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絵画を楽しみ学べる最高の本 『366日 風景画をめぐる旅』|写真×エッセイ-3

「風景画ー美しき眺めへの招待」


この書き出しで始まる、『366日 風景画をめぐる旅』(著:海野弘 発行:PIEインターナショナル)。
ルノワールやクロード・モネ、ヴァン・ゴッホなど19世紀に活躍した画家の名や代表作は現代人なら誰もが知っていることだろう。「風景画」が絵画芸術として認められ、素晴らしい発展を遂げた19世紀の傑作が、ゆうに366作品、一年の季節に合わせて掲載されている。
本書冒頭では、風景画の歴史についてわかりやすく簡潔に説明されている。そして、一冊を通して19世紀のヨーロッパ絵画の背景にある文化や画家たちの生活についてのコラムが綴られる。

366風景画をめぐる旅_b

風景画から生まれる、詩、文学、音楽。多彩な芸術的感性の根源を知る

「1月」ランボーの詩が冒頭に紹介され、1月1日クロード・モネ「積みわら」で旅の幕が開く。雪の降った翌朝、日の出から間もない時刻を捉えた風景画だ。
(↓2枚目に出てくるからぜひご覧いただきたい。)

「セーヌ河のほとりジヴェルニーに住むようになったモネは、近くの農地で、収穫がすむと積みわらの山がつくられるのをみた。1888年から1891年にかけて、その積みわらを25点描いた。この単純な形が季節の光の中で刻々と変わっていくのを惜しんで、その一瞬一瞬をとらえたいと思ったのだろう。この雪の朝の絵は、新年のはじまりの豊かな実りを祈っているようだ。」(本文より引用ーP12)

366作品全てに、作家について、描いた場所やその頃の文化、そして絵画作品を鑑賞する際の着眼点と解釈について表現豊かに書かれている。
私たちがただその作品を見ただけでは、何がどう美しくどう良いのかというのが感覚的にしかわからない。しかし、作者の海野弘はその経験と知識に裏付けされた表現力を以って、絵画に見出すことのできる美しさや面白さ、ともすれば見逃してしまう、好奇心を刺激する隠れた画家の企みを私たちに教えてくれる。

本書の最も優秀な部分は、「芸術的感性を高める」ことと、「美しさを論理的に解釈し言語化する」ことに同時に触れられる点だ。絵画、音楽、詩、文学。異なる方法ながらも、美しいものに刺激を受ける心は同じ。一人につき一つ。絵を見て、そこから生まれる詩を読み、音楽を連想する。その一連の流れにより、感受性の根本を意識することができる。それにより、ばらばらとしていた感受性が真の芸術に対して働く一つの磨き抜かれたアンテナになる。

美しい景色は何のためにあるのだろう。私たちは美しい風景から何を得ているのだろう。
本書は、その答えを見つける旅にもなるだろう。

風景画をめぐる旅_2

(なかなか分厚い。プレゼントに喜ばれる)

蛇足だが、表紙の絵「セーヌ河の舟遊び」(ルノワール P229)は、アニメ「しろくまカフェ」の第25話「ペンギンさんの趣味」に、模倣画が少しだけ登場する。よかったら探してみてほしい。

作者 海野弘(うんのひろし)さんの、絵画を主題にしたおすすめ本3冊

海野弘の本

私は海野弘さんを、やはりPIEインターナショナル刊『花の美術と物語』で初めて知った。本気で画家に、小説家になろうと学び直し始めた頃だ。その知識量と表現力に感動し、以来、海野さんの生徒気取りで著書を買い漁っている。
その中で絵画を主題にしたおすすめ本3冊をご紹介する。

1、『ヨーロッパの図像 花の美術と物語

花と美術の物語

2017年発刊。会社勤めを辞め、花の絵を描き始めた頃、ふと立ち寄った美術展のグッズ売り場でこの『ヨーロッパの図像 花の美術と物語』に出会い、没頭した。
何かを真剣に始める時、まずこの没頭する時間が必ず生じる。そして、その時に得られる栄養はその後に必ずやってくる、挫折や無力感に打ち勝つためのエネルギーを補い続けてくれる。
中身の写真が見れるのはamazonページしか見つからなかったので、本屋さんなどでぜひ見つけてほしい。

2、『アルフォンス・ミュシャの世界

ミュシャ

ミュシャの絵の巧さ、デザイン性は常軌を逸している。ポスター画以外の絵画作品は主に油絵具で描かれているが、まるでデジタル画のような緻密さ、精密さ。常人には真似できない。ポスター画のデザインは言わずもがな。デザインの世界に多大なる影響力を誇る。この一冊で、ミュシャの生い立ちや制作の背景、作品群を余すことなく堪能できる。
こちらも、amazonページで中身を少し見れる。

3、『366日 物語のある絵画

物語のある絵画_1

『366日 風景画をめぐる旅』と対の本。聖書物語やギリシャ神話など、古代より伝わる物語を題材にした絵画がたっぷり楽しめる。凄惨なシーンを描いたものや、恐ろしい神様の絵など、怖い絵が多い。別に怖いシーンでないのに、画風が怖いというものも多い。表紙の絵もなんだか怖い。
絵画芸術について年代とジャンルにわけて説明書きがたっぷりあり、絵画芸術を学ぶには重宝する一冊。amazonページはこちら

この夏は自宅で絵画芸術を学ぼう

絵画を見て、ただ「ああきれいだな」と感じる他に、画面から読み取れるさまざまな情報や、なぜそれが美しいのかを言葉にすることで、感性はより一層磨かれ、日常生活でもその感性と技術は役に立ち始める。それにより、世界は新しい視点から見ることになり今までよりもあらゆるものがよくわかるようになるだろう。

この夏はぜひ、この本で絵画に親しみ、そこから感じるあらゆるものを言語として理解し整理するという別の関わり方も試してほしい。(幼児期の知育には絵本がよく使用されているが、情報分析や論理技術を磨くことにも大変役立つ。)

次回の写真×エッセイ

次回は、スイスの絵本画家エルンスト・クライドルフについて。

ではまた。

2021年7月11日 雨星立夏

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