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学生最後の珈琲のような旅①

木の葉の色彩は燃え尽きるようになり、雲は愈々光を通さない重みを持つようになる。気温は急激に低下し、呼応して人々の服も重くなっていく。そんな晩秋の夕方は人を感傷的に浸らせるには十分な能力を持っているようで、この私も例外ではなかった。


学生時代最後の自力の旅行。今回の旅は、とある集まりの「卒業旅行」も兼ねたものになった。と言っても私の学年は2人しかいないため、実際は単なる2人旅である。その行き先には伊予松山を選んだ。


昼間の時間を少しでも削りたくない私は、遠出するときは必ず深夜に高速を走る。深夜の高速は通行量も少なくてストレスフリーだ。そういう理由で普通は早朝に出発するものを日付が変わる前の出発にしてもらった。


当時は中国道の吹田付近で工事をしており、その区間を避けるために中国池田から高速に。中国道から山陽道に渡り、ひたすら西を目指す。1時間半ほどかけて岡山で最初のPA、福西PAに入った。真っ暗な山陽道の直線的な道路では眠気を覚ますものはなく、10分ほど寝ることにした。同乗者に気付かれることがないようにそろっとPAを出発。再び本線に復帰した。しかし、昼間もウロウロしていたため、各停電車の如くPAに停まっていく。なんとか気付かれずに広島県の手前、篠坂PAまで辿り着けた。ここで同乗者も起きたため、少しだけ休憩して隣の福山でコンタクトを付けたりしてもらった。

福山西ICで下道へ下りてコメダ珈琲で朝食。運転で疲れた脳みそには甘い朝食が嬉しい。再び同じシートに座って出発。国道2号線のバイパスへ上がり、ランプウェイを大きく左に旋回。西瀬戸自動車道、所謂「しまなみ海道」に入った。アーチ橋で尾道の前の狭い海峡を渡る。眼下には朝日を浴びて輝く尾道の市街地が見える。

橋は短く、すぐに隠れてしまった。向島の料金所を通過するとまた橋が見えてくる。今度は大きな吊り橋の因島大橋。橋台の上の路面のつなぎ目が大きな音を立てると車は海の上を走っていた。

因島へ上陸して散策した。

疲れていたことなんか忘れてしまった。

再び走り出して生口島へ2連の斜張橋で渡る。天気予報は曇りのはずだったが、太陽が見えてきた。多々羅大橋手前の瀬戸田PAに車を停める。2月の真冬にありながら、コートも要らず瀬戸内の温暖な気候を肌で感じる。目の前の多々羅大橋を渡ると大三島。

私の運転する車はそれからもいくつもの橋を越え、島から島へ跳躍するようにして瀬戸内海を渡っていく。

カーブを曲がると遠くに大量の白い塔が見えてきた。それは一瞬だけ見えたのが、少しすれば横から2本組の主塔が行儀よく並ぶ様が見えるようになった。来島海峡大橋だ。途中の馬島を挟んで3つの橋梁で構成されている。

これだけの橋が並ぶと車でと言えども時間がかかる。海の上、空の上を飛んでいるようだった。

渡り終えると大きく左にカーブ。橋が横から見える所に来島海峡SAがあった。しまなみ海道の白いオブジェを撮ったり、説明を読んだり。

渡り終えてしまった寂しさと四国に上陸した喜びとともに高速を下りる。すでにお昼も良い時間になっていたため、今治の市街へ出て昼食にすることにした。
同行者が昼ご飯を探してくれ、焼き豚玉子飯なるものを見つけた。そういった見るからに美味そうなモノには滅法弱いのでそこへ行くことに。今治城の有料駐車場に車を停めて徒歩で向かう。

しばらくすると出てきた。不味い訳がないこの見た目。もう記憶が古いので言葉では呼び起こせないが、間違いなく美味かった。そして、完全に満腹になった。

もはや運転できないくらい腹が重くなっていたので、散歩して胃を整理することに。今治城が目の前にあるので、これが打って付けだ。
本丸に入ってみると実に変わった使われ方をしていた。なんと塀に囲われた狭い空間に神社が3つも入っていた。どうも開発によって移転を余儀なくされた神社をまとめて移したものだったように記憶している。

30分ほど散策すると腹も落ち着いたので再び移動。同行者はムーミンが好きなので、偶然ムーミンの展示をしていたタオルミュージアムへ。運転自体は30分程度であったが、1日の疲れがどっと出て、半ば這うようにして博物館へ辿り着いた。着いたという安心感もあって、始めはしっかり見学していたが、後半はベンチに座ると少し寝てしまっていたようだ。しかし、これまた不思議なもので、再び体力が復活。見学を再開して土産物を買った。

駐車場へ戻ると太陽は低くなっていた。山の上にあった博物館から一気に標高を下げる。遠く平野の向こうには石槌山の白い峰々が連なっていた。東予丹原ICから高速へ上がり、いよ小松JCTを右に回って松山へ進路を取る。石槌山から分岐した高い峰々をトンネルと橋梁で越えていく。太陽を追いかけるように夕暮れの高速道路を走り、1時間ほどで松山の街へ着いた。

ホテルのチェックインを済ませ、荷物を整理してから道後温泉へ。松山城の裏にあるホテルから温泉までは20分ほどで着く。19:30頃になっていたので、商店はすでにシャッターを下ろしていた。

1日運転して疲れた心身には温泉が心地良い。疲れが流れて行くようだった。次は夕食。

21:00前になっていたが、何とか数軒は営業しており、鯛飯を戴いた。焼いた鯛での鯛飯はよく食べるが、このタイプは初めてだった。これも非常に美味である。左上のはとろろだった。鯛の刺身と、とろろの相性がこれほど良いとは知らなかった。

温泉の温かさと、夕食の満足感と共にホテルへ。部屋は2つ取っていたので広々だ。結局、電気も消さずに、知らぬ間に寝てしまったのだが。

1日目はここまで。とにかく車を運転した。一人ではなく、同行者がいるという緊張感で余計に疲れたように思う。

続きはまた来週に綴ろうと思う。それでは、今週も皆様にとって良き週末となりますように。


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