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AIは企業経営者になれるか

結論から書くと、「社会が認めれば、なれる」と考えます。


考えたきっかけ

先日、以下の投稿で「意識の統合情報理論」を前提にすればAIが意識を持ちうるという話を扱いました。

以前から「AIが感情を持たない限り経営者になることは難しいだろう」と思っていたので、そう遠くない未来に実現しそうなことに驚いたわけです。

企画系として実務で生成AIを活用している中で考えているのは、「どのように経営の支援にAIを活用するか?」という軸であり、「経営自体をAIで行う」ことではありません。

以前に「AIが経営をできるか?」と考えたことはありますが、やはり経営は意志が重要であり、意志は「~をしたい」という感情がないと生まれません。
そのため、AIに感情が生まれるまでは、AIが経営をする、汎用的に言えばAIが人間を超えることは無いだろうと思っていました。

上記投稿より

ということで、じゃあAIが感情・意識を持つのだとしたら、どのようにすれば経営者になれるのか?ということを考えてみようと思ったわけです。
ただ、先に言ってしまうと、「感情・意識を持つかどうか」に関わらず、「社会が認めれば、なれる」という結論に至ったため、思考の整理をしてみたいと思います。

経営者とは何か?

経営者と聞いたときのイメージは人によって異なるでしょう。

尊敬する経営者ランキングみたいな記事は定期的にビジネス雑誌の紙面を賑わせています。
ですが、特定の人物を再現するというのは難易度が高いので、今回は「マネジメント」に関するドラッカーの定義を使いたいと思います。

マネジメントには、自らの組織をして社会に貢献させるうえで三つの役割がある。それら三つの役割は、異質ではあるが同じように重要である。
 ①自らの組織に特有の使命を果たす。マネジメントは、組織に特有の使命、すなわちそれぞれの目的を果たすために存在する。
 ②仕事を通じて働く人たちを生かす。現代社会においては、組織こそ、一人ひとりの人間にとって、生計の資(かて)、社会的な地位、コミュニティとの絆を手にし、自己実現を図る手段である。当然、働く人を生かすことが重要な意味を持つ。
 ③自らが社会に与える影響を処理するとともに、社会の問題について貢献する。マネジメントには、自らの組織が社会に与える影響を処理するとともに、社会の問題の解決に貢献する役割がある。

引用元:ドラッカー『マネジメント[エッセンシャル版] - 基本と原則』

個人的には、一歩ずつ立ち止まって考えなければ理解が難しい、この文章がとても好きなのですが、ドラッカー自身が(おそらく)言い換えてくれている文章があるので合わせて以下に引用します。

成果をあげること、人を生かすこと、社会に及ぼす影響を処理するとともに社会に貢献すること、これらの課題すべてを今日と明日のバランスのもとに果たすことが社会の関心事である。

引用元:ドラッカー『マネジメント[エッセンシャル版] - 基本と原則』

これらのマネジメントが求められる役割に基づいて、以下の順番で考えてみます。

  1. 社会課題を捉え、解決できるか?

  2. 働く人々を幸せにし続けられるか?

なお、1は最初の引用における①と③を強引にまとめています。これは現代のサステナビリティ経営の文脈において「組織に特有の使命」(組織ミッション)と社会課題の解決及びESGが切り離せないという解釈からです。

社会課題を捉え、解決できるか?

ではまずこのテーマから考えてみます。
課題というのは何らかの理想像と現状との埋めるべきギャップのことなので、AIが「課題を捉える」ためには「理想像」と「現状」のインプットが必要です。
インプットと言うと、「インプットしない時点で自律的じゃない」印象もありますが、人間の経営者であっても何らかの外部情報を元に考えている点には注意が必要です。

すなわち、SDGsのようなグローバルな課題フレームワーク、日々の日経新聞の一面の記事、取引先の要望、感度の高い社員による提案など、課題を検討するためのインプットは数多く想定できます。
これらはすべてテキストデータに置き換えられますので、AIが把握することは可能です。

