見出し画像

52【編み出す】

7月3日 ICU3日目

日が変わっても
ずっとのたうち回り続ける

睡眠導入剤を痛み止めに混ぜても
全く眠れない

24時を回った頃に使ったソセボンの
効きがあまり良くないことに気づいて
もっと怖くなってくる

これが効かなくなったらどうなるんだろう


もう一回、全身麻酔で
眠らせてくれたらいいのに。。。


と思いながら
どうにかこうにか朝を迎える

今日は、ICUを出て
一般病棟に移る日と昨日言われて
本当にそんなことできるのか!?
と思っていたけれど

わかりました。
頑張ります。



できるだけ早くこの地獄を
抜け出したい一心で精一杯強がった

ソセボンがもう一回打てる時間だけを
望みに痛みに耐え朝、8時にMさんに
入れてもらった

Mさんは一般病棟にいるときに
ICUで担当になります!と
挨拶と説明にきてくれた看護師さんで
とってもいい人

ムウがのたうち回る姿を
本気で心配してどうにかしようと
してくれていた

だけどこのときに打ったソセボンが
全く効かず、絶望の淵に落ちていた


傷とは全く関係のないところが
焼けるように痛い


その痛みがじわじわと広がって

ムウの内側が焼土

になっていくよう

100mをフルで走ったぐらいの
息遣いで悶え苦しんでいたムウ

耐えられなくなって
なんとか抜ける方法はないものかと
思い倦ねているうちに ふと

起き上がってみたくなった


なんだかわからないけど ふと。

Mさん
ベッド、起こしてもらえますか?


なんでそんなことを思ったのかわからない
病人や怪我人は寝ているものときまってる

傷だって伸ばしてないと変な風に
固まっちゃうかもしれない

だけど四の五の言ってらんない


ちょっと起こしてください

わかりました

ベッドの背中をできるだけ直角になるまで
上げてもらった


すると、

なんということでしょう。。。


その焼けるような痛みが
じわーっと下に降りていくような感じで
徐々に治まっていく

なんていうことでしょう。。。

あー、なんでもっと早くこうせんかったのか

なんでもっと早く誰か教えてくれんかったのか

もちろん、他の部分は痛いけど
もっとも苦しかった焼けるような痛みは
面白いほどに消えていった

編み出した


ついに

編み出した


数学者が長年解けなかった問題の
公式を編み出したようなそんな

編み出した

阿弥陀ぼとけはここからきてるのか?

あーよかった

ホントによかった



そんなこんなでムウは底を脱した
この朝が、痛みのピークだった

一緒にいたMさんも
心の底からホッとした様子で

よかったですねー

と何度も言ってくれた

ムウもはしゃいで
本当によかったですーー

死ぬかと思いましたもんーーー


と一緒に編み出してくれたことに
何度も何度も感謝を伝えた

あとで調べたら
この術後の焼けるような痛みが
続いたら命に関わるヤバいやつらしかった


ホントに死ぬとこだった


ここで抜けれて本当によかった

このあとSさんという看護師さんに交代し
一般病棟に移る準備に入る

俄然、やる気が出てきた

ついさっきまで
もうホントに殺して〜と
思っていた地獄を抜けたことで

生きるチカラがモリモリ出てきた


身体は全然ダメだけど気持ちはよかった

管だらけの身体から
パジャマや下着を脱がせてもらって
身体を拭いてもらって
新しいパジャマを着せてもらい
また管を繋いでいく

Sさんはきっとベテランで
本当に患者を安心させる天才だった
ちょっとしたこと全部に配慮があった

すごいなぁ
プロだなぁ
と感心している間に
一般病棟に向かうエレベーターに乗り込んだ

ついに、ここから抜けられたんだ


自分自身を褒めてあげようと思った

とんでもなく不安な看護師さんもいたけど
それでも何十人もの人に支えられて
ムウは今こうしていることに感謝した

もう、地獄には落ちたくない
もう、絶対にあそこには戻りたくない


そう心に決めて

15F NORTHの一般病棟に戻ると
Gさんが待っていてくれた

手術の日に送り出してくれた看護師さんで
とっても安心できる人

部屋もナースセンターの目の前
1509号室の3番、窓際だった

よかった〜
窓際、よかった〜


車椅子からベッドに移り、背中を上げて
ムウの編み出したポジションを取る

窓があって外が見えて
やっと

ムウは

生きて帰ってきたんだ



実感した

一旦、離れていたSさんが戻ってきて

これで引き継ぎ終わりましたので
私は失礼しますね


頑張ってくださいね と去っていった

神様に見えた
地獄から救い出してくれた神様に

看護師さんってほんとに凄い仕事


一般病棟に移ったからといって
別に何も変わった訳じゃなく
もちろんひたすら痛みに耐える時間だけど

まずはよかった

11:15 ルウに帰ってきたことを連絡する

そして頑張ってトイレに自力で行ってみる


ここからはリハビリでちょっとでも
歩いた方が治りが早いって散々言われたから

絶対、

脅威の回復力を見せてやるねん

と思っていた

そうして、なんとか1人で行けた
人間って凄い

20:00
ちょっとだけルウの顔をビデオ通話でみた

ホッとした。

術後、ここまで50時間
ほとんど寝てないから
睡眠導入剤を痛み止めの点滴に混ぜてもらって
眠りにつこうとする


徐々にボーっとしてきて目を閉じた

そこに広がるものすごく綺麗な世界
色とりどりの映像が次から次へとやってくる


夢か?夢なのか? 
早くない?早すぎない?


空だって飛べる
まるで2100年の未来の世界に迷い込んだよう

あーこんな映画あったら凄いなー
と思いながら夢か幻かわからない
その世界に浸る

パラダイス
パラダイスだーーー


そう、幻覚が始まっていた

痛みはある、意識もある
目を開けると病室にいる

隣りのベッドからものすごい苦しそうな息遣い
前のベッドもずっと呻いている

この部屋は1番、重い人の部屋だから

だけど目を閉じるとパラダイス
煌びやかな世界を飛び回れる

あの世に行ってしまった存在とも
会えるような気がしてごきげんになる


だけど全く、眠れない

徐々に、この状態がひたすら続くことが
苦痛になる

眩しくてキラキラしすぎて目を閉じられない

眠剤の幻覚だ
なんてことだ
眠らせてもくれない

地獄も地獄で地獄だけど

天国も天国で地獄だ


目を閉じるとショーが常にそこにある

普通にして〜

お願いやから普通にして〜


と目を閉じるのをやめて
この天国が通り過ぎるのを待った

そして2度と、痛み止めと眠剤を一緒に点滴するのは
やめようと強く誓った

結局、この日も永遠に続く痛みで
眠れない夜だった

こうしてムウは地獄のICUを抜けた


教訓
:やまない雨はない
:でもその最中はそんなこと思えない
:支えてくれる人の存在が何より大きい
:痛み止めと眠剤の併用には注意!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?