となりのばっぱは94歳
となりのばっぱは、94歳になった。じっちが、6年ぐらい前に亡くなり、それ以来一人暮らしである。70そこそこのころは、
「家の前ぐらい、までぇに(細かく丁寧に)草むしりしろ」
「玄関の数多の靴をなんとかしろ」
「洗濯物は3時までに入れろ」
などなど、なにかとうるさく言われたものだ。となりと言っても我が家まで150mぐらいあるので、次第に歩いてこられなくなり、静かになった。それでも、20mぐらいは歩いて、外に腰を掛け、我が家の子供らが帰ってくるのを待ちに待っている。お話好きのばっぱは、我が家の4人の子供らの性格をうれしそうに分析したり、25歳でこの村に移住してきた夫の物語が30分ほど続いたり(しかもこの物語をもう数十回も聞かされた)と、一度捕まると大変なことになるのだが、もう長い付き合いで、私にとっては両親がいなくなった今、親みたいな存在になり気持ち的に救われている。
私たちの運営しているデイサービスにも来てくれるようになり(こちらとしては話し相手が多いと大変助かる)、今では最年長となり、毎回帰るときには
「〇〇さん、来週も必ずお会いしましょう」
と言いながら涙が出そうになるという。
「もういつ死んでもおかしくないから」
と言いながら身辺整理をしているばっぱに、夫はいつも
「ひとつひとつ積み重ねていけば、また一年たってるから。」
と穏やかに語ってあげる。私のようなせっかちな人には、このような会話はもう神のように聞こえる。
小学校の頃は、とても優秀な生徒だったようで、教員になるよう進学を進められたが、父親が病弱だったため、家を出るわけにはいかず高等科へは行かなかったという。
「百姓の方が好きだったしな」
なんてことも言っていた。
94年の歳月がばっぱの頭には、走馬灯のように繰り返し繰り返し、なぞっていることだろう。私はありがたいことに、そのそばに寄り添っていられる。いいですよ、並走しましょう。最後までね!