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JOE2



「息を止めるんだぜ!吸った後ぐーーっと肺に貯めて効き目を長持ちさせるんだ!ラスタがいつもそうやってる!」


カチッ、カチッ、ボーーー


ライターの火をケンジがジョイントに近づける

ちなみにジョイントって言うのはマリファナをタバコみたいに紙で巻いたやつのことをいう

ラスタがいっつもストックで何本か巻いて机に入れてるのを俺はくすねてきた

スゥーーーっ、、、ゲホッゲホ!!

ケンジはむせ返りながら火のついたジョイントを俺に回してきた
独特な甘ったるいような香ばしいような臭い
狭い団地の一室。424号室。
いつもそこに充満している臭い。
俺の家の臭い。

ユラユラ揺れる煙を一瞬みたあと俺も一気に煙を肺いっぱいに吸い込んだ。

グラっ、、グラグラ、、、

ゲホッゲホ!!!

「うぇ!なんじゃこりゃ!タバコなんかよりグッと重く感じるぜ!」

「ジョーちゃんはやく次はまた俺の番だろ!」

俺は少し涙目になりながらようやくむせるのが治まってきているケンジに煙を回す

ゲホッゲホ

ゲホッゲホ

ゲホッゲホ

そのやり取りを3回したくらいで一気に世界に変化が現れた

グイグイと体が引っ張られて曲がるような感覚
そして音の変化

俺とケンジはゆっくりと壁に背をついてニンマリと笑う

「へへへっ、、効いてたなぁケンジ、!」

「うへへへ、、こりゃすげぇや。、、うへへへ」

そしてそのあと俺達は時折聞こえるお互いの笑い声を聴きながらへたりこんじまった

なんでかっていうと初めての体験の俺達にはラスタが日常的に吸ってる上物のバッズのジョイントは強すぎたんだ

あの、やろう、、どこでそんなの仕入れてんだ

とにかく俺達はすっかりストーンにはいってしまってそのまま秘密基地の苔にすっかり溶けてしまった

目をパチクリとゆっくりさせると秘密基地の上の木の間から指す木陰がキラキラと光る、俺たちに降り注ぐ、優しい影は気持ちよくてまるで生きてるみたいだ。

遠くで一羽鳥がなく

クエエェエーーーーー

少し長めに響いたその音がファンファーレとなりさらに世界はゆっくりとゆったりとして幸福の扉が開かれる。

俺は目を閉じて幸福感を感じながら時折笑う。

吹いた風が形や色を感じさせながら閉じた瞼の裏に見える。ヒューと心地よく体を撫でて抱きしめて後ろに過ぎ去っていく、前からきた風が後ろにいく。

チョロチョロチョロチョロ

貯水池を流れる水の音が心地いい。
遠くで流れている小さな水の音が耳元で超高音質の快楽になって感じられる。

風、水、木漏れ日、太陽

いつもと同じこの場所のこの景色のはずなのに
美しい

俺はただそれだけを感じる
そしてそれを逃がさないように深く深呼吸をする。

立ち上がれなくなり気持ちのいい自然をかんじる

光はより大きく俺を照らし

風はより優しく俺を包む

音はより楽しく俺に流れる

そしてゆったりとそれを感じながら目をつぶっていると俺はいつの間にか眠りに落ちていた

目が覚めると太陽が沈みかけて貯水池と空を赤く染めていた

まだ少し気持ちいい

「おい、、おい、起きろよケンジ」

俺と同様に眠りに落ちていたケンジをユサユサと揺らして起こす

「なぁ、ケンジぃ、、きれいだなぁ、俺はじめて夕陽を綺麗だと思ったよ」

ケンジはポケーーっと口を開けながら池に反射する夕陽をみている。

風に時折揺れて夕陽が割れる。

ケンジはそれを見ながらニヤリとたまに笑いそしてまた口をあけて水面をみる

「なぁ、ジョーちゃんこんどはボーちゃんもいれて3人でやろうよ、夏休みが終わる前にさ」

「あぁ、きっとボーちゃんビックリするな」

いつもより3倍は長く続いた夕焼けを見ながら俺とケンジは約束した

秘密基地の秘密の約束だ

きっと、ずっとこれから続いていく毎日に俺達はキックを入れ続けて生きなけりゃらない。

嫌なことといい事を起こすために俺達は一生懸命あがく、嫌なことばっかりおこるかもしれないけれど何もおこらないよりはマシだと思う

家に帰る帰り道は2人で歩いてかえった

間違えてパクッたウィリアム・ブレイクは道端に捨てた

道端に落ちた天国と地獄との結婚はパラパラと風でめくれて少し寂しそうだったけど今の俺には必要ないから

いつもの団地の路地迷路を歩いて抜けて真ん中の広場でケンジとさよならをして424号室に向かう。


ガチャ

ドアをあけて俺はマンダラ柄の暖簾をくぐって部屋の中にはいる。

さっきまで使ってたマリファナと同じ臭いが染み込んでる家だ。

だが今日はそれにプラスアルファでカレーの臭いが充満している。

「はぁ、、、、」

ため息が思わず声に出る

うちの冷蔵庫のなかみの色々な食材がみんな限界を迎えたのだろう。

ゴミ箱に捨てる寸前をカレーはいつも救っている。

