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「俺に連絡してこなくてえらい」


大好きだった元彼がわたしに言った。

それを言われたのはお正月だった。
この年の年末年始は同棲中の彼氏と離れ、お互い実家へ帰省することとなった。
もう社会人なわたしだけれど、お正月の日は「あけおめ」と、3分、、、いや、1分だけでもいい、電話をして声が聞きたかった。
それを彼に伝えると、「ごめん、電話は無理だわ」と、しっかり断られた。

家族で過ごしている時間を邪魔したくはないけれど、わたしだって実家に帰っているけれど、それでも少し声が聞きたかった。
同じ状況だけれど同じ気持ちじゃないんだというこの状況を、ちゃんと納得するのは少し難しくて、なんとなくやるせない気持ちで過ごしていた。
本当にこんな些細なことを気にするなんて、小さい女だなっていう嫌悪感も覚えた。

「わかったよ、あけおめ!」
そう告げ、家族とテレビを見ながら友達から来る「あけおめ」LINEを返信した。
ふと指が止まる。
大好きだった元彼から「あけおめ!」と、LINEが入っていた。
少し落ち込んでいた気持ちが、パッと晴れた。
「あけおめ!久しぶりだね!」
と、返した。すると、
「今少し電話できたりする?」
と、来たので自分の部屋へ行き、彼からの電話を待った。
彼と話をするのはたしか1年半ぶりだった気がする。

電話が鳴った。
高まる気持ちをグッと抑えて、冷静な感じで、、、
「もしもし、久しぶりだね、どうしたの?」
と、答えた。
「あけおめー!なんかゆぽと話したくて!」
と、1年半前のいつも通りの彼が電話越しにいた。
話したことは本当に何気ない会話で、久しぶりなのに、いや、久しぶりだからか他愛のない話に花が咲いた。

「年明けはさ、やっぱり電話であけおめって言いたくなるよね」

彼の言った言葉でわたしは少し涙目になった。
どうしてこう、1番好きな人とは結ばれないようになっているんだろう。
わたしは彼のこういう、価値観が一緒なところが好きだった。
「そうだね」と、軽く返事をした。
「ゆぽは彼氏さんと電話したの?」
彼の質問が刺さる。
「してないよ〜」
「そうなんだ、、じゃあ本年初電話は俺だね!」
何とも年下らしい可愛い発言にすこし、笑みが溢れた。
会いたい気持ちが溢れそうになった。
弱ってる時にそういうの、なんかずるいよねえ。

「ゆぽはえらいね」
突然彼が言った。
「なにが?」
「地震があったりするとさ、大丈夫?って連絡来るんよ、元カノから。ゆぽはそういうことしないね、えらいね、だから久しぶりなんだ」
そう言った。

そりゃああなたのことは好きだけど、彼氏ができてしまった以上それはしないよ。
でも彼氏が出来てなかったら、してたのかなぁ、、、なんて考えたけどやっぱりしないと思う。
地震に頼らず「連絡取りたくなったから連絡した」とか「会いたいから会えない?」とか、そんなシンプルなほうがわたしは好きだ。

「連絡すると会いたくなっちゃうからね」
そう言って「じゃあね、電話ありがとう」と、電話を切った。

未だに彼との楽しかった日々を思い返してしまう。
思い出に生きてしまう。
もし、また今彼と付き合えたとしてもあの頃の初々しさとかには戻れないのはわかってる。
あの時ほど大切にはされないだろうというのもわかっている。


それなのに忘れられないんだ。
過去の幸せを忘れる方法を、わたしはまだみつけられないでいる。

わたしが好きなのはあの時の彼。
そこまで理解しているのに、それなのに進めない。
わたしは一体誰が、何が好きなんだろう。

わたしがあの頃の彼を忘れられる日は来るのかな、何で忘れられないのかな、あの頃とは変わったことの方が多いのにね。
そんなことをしばらく経った今も思いながら、わたしは寝ます、おやすみなさい。

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