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6 使用人達の私生活 (1)

バーンズ家の使用人達は、通いと住み込みが半々の割合となっている。

庭師―バンサは徒歩で7~8分の所にある小さな一軒家に、妻のシェリーと2人で暮らしている。
息子2人長男と次男、そして末娘の長女の3人の子供達はそれぞれ結婚し、独立して暮らしている。
以前はもう少し離れた土地に広い一軒家を構えていたが、子供たちが独立をし、近い処で居を構えた時点で、屋敷に近い今の土地を購入し、夫婦2人が快適に過ごせる家をと、新たに建てたのが5年前である。

妻のシェリーもガーデニングが趣味で、庭は2人で造り上げた自慢の作品でもある。
土地の約半分を占める庭を眺めながら摂る食事は極上の時間だ。
朝食、昼食、そして夕食までも外で楽しむ事はしばしば。
とても贅沢な時間を過ごすことが出来て、2人にとってはかけがえのないひとときとなっている。
シェリーは家事もまるで趣味のように、楽しみながらこなすことを好んでいる。
バンサの手弁当は勿論のこと、使用人仲間達に手作りジャムや手作りパンをプレゼントする事も楽しみの一つとなっている。

家を小さく使い勝手の良いような造りにした為、動線にも無駄が無く、孫達が遊びに来ても、いつも余裕をもってもてなすことが出来る事に、満足している。
無口なバンサに比べれば口数は多いが、おしゃべり好きと言う訳でもなく、穏やかな性格と言えるだろう。至って静かなこの2人は、喧嘩をした記憶が無い。
朝早くから仕事に出掛け、夕方に帰ってくるとすぐにシェリーの手料理に舌鼓を打つのがバンサの一番の楽しみで、酒は少し嗜む程度で、シャワーを浴びたらすぐに眠りに就くといった調子である。
なんといってもバンサにとって、家の中に漂う手作りジャムや焼き立てのパンの香りを嗅ぐ時が一番ほっとするひとときであった。
思い切りその空気を吸い込み眠りに就くのだ。
心地良い眠りでないわけがない。

そして最近のバカンスの時だけは、庭の世話を近くに住む3人の子供達に頼み、豪華客船の旅に出るのがここ数年の2人の楽しみである。
この時だけは思い切り、豪華な贅沢を満喫しようと決めているのだ。

普段の慎ましやかで穏やかな、丁寧極まりない暮らしも好きだが、たまに味わう刺激的な旅は2人の生活に、思いがけない彩りを添えてくれていることに、間違いはない。


(6 使用人達の私生活 (2) へ続く)


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