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解読 ボウヤ書店の使命 ⑯

 番外編を書いていたので『キャラメルの箱』の解読が遅れてしまった。
 今日(2023年4月6日)は長編『クリスタルエレベータ』をseesaaの非表示モードで制作した後、他の用事をしていたのでさらに遅れ、夜になってしまった。
 それにも関わらずひとつ書き残しておきたいことがある。
 夕方の買い物時にピータの森へと寄り道した時、カラスのカアスケが居て樹上をゴソゴソと動き、何かなと立ち止まって上を見たらヒヨドリの巣があった。昨日、ベランダにある枝が半分折られて持ち去られていたので、なんとなく、ヒヨドリがこれから子育てをする守護として持ち帰ったような気がしていたのだが、まさかあの樹上の巣の中にその枝があるのだろうか、などと考えていたら、上からビシッと音がして頭の上に何かが落ちてきた。感覚としてこれまでに味わったことのない熱感もある。なんだ?と慌ててそれを手に取ると、細いY字型の枝だった。


 ――そうか。これと、交換だと言っているのか。
 以前もカラスが私の目の前で嘴を使って赤い実の付いた枝を折り、持ち帰るようにと贈与されたことがあったのだが、なんと二度目の奇跡。今度はヒヨドリからだ。それにしても、ヒヨドリの嘴とはこんなに強いものなのかと驚く。森ではなんだか普通の喜び程度に思えたが、家に戻って冷静に考えてみたら、これは驚くべきお宝ではないだろうか。
 パールシェルがコンポストの底から発見されて「名月やとってくれろと泣く子かな」もあっという間に叶うようになったとツイートしたところだったが、枝交換も叶ってしまった。私は枝をよく森で拾うから、ヒヨドリが枝を持って帰ったなら交換したことになると考えていたら、なんと直接千切って落としてくれたのだから。
 そうだ、昨日(2023年4月5日)、ムツゴロウさんが亡くなられたそうだった。私が絵の先生に「鳥と話ができる」と言うと「ムツゴロウさんもできるよ」と一月前ほどに言われた。私はムツゴロウさんと同じだと言われて、とてつもなく嬉しかった。〇〇に似ていると言われて、これほど嬉しかったことはない。なので、この、枝はその印としても、鳥類が落としてくれたのかもしれない。

 さて『キャラメルの箱』を進めよう。主人公の「僕」ゆうちゃんは、じいちゃんに呼ばれてばあちゃんの喫茶店へと足を踏み入れたところだった。喫茶店は火曜日で定休日だ。
 その続き。

《年末までにはあと数週間ある。
 客も誰もいない定休日の店内は寒く、
 珈琲や煙草の匂いまでもが冷やされて、
 固形物のように感じられた。
 匂いが身体に貼り付いてくる。
 外の太陽の乾いた明るさとは逆に、
 匂いがじっとりとくっついてくる暗さが
 幼い僕の心にも感じられ、
 不安な気持ちになった。
 じいちゃんは僕のそんな様子を察したのか
 頭をくるくると撫でて
 ――先にストーブを点けておいてやればよかったねえ。
 明るく言い、
 隅に置いてあった石油ストーブを
 部屋の真ん中に持ち出した。
 さっそくカバー部分を倒し、
 ダイヤルを回して芯を出しマッチで火を点けた。
 石油の滲みた芯が燃える匂いがする。
 赤い炎が立ち、辺りが明るくなった。
 それから芯の長さを調節して
 青く燃える位置で止める。
 再びカバー部分を起こしてガチャリとセットした。
 じいちゃんの手際のいい様子が心地よい。
 いくつかの電灯も点けた。
 電灯はステンドグラスに覆われ
 ぼんやりしていたけれど、
 灰皿やカウンターの花瓶などが
 見える程度には明るくなった。
 そもそもこの店に集まる客は
 明るいことを期待していない。
 客はみんな大人なのだ。
 十歳の僕には居心地のいい場所のはずがない。
 それでも年末の明るすぎる雰囲気よりはずっといい。
 年末のあの雰囲気にはお尻がもぞもぞした。
 多くの大人が集合して年越しの酒を交わし、
 じいちゃんもばあちゃんも、
 母やりんごおばちゃんでさえも、
 どこかよそゆきの声色で愛想よくふるまうのだ。
 みんな陽気を演じている。
 それが僕をそわそわさせた。
 それよりはむしろ、
 ほのかに暗い方がましだ。
 ――珈琲飲もうかあ。
 じいちゃんはやかんにお湯を沸かし、
 僕は黙ってストーブの火を見つめた。
 火はまるで生き物のように形を変化させている。
 何事が起きるのかわからない。
 ただ、じいちゃんが僕のためにストーブを点けたり、
 珈琲を淹れたりしてくれる時間の中にいた。
 だんだんとその安心感に包まれていった。
 ――そうだね、音楽もかけよう。
 どうだったかねえ、ここだったかなを繰り返しながら、
 あちこちを探し、
 ステレオのスイッチを見つけ出した。
 珈琲カップを仕舞う棚の横に
 何枚ものレコードが立ててあり、
 そこから一枚だけを取り出し、
 プレーヤーにセットする。
 僕は近付いて、
 レコード盤が回るのを見た。
 じいちゃんが針を端にセットし、
 小さなレバーを引いた。
 ふんわりとレコード針が落ちていく。
 チェロの音だったろう。
 静かに音楽が始まって、
 よどんでいた空気の匂いがすっと溶ける。
 匂いが音の粒子に乗る。
 部屋の中を、
 音がマーブル模様を描いて動き出すようだ。
 レコード盤が十周ほど回り、
 ストーブの火が波打ちながら部屋を暖めて、
 お湯の沸く音がしゅんと鳴り始めたら、
 やがて良い香りが立ち、
 じいちゃんの珈琲は出来上がった。》

 今日はここまでにしておこう。

投稿した後で気付いた事があったので捕捉。
夕方、買い物のついでにピータの森に寄り道しようと外出する前、守護になるネックレスをしておこうとして珊瑚を手にしたが、留め金の外し方を忘れて断念。それで、オレンジの貝のペンダントにしたのだ。

 それを今、なんとなくぼおっと見ていて、改めて留め金を外してみようと手に取ったら、直ぐにわかった。下の写真。

 留め金と枝の形、ネックレスの感じが似ているではないか。
 —―こうすれば、外れるピ
と教えてくれたに違いない。そして、この珊瑚のネックレスは守護としてよいものだと伝えている気がする。
 東大の動物言語学の研究者の方には、鳥はこのように枝を使ってパーソナルに話しかけてくることも研究対象に入れてほしい。もちろん手探りで、こちらの推測が大量に混入するのだけど、試行錯誤するうちに、
 ――ああ、これが言いたかったのか。
 とわかる。そのためには連続して記録を取ることや、日頃からよい距離感を保ちつつも、鳥たちとの強い心の絆を作ることが大事なのだ。
(たぶん、ムツゴロウさんも参加)
 

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