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57【生まれてくれてWELCOME】


7月14日 

ついにここを出発する日

昨夜はどうも眠れず、
睡眠導入剤の助けを借りる

いつも通り3時ごろ目が覚め
4時から文章を書いて
ストレッチからのウォーキング 

連続で4キロ行けた
歩くことへの不安はもうない

朝ごはん中
術後の参考になるかなと
食道癌の患者会、食がんリングスの
動画を見始めたがこれが失敗

とってもいい動画なんだけど
当事者が術後、胸が苦しくなると聞くと
すんごく影響を受けすぎてしまって
ムウの胸も苦しくなってきたような
変な気持ちになってきて慌ててやめた

この時期の情報の入れ方に注意が必要


ムウの身体はムウに聞きそれを信頼する
そんな自信をつけたい


退院は午後だったので
午前中はゆっくりして11時ごろから
荷造りを始める

入院で役に立ったのは
大きいクッションとマイ枕
そして自分の気分の上がるパジャマやタオル

最小限の物しか持たないのであれば
本当に自分が大切に思えるものを
厳選して持つのがいいと痛感した

14:00   約束の時間
ルウとスウが既に到着してるはずの3階の待合へ
15:00  上野先生に呼ばれ話を聞く
特に退院後の生活について

本人も周りも気を使いすぎて
いつまでも病人のようでいてはいけない

食事も病院食のようなものを
奥さんが張り切って作るんじゃなくて
他の家族と同じものをひたすらよく噛んで
ただただゆっくりゆっくり食べること

全く食欲もわかないけど
それを繰り返すこと

間違っても内臓を鍛えようとして
いっぱい食べたり早く食べたりしないこと

この3ヶ月がこれからの長い人生で
どういう風に内臓が動くかが決まる
とてもとても大切な時期なので
本当に丁寧に食べるリハビリをすること

とコンコンと説得された

特にパートナーを心から
愛してる相方によくあるんだって
言われて苦笑いをした

昨日の栄養士さんの
これはだめ、あれはだめ
こうしなさい、あーしなさいは一切なく

みんなと同じものをただひたすら
ゆっくり食べること以上だった


そして7月1日の術後13日目での退院は
この

病院での最速記録

で、

別に我々チームが記録更新を
目指したわけでもなんでもないけど
他の先生も看護師さんもみんな口を揃えて
川北さん、順調です、順調ですというものやから
今日、晴れて退院してもらえることになりました




嬉しかった
みんなが見ていてくれて
そうして共有してくれていたことも

今後の治療方針については
手術の時に取った検体の結果を見てから
抗ガブ剤の使用も含めて考えましょう
ということで2週間後に予約を入れて
部屋をでた

ありがたかった
嬉しかった
褒めたかった
褒めてほしかった


だけどムウもスウも
そんなに早く退院して大丈夫?
とやたら心配をしていて

もうちょっと病院にいて欲しそうで

実はちょっとがっかりしていた


まぁ喜ばせるために頑張ったわけじゃない
ムウが勝手に早く出たかっただけやし

その後、病室に荷物を取りに行き
入院の時から右手首にずっとつけていた
バーコードの入ったテープを切ってもらった

鎖を外されたみたいで
心底、解放された

お世話になった看護師さんを見つけて
お礼を言って、みんなに書いた
お手紙を渡し病棟をあとにした
(16日間でムウの担当になってくれた看護師さん22名
 医師5名の体制だった、すごいな)

あー本当にいい病棟だったな

ありがとう 15Nの皆さん
ありがとう 消化器外科(上部)の皆さん


大荷物を台車に積んでエレベーターで9階に

そこでなんとあの先輩とバッタリ合う
そう、先輩もなんとこの日、退院だったのだ

向こうも家族と3人で
こちらも家族と3人で

一言、お礼を言いたかったけど
何にも言わなかった

ずいぶんひさしぶりであろう
家族との時間を奪いたくなくて
軽く、会釈だけして。

ありがとう、先輩
お陰様というのは本当にこのことだ


その後、9階から下に向かうとき
ルウとスウはトイレに行ったので
ムウは荷物と共にエレベーターホールで待つ

そこにエレベーターから降りてきた女性

ムウを見つけて、びっくりして

あのぉ話しかけても大丈夫ですか?


