『潰玉』再読感想(20230726)

『潰玉』の再読

薦めるからには読み直さねば、そう思い、
私は再びこの狂気に振れた——



はじめに

四宮式に物申す

再読の切っ掛けとしては、
物書きVtuber「四宮式」さんの「【文学】文学作品で学ぶ特殊性癖入門【四宮式/五反田えぬ】」配信で触れられていたことが大きい。

正直、『潰玉』を一介の物書きがちゃんと把握していることに驚きがあった。誰一人知らない本作を知っている人間に出会えるのは、個人的に軽い感動もの。
ただの芥川賞候補作、選評にもそこまで良いことは書かれていない。レビューもあまりない。知っている方が異常なのだ。

私はだいぶ昔、図書館で見かけてタイトルに惹かれて読みました。(当時から紳士)

しかし、この配信での触れられ方はいくつか致命的な点がある。

・描写の異常性に一切触れられていない
『潰玉』というテーマだけなら軽いSMで終わるところ、この作品はそれを淡々と……それも徹底的に主観を失わせているのがこの作品の真の狂気。そしてなおテーマに負けない筆力が……(略)

・そもそも「快感を覚えてない」
主人公は潰されることにコトに対して、「明確に快感を覚えた描写はない」(はず)、そんなチープな概念で本作は成り立っていない。本作において快感は「苦痛の裏側」にあり、文中には、苦しみを超えた苦しみの描写だけがそこにある。

この二点が大きく、「さてはてめー読んでねえだろ??」という疑念を持っている。(こんなツッコミが入るのは本人も予想外だろう。いや、私も人生においてこんなツッコミをするとは思わなかった)

※もちろん、人に薦めるにあたって「股間を蹴られて快感を覚えるおじさんの話」と言った方が食いつきがいいのは間違いない……。ただ、その触れ込みで読んだ人が本作の良さをつかみ取れるのか。なかなか難しい問題にある。

つづき

なぜ『潰玉』をおススメするのか

『潰玉』は個人的に85~90点の作品だ。
高い評価なのは間違いないですが、薦めるなら90点以上の作品にしたほうがいい、と思われるかもしれない。
たしかに、『SWAN SONG』(100点満点中300点)『装甲悪鬼村正』(100点満点中180点)『おらおらでひとりいぐも』(点数未設定だが100点近い)などの傑作は間違いなくあるのだが……、違うのだ。(無限におススメはします)

(大きな声では言わないが、自分が人生で学んだことの一つとして、どんな傑作も文章が読めない人に渡しても無駄なのだ。村正は長いだけで心が折れる人が続出し、スワソのラストの美しさに気づけない人間がいる。ふつうに文章を読めば読み取れるはずと考えることが、なかなか理解されないことに自分は驚いた)

ならば、変態の素養がある人に「変態」を取っ掛かりにしてこういった”文章を味わうための文章”に触れてほしい。そういった意味で『潰玉』をおススメし、こういった記事を書いている。

文章のレベルの高さについて

こういうところに着目してみると、純文学を楽しめるかもしれない。
もちろん、自分の感性で楽しむのを前提として。

「興味の遠近感」という高等なテクニック。 漢字で表記される亜佐美、沙紀に対してリッカ、ナギサ、マキはカタカナ表記。「結婚を約束した女」は名前すら出てこない。自然に見える客観的な文体も、興味のフォーカスがあるところしか記述していない。 想像すら及ばないその苦痛の先になにがあるのだろう

ramhomeTwitterにて

文章芸術の意義について

こういった文章芸術の意義として、

・人生、人間、世界への問いかけ、そしてその答え
・言葉にできない大きな感情・概念を文章であらわすこと

があると考えている。

本作『潰玉』では、
ただ睾丸を責められるだけではなく、その苦しみの中にある”なにか”を描き出した。

さらに、少し蹴られただけでこれだけの苦痛を齎すのに……その先にある不可逆的破壊、それは、想像も及ばない苦痛。
そして、その苦痛の先には、誰にもたどり着けない、神聖で侵しがたいなにかがあるのではないだろうか。——大変いい作品でした。

そして、私はある美少女ゲームの一節を思い出す。

Omnes una manet nox.
Dum spiro, spero.
Per angusta ad augusta.
Per aspera ad paradisum.

『euphoria』より

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