見出し画像

インターネットの本質は月並み。最良ではなく可能性を探すもの

ビッグデータから導かれる結果とは、良いパターンではなく、月並みなパターンから最良である可能性を提示するもの。
結局のところ、検索アルゴリズムは過去のデータから得られる表象(イメージ)でしかないため、各個人を人間として知ることができないから。

そんな風にテクノロジーの危機を語る「世界史の針が巻き戻るとき」を読み終えました。

一応現職でデータ設計やレコメンドエンジンなんかに関わっている故に、この言葉は非常に印象深く残りました。確かにね、書中にも書かれている通り、「人工知能」って結局「知能」なんかでは全く、過去の軌跡をなぞるだけのプログラムでしかなくって、「どのような人がどのような言葉や行動を起こしているのか」を理解しているわけではないんですよね。

はい、ということで今回はグローバル化後に起きている事象と現状について哲学者との対談をまとめられた「世界史の針が戻るとき」の感想まとめノートです。
※私は哲学しようとすると頭がショートしてしまう残念な子なので、Amazonレビューみたいな哲学と専門用語を使って語ることはしません。できません。

世界史の針が巻き戻るって、どういうこと?

本書の中で著者はグローバル化した世界から国民国家、簡単に言ってしまえば自国第一経済化という動きに戻ろうとしている、ということ。具体的に言うと、産業革命以降の民主主義あたりへ回帰するイメージですね。

この辺りは「グローバリズム後の世界では何が起こるのか?」でも近しい内容が書かれていることを思い浮かべました。いわゆるアフターデジタルで世界が平面的に繋がったことによる弊害を取り除こうとする動きとして、トランプ政権を始めとしたポピュリズムをその兆候として捉え、警鐘を鳴らしています。

著者の考え

■倫理的になることで企業は利益を生む、そのことを有力企業に浸透させる
それは先進国ではモノが溢れ消費意欲は落ち、次に求められるものはより善き生活であり、例えば数十人の人が低賃金で作られる(不幸になる人を生む)製品よりも真っ当な方法で作られる製品を買うことで満足感を得る、というものでした。確かに、エシカルへの関心やエコファーの広がりなど思い当たる節があります。

■テクノロジーへの警鐘
自動化が進む世の中だけれど、機械への入れ替わりが全て正しいわけではない。生産し、モノを購入し、利益を得る、この循環から人が排除され続けるほど、経済は後退する。(機会はモノ、買いませんからね)働き方を忘れてしまった生活の破綻した人々で争いが起る。それを防ぐためにベーシックインカムは必要であると語ります。
また、無料でサービスを提供するといいながら、無償で利益の源泉となる行動データを取得しているGAFAに税を課し、ベーシックインカムの源泉とすべき、という主張します。

■自らを正すために、別の視点でファクトを視る
自らの考えをFalseにすることはできない。(自分の考えは誤っている自分の存在を自分自身で存在しないといえない、そんなパラドックスですね)
表象(イメージ)をメタ情報として使わず、目の前の現実を様々な角度で見ることが重要だと、しめくくりました。

個人的に印象に残った点

・ドイツでは、カトリックかプロテスタントでいるには税金を払わなければならない

・現実世界では、低評価をした人物の意見があなたの決断に及ぼす影響は何一つありません。それがオンラインになった途端、その人物の薦めに従ってしまう

・インターネットというのは、本質的に凡庸、月並みな結果をもたらすものです。凡庸でも、結果が出ないよりはましです。

・政党に投票するとは、商品を買うような行為ではありません。ある理想に寄与することを選ぶのです。

・視点は、すべて等しく善であるということはない。

所感

経済を哲学的に描いた本書ですが、対談形式で書かれているので哲学が苦手な人でもとても読みやすかったです。やや専門用語が散りばめられていたり、ポジショントークを含んでいたり、日本での出版が前提に置かれているため日本に焦点を当てた話題や、著者がドイツ人のため地理的に欧米の話題が多かったり、とバイアスは意識する必要はあると思います。

ただ、それを差し引いても、コンピュータのくだりやヒエラルキーを前提とした資本主義に対する主張など、著者の目標や考えには共感できる部分が多くありました。

人よ倫理的であれ

新しいサービスや今後のプロダクト開発にはこの言葉を忘れてはいけない、そんな風に感じた本でした。ページ数も新書だから短めで経済哲学として面白い本だと思います。

私の理解が誤っている点も多々存在していると思うので、それこそ別の視点から「こうなのでは?」とご指摘いただければ大変幸いです。

それではこれにて!

この記事が参加している募集

読書感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?