能性が高いです。 

資本主義の歴史と経済格差の変遷を示す図

 資本主義の下でも、労働者への搾取には限界があります。通常、コストは労働力再生産のための最低限のコストとされています。しかし、AIが対象となると、この状況は大きく変化します。 

 AIの場合、労働基準法や健康の維持などを気にする必要はありません。稼働時間は原則24/365です。8時間労働の労働者の3倍の時間働き、土日祝日も関係ありません。資本家から見ると搾取し放題のサブスク契約のようなものです。 

 これによって中流ホワイトカラーの多くが失職する可能性が高まります。高度なAIを組み合わせることで多くの業務はロボットやソフトウェアに置き換えることが可能となります。人間はAIをコントロールする少数のマネージャーで事足ります。 

 結果としてAIに投資するよりも費用対効果が安価な低賃金労働とAIでは代替不可能な職業、AIを管理するマネージャー、企業を管理する経営陣、企業に資本を提供する資本家のみが生き残る社会へと近づきます。 

 これによって中流が事実上崩壊します。10年後か20年後かは分かりません。少し形が変わる可能性もあります。しかしながら大枠は変わらない可能性が高いです。避けがたい厳しい未来が待ち受けています。 

 投資家はこのような状況を受け止め、行動が必要です。日本人は金融資本の働かせ方を理解している方が少数です。人的資本に頼り切っている部分が大きく、学校教育はサラリーマン養成教育でもあります。

 昭和の時代であればそれでも問題ありませんでしたが、成長が止まった日本では金融資本と人的資本の最大化が重要であり、人的資本が生み出したフローを如何にしてストック資産へと転換し、金融資本と人的資本の合計の最大化を図るかが鍵となります。 

 最近はFIREという言葉が流行っており、若い世代を中心に金融資本の活用に目を向ける割合が増えているように感じます。これは自己防衛的な試みでありつつも、変化する資本主義社会へのヘッジとして機能しています。

 一部の資産家を除き、富の食物連鎖のスタートは皆、底辺の労働者からです。労働で得た少ない資金を株式などの金融資本に転換することで少しずつ資本家比率を高めます。

 最終的に資本家比率が100%(=労働収入と同程度の収入を金融資本から安定的に得ること)に達することで、最初のゴールに到達し、資本家としてのスタート地点に立つことになります。 労働者の金銭的なゴールは資本家としてのスタート地点だと考えてください。 

労働者が金銭的なゴールを達成し、資本家としての旅路のスタート地点に立つ概念図

4. 避けがたい能力による格差

 資本主義の搾取の対象が、労働者→機械(工場)→AIと変化しつつあります。これまでは搾取には工場などの大規模な設備投資が必要でしたが、今後は安価且つ高度なAIから自由に搾取が可能となります。 

 よって今後はAI搾取率が高い企業がより大きな利益を上げ、富を生み出す可能性が高いです。このような構造では多くの労働者は不要であり、経営者と少数の管理者とエキスパートがいれば十分となります。 

 結果として多くの無用者階級が生まれることになり、社会には「働くことが出来ない人」が溢れかえることになります。仮に無用者階級が人口の30%を占めるようになった場合、国家はどのように財政を支え社会保障や福祉を維持するのだろうか?普通に考えれば不可能ではないか? 

 稼げる一部のエリートや資本家から厳しく搾取するのか?それとも格差と分断を許容し新たな階級社会に突入するのだろうか?歴史を振り返ると過去の格差は主に「身分による格差」であり、未来の格差は「能力による格差」と表現できます。 

 技術の進歩による社会の高度化についていくことが出来ない人たちは「能力による格差」によって貧困に陥る可能性が高まります。歴史上の差別は貴族と平民、士農工商、白人と黒人、男女の別、侵略者と先住民、などで区別されており本人の能力ではなく、生まれ持った立場に起因するものが主でした。 

 今後の能力による格差はこれまでの格差と異なり、自然界の自然淘汰に近い能力による選別・淘汰となります。身分や属性に起因する格差は一般に好ましくない、というのがコンセンサスですが、果たして能力による格差はどうでしょうか? 

 能力による格差を認めないということは共産主義に繋がる思想でもあります。能力による格差を認めず、結果平等という思想に行き着いた場合、資本主義は生き残ることが出来るのか、それとも新しい経済モデルに移行を迫られるのか真剣に考える必要があります。 

 格差をゼロにすることはどう頑張っても不可能なので社会的な格差の許容値をどう設定し、格差をその範囲でコントロールするかが課題となります。現在は過去に比べ格差の許容値が拡大する傾向にありますが、どの当たりが限界かは不明確です。 

 格差の許容値が限界値を超えるとポピュリズムが加速し、内戦・革命のようなイベントが発生する確率が高まります。要するに貧民の反乱によるゼロリセットです。歴史上、そのような革命は何度もありました。 

 先進国で今後ゼロリセットが起こらないとは言い切れません。投資家は究極のリスクである内戦・革命のような状況も頭の片隅に置く必要があります。鳥の目で世界を眺めると約100年の米国による覇権も終焉が近づいており、近い将来において米中の軍事力を伴う衝突は避けられないと感じます。 

 帝国の衰退と新たな帝国の誕生についてはレイ・ダリオ氏の書籍において「ビッグサイクル」として詳細に説明されておりますのでそちらを参照ください。投資家であれば必読の書籍です。 

 これまでの搾取は労働者や機械からの搾取であり、一次産業や二次産業がその影響を受けました。今後はAIからの搾取を通じて三次産業の知的労働(ホワイトカラー)が対象となります。 

 ChtatGPTはまさに先駆けであり、今後はAIからの搾取を通じた三次産業の構造変化が加速します。私もこの現象に対してどのように振る舞うべきか大いに悩んでいます。これまで以上に人的資本が不安定となる時代が到来します。 

 十分な金融資本を有する方は、これを有効活用し、人的資本のさらなる拡大を図るべきです。金融資本は万一の際のセーフティネットとしても機能します。

 問題は金融資本が乏しい若者や一般労働者です。これまで以上に人的資本の価値が棄損しやすい時代において一本足打法はリスクでしかありません。今後、労働者と資本家という二足の草鞋を履くことは当たり前となります。違いはその比率です。 

 経済的自立を目指すためには、資本家比率を徐々に高めていくことが重要です。具体的には、労働収入と同等の収入を金融資本から得られるようにすることが目標です。これは資本家としての第一歩であり、経済的な自由を確立するスタート地点となります。

資本主義における搾取の進化図

 

 


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