と声をかけられた

あ、、はい、、、

よく見ると屋上庭園ですんごく頑張って
歩いてる女性だと気づく

今日、退院ですか?

そうなんです、、やっと

実は、私、感動してたんです。
あなたの歌を聴いて。。。

え??

屋上で歌ってらしたでしょう?

(聴いてる人がいるなんて全く思ってなかった
 ムウはでっかいエアコンの室外機に向かって
 叫ぶように歌ってたから。。。)

あ、はい、、、、、。。。


私、全身、あちこちアレで
ほんと、ダメダメなんですけど
頑張らないとと思って歩いてるんです。

その時、
あなたが全身全霊で歌っている姿を見て
私ももっと自分の声を聞きたいって思ったんです

もっと力一杯の声を出してあげたいって


だから、本当にありがとうございました
(目にいっぱい涙を溜めている)

すごくすごく勇気をいただきました!


そこにムウとルウが戻ってきた

女性は二人にも説明をする

いやぁ本当に歌が素晴らしくて
感動して泣いちゃって嬉しかったんです

私たち、言葉は交わさないけど
みんな、みんなのこと、同志のように
思えて、がんばってる姿で励ましあったり、、ね


この人は何?
女神!?
女神だよね!?

最後の最後にエレベーターホールで
こんな奇跡が起こるのか?

と心底、宇宙の計らいにオノノイタ

そして心からこういう病気になった自分を
あなたも私も許してあげようねと思った

これは罪じゃない
これは罰じゃない

今までの人生が間違いだったわけじゃない
これからの人生に希望がないわけじゃない

アタシ達はダメじゃない
アタシ達はダメなんかじゃない

これはきっと奇跡
これはきっと神様が見せてくれる
ありったけの愛なんだ


この愛を
この奇跡を実感をもって味わうために
ムウも彼女もガブちゃんを引き寄せたんだ

先輩といい女神といいスゴすぎる

あなた達が生きて、
生で魅せてくれるこの世界で
ムウももうちょっと生きてみる

病を少しだけリスペクトできる
アタシになれた気がした


そんなことを言ってもらって
こちらこそ励みになります

お互い、頑張りましょう

頑張ってください


とその場を離れた

そのガンバッテクダサイはありきたりだけど
ありったけの“何か“熱のこもった“何か“よ
その言葉に乗って届けと願いをこめてと

名前も出自も何にも知らない
ただのすれ違いの命と命は
こうしてちゃんと出会ってる

お互いに影響をしあって生きてるんだ

屋上で、でっかい声で歌っていたのは
中島みゆきさんの 誕生

まさに 

生まれてくれてWELCOME



見知らぬムウに声をかけてくれた勇気と
彼女の涙に含まれた色んなことが
ムウの命にもう一度、
いのちを吹き込んでくれた気がした

YOU ARE  WELCOME


ーーーーーーーー

病院の外で待っていた娘や孫達とも合流して
ムウは家路についた

ありがとう 虎の門
ありがとう 命、命、そしてガブリエッラ


18時に帰宅
至る所に、手作りの
おかえり歓迎の文字やお花

みんなでいっぱい準備して
ムウを大歓迎してくれた

泣いてまうやろーーーーー

我が家は最高、やっぱり最高


好物のポトフと手作りのお寿司を
少しだけ食べたけど桜デンブが
気管に少し入ったようで苦しくなり
誤嚥性肺炎になったらどうしようと
不安の虫に襲われて
退院パーティで盛り上がってる
リビングをあとに
一人ベッドで横になった
(いや、すぐに横になれないので縦になったか)

あーこれから何かあってもナースコールのように
すぐには助けにはきてもらえない生活が始まるんだと
改めて

眠れそうにもなかったから
睡眠導入剤を飲んで、長い長い1日を終わらせ
目を閉じた


教訓
:誰かは誰かの力になってる
:命も出来事も全部きっと繋がってる
:どうかどうかみんな元気でいてほしい
:頑張ってるもの同士の頑張ってはとても深い

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