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「ツェッテルカステン」はどうやらメモのハウツーでは無いらしい

数十冊の書籍と数百本の論文を世に出したドイツの社会学者「ニクラス・ルーマン」のメモ術が欧米を中心に流行っているようだ。「ツェッテルカステン」というようで、このメモ術の解説書が日本に上陸した。以下は読んでみての感想である。

巷に多くあるメモのハウツー本の一つかなと思い読み進めていたが、途中から人間がどのように情報を記憶し理解するのかという学習理論の解説本に化けていた。学習方法とその効果に関する先行研究も多く参照しながら、人間がどのように学び、新しいアイデアを思いつくのか解説されている。メモに関する書籍といえば「メモの魔力」が流行っているが、本書は「メモの科学」といったところだろうか。

ツェッテルカステンとは、人間の学習理論に即した、無理なく長期的にメモを取るため方法であり、長期的に有益なメモを取り続けたい人のための心構えのことでもある。その心構えの中心的な考えは「自分の言葉で書くこと」と「メモとメモの繋がりを意識すること」の二つで、これらを意識してメモを取ることで学びが深まり、蓄積されたメモから独自のアイデアを生み出し発信することも可能になると強調している。

本書ではツェッテルカステンの具体的なやり方よりも、上述したメモを取る上での心構えの方を重視していている。日本語翻訳版の特別付録としてメモの取り方の図解が掲載されている。日本人読者を意識したものだろうが、単純にメモ術として模倣するのではなく、ツェッテルカステンの背後にある理論や考え方を理解するために本書は書かれている。

裏を返すと、心構えを外さなければ具体的なメモの方法は人それぞれでも良いのかもしれないと感じた。ツェッテルカステンの生みの親のニクラス・ルーマンはA6の紙とその紙を入れる箱を用いてツェッテルカステンを実装していたが、現在はツェッテルカステン専用のアプリも出ているようだ。どのようなツールを使うにせよメモを取り続けるための心構えが肝心である。

即効性のあるメモ術を求める人にとっては満たされない本かもしれないが、数々のメモ術の実践に失敗している人や、そもそもメモを取ることで自分の頭の中で何が起こっているのか興味のある人にとっては面白い本だと感じた。


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