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ヨーロッパで最も古く最も大きい眼科 ムーアフィールド眼科病院へ行ってきた その2

社会福祉士であり視覚障害リハビリテーションワーカーでもある筆者がイギリスの視覚障害者支援について2018年に視察研修したことを書いています。8回目はロンドンにあるムーアフィールド眼科病院 (Moorfields Eye Hospital)で視覚障害者支援のスペシャリストであるECLO(Eye Clinic Liaison Officer、日本語では失明時アドバイザーと訳す)にお会いした話のいよいよ本編です。

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写真は病院内のCVIオフィスです。

CVI(Certificate of Vision Impairment)とは日本でいうところの身体障害者手帳のような視覚障害証明書のことです。ちなみにイングランドとウェールズではCVIと呼びますが、スコットランドはBP1、北アイルランドはA655と呼びます。CVIは眼科医が作成し、これにより患者は視覚障害者と「認証」され、この段階で患者さんは視覚障害が弱視(sight impaired)と重度視覚障害(severely sight impaired)という2つのカテゴリーに分けられます。

あえて「認証」とかっこ書きしたのには理由があり、CVIが発行されると患者さんが住む自治体にその情報が送られ、自治体の担当者から患者さんに視覚障害者「登録」を勧める働きかけが行われます。CVIは「認証」と「登録」の二段階に分かれており、登録することによるメリットとデメリットがあるため自治体に「登録」するかどうかを決めるのは患者さん本人です。
NHSによるとイギリスの人口 約6500万人中、視力を部分的または完全に失った状態で暮らしている人は約200万人おり、このうち約36万人がCVI登録しています。


(1)ECLOの業務内容

今回インタビューさせていただいたのはムーアフィールドのECLOであるデビットさん。ご自身も弱視で、私が訪問した2018年の夏に貸与されたばかりのオスの盲導犬カドリーと一緒に自宅から1時間かけて電車通勤していました。

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写真はデビットさんのオフィス。休憩中のカドリーの写真も撮らせていただきました。写真の奥の方にカドリー用のスペースも見えますね~。

ムーアフィールドにはデビットさんを含め3名のECLOが在籍し、2名はフルタイム、1名はパートタイムで勤務していました。

ECLOの仕事の流れを簡単に説明すると、患者さんへの介入は眼科主治医からの指示によって開始されます。デビットさんは週平均で25名面接しており、そのうち患者さんが住む地域の自治体でのCVI「登録」を希望しない人は半数程度いるようです。

病院内にはECLOの他にも患者さんを支援する専門職のサポートチームがあり、サポートチームは医師からの指示で必要に応じてカウンセリングや感情的・心理的なサポートを行ったり、病院外でのサービスに関する実践的なアドバイスや情報を提供しています。デビットさんは「患者さんに利用可能な福祉サービスを教える事がECLOの一番のサービス」と言います。ECLOは患者さんの地元自治体との調整、自治体で実施しているサービスや受給可能な手当、就労に関する情報提供やアドバイス等、生活を維持するための具体的な支援について説明する事を最も求められています。まさにリエゾンオフィサー!!

デビットさんは「ムーアフィールドのようにECLOが常駐している眼科はまれです」と言います。理由は、支援を必要とするほどの重篤な患者が一般の眼科診療の中では多くないことと、一度ECLOのサポートを受けるとニーズが満たされ再度の相談に至りにくいためで、ECLOのサービス対象者が常に複数いる訳ではないからなのです。そのためイギリスの多くの眼科ではRNIBや地元の当事者団体に所属するECLOを月に数回派遣してもらい患者さんや家族への情報提供支援を依頼しているそうです。

私も規模が大きくとても忙しい眼科で常勤の福祉系スタッフとして1年ほど働いていましたが、全くデビットさんのおっしゃる通りで、支援を必要とするほどの重篤な患者さんは一般の眼科診療の中では多くありませんでした。なので、診療時間中は福祉系スタッフといえども視力測定や眼圧測定など簡単な検査をしていることがほとんどでした。どの国でも同じなんだな。


(2)ECLOから見たイギリスの課題

デビットさんにイギリスの視覚障害者福祉の課題を伺うと「地域での孤立です」とおっしゃいました。日本と同様にイギリスでも視覚障害者の多くは高齢者であり、視覚だけではなく他の身体的な問題があるので外出がしにくく家に閉じこもる傾向にあるからです。

また「高齢者だけではなく若年層にも孤立の問題はあります」とデビットさん。地域の普通校に進学した子どもは1校に1~2名しか視覚障害児がいないため特別扱いされたり、健常児なら問題になるようなことが起こっても「この子は視覚障害児だからしょうがない」といってスルーされたり、体育の指導等全てのカリキュラムの実施を健常児と同様に行うことが難しいことも、視覚障害児が学校内で孤立を深める原因となっているようです。

更に学校卒業後に就労していない場合、日中活動の場に関しても課題があります。チャリティー団体が提供しているサービスは高齢者向けが多く若者向けは少なく、障害者向けのデイサービスはサービス内容が重度障害者向けであるため視覚の単一障害の人は馴染みにくく「デイサービスを利用している事を周囲の人に知られたくない」と思ってしまう若い視覚障害者もいるようです。

しかし時は21世紀。若い人たちはパソコンやスマートフォンを使ってソーシャルネットワークを活用した交流をしており、地域での孤立解消へのいい方法になっているそうです。

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インタビューの最後にデビットさんとカドリーと私とで記念撮影。
お忙しい中、インタビューに快く対応していただき本当にありがとうございました。



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