街と旅のはなし

日々旅にして、旅を栖とす。芭蕉のような境地が憧れです。

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  • キオクとキロク

    旅のワンシーンや、街なかの何気ない風景を書き留めたものです。

最近の記事

朝一番の〈かがやき〉から眺める山々

 思わぬタイミングでやってきた北陸への出張。早暁6時の東京駅で新幹線〈かがやき〉501号に乗り込んだ。 ■埼玉からの富士山  座席は進行左側。荒川を渡って、埼玉県に入るあたりから、車窓に富士山が姿を現す。新幹線からの富士山といえば、多くの人が東海道の眺めを思い浮かべるだろうが、北へ向かう新幹線からその姿が望めるのは意外かもしれない。幼少期と学生時代に埼玉に縁があった身としては懐かしい風景でもあるが、世間的には埼玉からの富士山はあまり話題に上ることはない。だから何となく、昔に

    • 稲田堤『たぬきや』にて

       こちらの「観光道踏切」の記事を目にして、ふと思い出した貴重な経験。それは、この稲田堤にあった川茶屋『たぬきや』で過ごした束の間のひととき。2018年2月10日、土曜日の昼下がりのことだ。  JR南武線の稲田堤駅から、まさにその「観光道踏切」を背にして、トコトコと多摩川まで歩く。多摩沿線道路を渡って、京王相模原線の鉄橋がよく見える土手を越えると、そこに『たぬきや』があった。  店内に入り、まず嬉しかったのは暖かいストーブ。我が子と一緒に訪ねたので、おでん、焼きそば、ジュー

      • 信濃路の車窓から

         モーターを唸らせて力走する115系の車窓から、朝の信濃路の爽やかな空気感が伝わってくる。2018年11月の初旬、上田から長野までノンストップの快速〈しなのサンライズ〉でのワンシーンだ。  前日の夕方、軽井沢で新幹線を降りた。中軽井沢で『かぎもとや』のそばを味わい、田中では駅前にある千曲川温泉『ゆぅふるtanaka』で温まってから上田に泊まった。  そして朝、往年の在来線特急の走りを思わせるこの列車で、善光寺参りに向かう。旧信越本線を気ままにたどる贅沢な旅は、115系電車

        • 湘南電車の残り香

           昼下がりの大船駅上りホームで、こんな案内を目にした。“湘南”の名を冠する「湘南新宿ライン」はともかく、北関東の群馬や栃木方面の駅名を行先に掲げて東海道線を走る「上野東京ライン」の電車が全盛の世にあって、“湘南電車”というフレーズには、遠くなりつつあるはずの昭和を、すぐ目の前にあるかのように錯覚させてくれる効用がある。  思えば、隣の藤沢駅には初代“湘南電車”の80系を模した店舗(Newdays)がホーム上に鎮座しているが、それもまたなかなかの存在感だ。歴史を感じさせるわか

        朝一番の〈かがやき〉から眺める山々

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        • キオクとキロク
          6本

        記事

          山の眺めと、211系電車と

           高尾駅にたたずむ、長野の211系。この電車に乗って、ゴトゴトと「青春18きっぷ」で旅がしたい。  長野へ。信濃大町へ。中津川へ。飯田へ。幾多の山も川も、そして時には、辰野や塩尻のJR会社境も越えてゆく頼もしい存在。特急列車でなくていい。彼らに身を委ねて、中部山岳地域ならではのダイナミックな車窓を、ゆっくりと眺めるのが小さな夢だ。ちなみにこの電車、東は立川まで顔を出す。さらに河口湖まで走ってゆく日もあるというから、令和の世にあって、その行動範囲の広さには恐れ入る。  山の

          山の眺めと、211系電車と

          闇夜の草津線

           伊賀の山々に抱かれた明治以来の鉄道の要衝に、クリーム地にマルーン帯のオリジナルカラーを残す117系電車の姿があった。深夜の柘植駅。8月も半ばを過ぎ、虫の声が時折聞こえてくる。  発車間際、ヘッドライトが灯り、二条のレールが闇に浮かんだ。今夜の草津ゆき最終列車。さあ、発車だ。  県境を過ぎ、油日、甲賀、寺庄―――と味わいのある駅名が続く。6両編成の車内に乗客はほとんどなく、しかも新月の夜だから、車窓は漆黒の闇。ここまで“無”の境地で117系電車に揺られることになろうとは。