我が家ではこのカレーを神様カレーとよんでいる

「腐りかけの食材を救って美味しく食べれるようにするんだから腐りかけの神様だ!!」

とガミガミが宣言したのが俺が5歳のころ

その日は俺もラスタも2人して心臓と胃の上の方が少しキュッとしながら恐る恐る腐りかけ達が集まったカレーを食べた

そして次の日は二人共ひどい吐き気と腹痛でトイレからでられなくなった

「お前達の体の鍛え方がなってないからだ」

とガミガミは吐き捨てたがさすがに怒り心頭だったラスタが後日問い詰めると腐りかけではなく完全に腐っていそうな肉をぶち込んだらしい。

ガミガミ本人はそれに手をつけなかったからかろうじて悲劇をさけられたのだ

ガミガミは未だに食材を救うから神様カレーと呼んでいるが

俺とラスタは悪い意味で天に召されそうになってしまうから神様カレーとよんでいるがこれは内緒だ

このなんでも腐りかけをぶち込みスタイルの半分闇鍋のような作り方をされた神様カレーが今でも月に2回ほど作られる

ちなみに自分の身を守るためにラスタと俺の強い訴えにより今は腐りかけはよくても絶対に腐ってるのはいれない事という当たり前のルールが冷蔵庫に筆ペンで書かれて貼ってある

クンクン

この臭い今夜は何をぶち込んだんだ

「おいーーー!!また神様カレー作ってるだろ!!かぁちゃん!!」

「うるさいわね!!神様なんだからありがたがりなさい!!それにあんた!帰ってきたらまずただいまでしょ!!」

「はいはい、ただいま!今夜は何入れたんだよ、、やばい臭いするぜ」

「あら、神様カレーはいつだって食べてからのお楽しみよ!神のみぞ知るってね!」

「うるさいわ!神様じゃなくてかぁちゃんが知ってるじゃねぇかよ!」

「かぁちゃんにむかってうるさいじゃないでしょこのバカ!!この家ではかぁちゃんが神様なのよ!!オーーホッホ!!」

ぐぅぅーー

俺は歯を食いしばって鍋からはみ出ている何かしらの魚の尻尾をみて喋る気がうせて振り返って風呂にむかった


ザァーと体をと頭をあらって風呂に飛び込む


鼻の下まで浸かりながら俺はゆっくりと目を閉じる

目を閉じた空想の世界でカレーの神様が湯船の横にたっていて泣いている

赤と黒のウルトラマン柄のスーツをきてもじゃもじゃのヒゲを生やして頭にターバンをまいたかっこの神様


【⠀君はこうはなるなよ?こうはなっちゃいかん。カレーっていうのはみんなの憧れであるべきであるんだカレーは人気料理で子供が帰ってきてカレーの臭いがしたら喜ばにゃならんのだ、それなのに俺ときたら、、、情けなよな笑ってくれよ】


【⠀ふざけんな!!おまえ神様ならなんとかしろよ!!!ガミガミくらい説得できるだろ!!お前のせいでこのあと酷い目にあうんだぞ!!】


【 いいかいジョーくん、わたしはこの家のカレーの神様だ、なんてったって君の作り上げたカレーへの理想と現実のあわさったものが僕だからね、、、つまりこの家の権力をガミガミがもつ限り僕はどうしようもないのさ、実際にさっきもガミガミが言ってただろ?この家の神様はわたしだって。】


【⠀同じ神様だろ!!戦うくらいはしてくれよ!!】


【⠀あのねぇ、神様にもランクがあるんだよ、】


【⠀屁理屈ばっかりいいやがって!!バカヤロー!!】


【⠀ジョーくん、君こそ自分の世界の想像の神様に悩みをぶつけるなんて小さいと思わないかい?自分の家のカレーの問題は想像上の神様じゃなくて自分でなんとかしてくれよ、自分の責任は自分で持つんだ】


バシャバシャバジャ!!!!!


俺は水をふっかけて想像の神様を吹っ飛ばしてやった

「バカヤロー、、、」

俺は風呂をあがって決意をきめた

今日不味かったら本気で禁止にしてやろう

髪の毛を乾かす間にさらに決心は固まる

俺が反撃の狼煙をあげる

俺が革命家で俺が反逆者になるんだ

二度とカレーの神様と話をしないためにもそうしなきゃならねぇ

さぁ、かかってこいガミガミ特製神様カレーよ

ガミガミは俺の前にカレーライスをだす

俺は覚悟を決めてカレーを口に運ぶ

そしてそのまま一気に残りをかきこみ

そして皿を洗い場にぶち込む


そのままの勢いを殺さずガミガミの座るソファーに近づき大声で


「うまいじゃねぇかよバカヤロー!!!!!」


ガミガミはこちらをみて一瞬キョトンとして


「は、はぁ、、ありがとね」


今日にかぎってうまいカレーなんて作ってんじゃねぇぞバカヤロー!!!

俺はそう思いながら自分の部屋に足早に向かっていく

俺はイライラと満腹感でアタマがおかしくなりそうだ

部屋についたら俺のベッドに腰掛けたカレーの神様がいて


【⠀ふふふ、、、おつかれ!】


俺はマクラをハンマーにして全力で神様を殴り消し、そのままベッドに突っ込んだ

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