ChatGPTも社会課題を答えられる

では、次に検討すべきは「これらをどうやって解決するか?」です。
これは実は非常に簡単で、「指示に従い、実行する部下がいればいい」のです。

部下への指示を考えてもらう(後略)

その部下をどうやって採用・育成するのか、という疑問は否定しませんが、完全に0から創業する場合でなく、例えばプロ経営者のように交代で社長を務めたり、事業承継によって引き継ぐ場合などは一定の社員がいる状態でスタートできるので、案外、極論でもないのではと思います。

また、権限の問題で経営者が計画を承認しなければならないケースもあると思いますが、その際も何らかの基準に基づいて良し悪しを判断する、というタスクはChatGPTが普通にこなせる内容なわけです。

働く人々を幸せにし続けられるか?

再度、ドラッカーの表現を引用しておきます。

現代社会においては、組織こそ、一人ひとりの人間にとって、生計の資(かて)、社会的な地位、コミュニティとの絆を手にし、自己実現を図る手段である。

引用元:ドラッカー『マネジメント[エッセンシャル版] - 基本と原則』

そろそろ経営者の人に怒られそうですが、この内容も事業がきちんと継続できていれば不可能なことではありません。
正しく収益を計上できていれば「生計の資」を賄えますし、社会課題を解決するビジネスができていれば「社会的な地位」も問題ありません。
「コミュニティとの絆」(コミュニティ=社内コミュニティとします)は社内の人間関係に強く依存しますが、職場環境やエンゲージメントなどの人的資本KPIを管理することで改善していくことは可能です。

一つ問題があるかもしれないのは、「リーダーが人ではない」ことでモチベーションが湧かない可能性です。
カリスマ経営者であるにせよそうでないにせよ、リーダーシップは人に依存している部分があると思います。
要は、「この人だからついていこう」という感情です。

とは言えそこは価値観の問題なので、まずは「人じゃないからかえって信頼できる」人たちと共に成果を上げていけば、自然と世間の評価が変わっていくようにも思います。

社会として認められるのか?

主語を大きくする前に個人的な意見を述べると「別に良いんじゃないか」と思います。
自分が入社する、もしくは仕事の取引先に選ぶ段階では当然のことながら信頼性や実績を評価しますが、逆に言えばそこが人と遜色無ければ問題ないという風にも思うわけです。

しかし、一般的には「社長がAI」なんて「どう考えてもおかしい」ので取引してもらえず、銀行はお金を貸さず、社員は退職し、経営が成り立たないと思います。

当たり前

また、「企業経営者」の定義をあえてドラッカーの言葉を借りて抽象的なものにしましたが、「代表取締役」と限定するとそもそも人で無ければなれないと思うので、法律的にもNGです。

なので社会的に普通に受け入れられて、AIが自律的に運営するサービス、みたいなものがありふれていくのは流石に10年以上かかるかなと思います。
※10年後には、思春期をAIと共に過ごした世代が多く社会人になるので。

まとめ

経営者の機能的な面を中心に考えたので、現時点の技術でも「AI経営者」は実現可能だろうということにしましたが、「経営者の資質」みたいな内面的なことを考え出すと、まだまだ深堀りの余地は残っています。

私がこれまでに関わってきた多くの素晴らしい経営者の方々のうち、一人足りとも今のAIで代替できる存在はいないですし、替わりたいと思っている人もいないと思います。

一方で、後継者不足問題、マネジメント人材の育成にかかる労力・コストを考えると、「マネジメント」の役割をAIに任せることで社会の生産性が高まるのであれば前向きに考えるべきテーマであるとも思います。

ちなみに上記では触れませんでしたが、「責任問題」については「株主」が追うということで良いと思っています。そういう稀有な株主がAIに経営をやらせてみて、案外うまく行ったみたいなレポートくらいは普通に来年くらいには出てきそうですね。

あと、この手の発想は大して目新しくも無いようで、調べてみるとすでにサービスがあったりします…。
こういうサービスが盛り上がっていくのかどうかも注目したいところです。

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