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イギリスの特別支援学校にはリハビリ専門職がいる その2

社会福祉士であり視覚障害リハビリテーションワーカーでもある筆者がイギリスの視覚障害者支援について2018年に視察研修したことを書いています。10回目はロンドンにある特別支援学校リンデンロッジスクール(Linden Lodge School)を見学した話その2です。


首から下げる入校許可証…じゃない

リンデンロッジに在籍するROVI(Rehabilitation Officer for Visual Impairment)に面会予約をしていましたので、学校の入口でその旨を伝えますと見慣れない機械を操作するよう言われました。

その機械を操作するとですよ、じゃーん!

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手のひらサイズで、身体に貼り付けるシールタイプの入校許可証がその場で発行されました!すごくないですか?使いまわしの首から下げるやつじゃないんですよ。何このハイテク。何この高度文明。その場で撮影された私の顔写真も入ってます。グレートブリテン!!まぁ、ここは学校だけの設備ではないので来訪者も多いからかもしれませんけどね。

と、入口からテンション高くなってしまいましたが、いよいよ同業者であるROVIとご対面です。


校内にはわくわくがいっぱい

ROVIとして働くアリスタさんが案内してくれました。

まずは寄宿舎へ。寄宿舎は1日~通年で利用できますが自宅から1~2時間かけて通学する生徒もいます。

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写真は寄宿舎の共有スペースです。おしゃれー。カフェみたい。床の色は黒で机が白、イスは黄色とハイコントラストでロービジョンの生徒も見えやすいように工夫されています。壁には点字一覧のポスターも。

16歳の学生さんがちょうど宿舎内にいたのでおしゃべりしました。彼女は視覚障害があり、バスと電車を乗り継いで50分かかる自宅への白杖を使った単独歩行を練習中。6か月かかって学校から最寄りの駅まで一人で歩けるようになったそうです。ハリーポッターが好きで「キングスクロス駅に行ったことがあるんですよ」と。

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写真は校内にある白杖歩行訓練に使う小道。校内でROVIによる指導を受けて基本的な白杖操作技術を習得した後、校外での歩行訓練にステップアップします。道の両側に手すりがあったり縁石のように木材などが置かれています。舗装もされているので車いすユーザーでも移動しやすそう。イギリス人は自然の中を歩くのが大好きな人たち。ここなら障害の有無に関わらず自然を楽しめます。

校内の印象は明るく親しみやすさを感じました。中庭には音楽が流れる噴水や触れると鳴く動物のオブジェがあったり、廊下の掲示もカラフル。体育の授業や理学療法で使用したり一般にも有料で開放されている温水プールやハビリテーションを行う専門施設もあったりと設備の充実ぶりに目を見張りました。

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中庭の写真です。左側に噴水、右側の植え込みに動物のオブジェがちらりと見えています。

外部からの資金やマンパワーの導入も積極的で、校内に慈善団体によって設立運営されているClearVisionというユニークな図書館があります。ClearVisionは視覚障害の有無に関わらず楽しめるようにデザインされた児童書(点字やムーン文字で書かれた本や触る絵本 等)の郵便貸出図書館。イギリスとアイルランド全域がサービス対象地域だそうです。

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所蔵している本を見せてもらいました。写真の中の赤い本にはポテトチップスの空き袋が貼られていて、その左横のページには”Rabbits don't eat salt and vinegar crisps Then a mountain of ice cream and jelly.”と書かれています。これはウサギの育て方の本なん・・・!?

ClearVisionとは別に校内図書館もあります。

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写真右奥の棚に入ったカラフルなバッグはStory Bagといい、中身は車に関すること等、生徒ひとりひとりに異なる内容が準備されているそうです。

一般企業Apogeeからの寄付で作られ、その企業名が冠されたApogee Centreという体育の授業や講演会、PTAや演劇等で利用されている広い部屋もありました。

寄付をもとに作られたThe Isobel Centreも特筆すべき施設です。スタッフや生徒もファンドレイジングに関わり2億円を募って2013年ごろに建設されたこの建物は、各部屋には寄付した人の名前が付けられておりイギリスの寄付文化が感じられます。ここではスタッフの会議や生徒の家族との面会・面接、生徒向けの料理教室、障害のある幼児のいる家族の交流会、進路相談会等を実施しています。将来的には「全ての障害児やその家族にバースディパーティの会場として気軽に使ってもらえるような施設にしたい」と学校側は考えているそうです。バースディパーティの会場って!!コンセプトがステキすぎる。先生たちの眼差しが温かいよう(涙)。

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リンデンロッジのROVI

案内していただいたアリスタさんは日本へ旅行に来たこともあり「点字ブロックがいっぱいありましたね」と。さすが見てますね~同業者!普通の旅行者ならそこにはまず気がつきませんよ。

ここでのROVIの仕事について話を伺いました。2018年現在常勤3名、非常勤1名、ロンドン大学で2年間ハビリテーションを勉強中の職員が1名の計5名のROVIが在籍。アリスタさんは「この人数でも足りない」とおっしゃいました。仕事内容は校内での視覚障害リハビリテーションの実施(週2日)だけではなく、リッチモンド等近隣地区の学校への週1回のアウトリーチや自宅訪問等、幅広く活動しているそうです。学校外で仕事をするとその自治体からお金が支払われるとのこと。数少ない専門職を複数の自治体で共有しているんですね。

アリスタさんは「座学より生徒それぞれの能力に相応しい生活が送れるレベルまでトータルに支援する事が学校職員の共通認識です」と言います。「将来的には障害者と健常者がもっと交流できるようなことができたら・・・」とおっしゃっていたので、そのあたりは今後の課題なのかもしれません。

充実した設備を有するリンデンロッジ。とはいえ学校全体の職員数は減少傾向で職員一人当たりの負担が増えており「生徒の家族からの要望も多く、家族への対応も偏りなく平等にしなくてはならない事が大変です」と。現場の大変さが垣間見られました。

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ROVIの仕事部屋にあった白杖の写真を撮らせてもらいました。今見返すと、折りたたみの白杖は中ゴムが伸びちゃうから畳まずに伸ばしたまま保管して!とお伝えしたい。ちなみにこの文章のトップにあるパーキンスブレーラーが写っている写真も仕事部屋内の写真です。


リンデンロッジスクールは学校機能だけではなく複合的な支援施設でもありましたが、寄付で外からの支援を積極的に取り入れているところが私の目には新鮮に映りました。そして人間を人間らしく支えようとする支援者たちの温かいまなざし。児童や生徒を大事にしていることは校内の至る所で感じられました。




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