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挽回

 

 私は、浪人して結局志望校にも志望学部にも行けなかったわけで、何なら休学もしたわけで、これらは全部私の中の引け目だ。中には浪人したことも留年したことも、笑ってネタにできる子がいることを、実際にこの目で見て知っているけれど、それでも私はまだそうはなれない。きっとずっとそうはなれない。思い出すたびに泣きたくなる記憶ばかりで、あの日の悔しさも、あの日々のやるせなさも全てくっきりと蘇ってくる。

でも、その浪人中に感じた「勉強することの楽しさ」であったり「夢を持つことの素晴らしさ」、「努力できる幸せ」というものは私の強みになっている。らしい。

本当は志望した学校で志望した学部に通い、思い描いた未来の中で、それらの思いを胸に「子供たちが夢を追いかけられるお手伝い」がしたいと願っていた。それが叶わなくなった現実で、私は切り替えることもできずただひたすらに落ちていった。

でも落ちている日々というのも、なかなかにしんどいもので、やはり希望を見出そうとする。人間しぶといなと思うけれど。

私が見出した希望は、NPOの活動だった。簡単に言えば子供たちに第三の居場所をつくる活動を行っている団体だ。詳しく言うと団体名がばれてしまうためここでは控えるが、その団体の掲げる理念は、まさに私が希望に満ちていたころに抱いていた理念そのものだった。


 その団体を見つけて、活動に興味を持って、1年ほどが経ち、満を持して面接を受けた。そこでも私は浪人中に抱いた理念を、内心泣きだしそうになりながら話した。そして、無事合格し、この春から活動が始まった。

その団体は、子供のことを大切にするとともに、子供に寄り添う私たち職員のことも大切にしてくれる団体だった。「尊重されている」「大切に思われている」と実感しながら働く環境はそうないと思う。

私が飲食店でアルバイトをしていて実感したのは、「働かせてもらう」という労働者側の思いと「働いてもらう」という雇用者側の思いが対等にあることの大切さだった。「働いてやってる」「働かせてやってる」に変わった瞬間、その関係性も職場も破綻する。

この団体にいる私は、やはり「働かせてもらっている」という感謝でいっぱいで、「働いてもらっている」という感謝を感じながら働いている。


 この団体で活動する上で1番の不安点は、私の長所の少なさだった。このNPO団体は雇用倍率も高く、その分経験豊富な、いわゆる「ふさわしい」と思える人ばかりが働いている。最初の研修期間の1か月は様々な方とお話しする機会があったが、教師をしている方・留学をしていた学生・作業療法士として子供と関わっている方などなど、子供との関りもほとんどなく、教育系の学部でもなく、人生経験も少ない私は気後れしてばかりだった。

しかし、メンターを志した理由として、浪人中のことや、子供と関わる中でもう一度夢を見つけたいということを話すと、みなさん温かい言葉をかけてくれた。

「子供たちと夢を見つけたいっていうのは、子供と同じ目線で頑張れるからいいことだと思うよ」

「浪人が失敗だったとしても、もうここでメンターになろうと決めて、挽回したんですね」

私はきっと、子供たちのように無垢に頑張ることはもうできないし、大学受験はいつまでたっても失敗で挽回などできない。だけど、ここで本当に子供たちと頑張ることができるのなら、私は私の失敗も引け目も胸に、もう一度歩き始められるんじゃないかと思った。


 実際の業務が始まってからも、働かせてもらっているという感謝は増すばかりだ。ふと自分の失敗や引け目が蘇ってきた時、自分を別の存在として小さな子供に見立てる。私は子供に「それは失敗だ」なんて言わないし、「引け目を感じながら生きろ」だなんて言わない。失敗はいくらでもしていいと思うし、自分を苦しめる引け目なんて捨ててしまって大丈夫。私が本気で子供たちに伝えたいと思うその言葉を、少しだけ自分にかけてあげるのだ。

私が子供たちを大切に思えば思うほど、私の心は優しくなる。私自身に向ける言葉はなかなか優しくはならないけれど、少しだけこれでもいいかと思える時間が増えた。

失敗はいくらでもして大丈夫。1つのことを目指し続けることはかっこいいことだと思われがちだけど、不安なら他の道も用意しておけばいい。それは決して逃げ道なんかじゃない。1つのことが見つからない、それも焦ることじゃない。分かった時にちゃんとその夢をつかめるように、選択肢だけ多く持てるようにしておけば大丈夫。失敗を引きずるのも悪くない。一生懸命だったことをそう簡単には諦められないから。でも、自分が苦しくならないようにもういいやと思えた時には迷わず次に進めばいい。

あなたの未来は明るい。

私はそう本気で思っている。今関わっている子供たちにも、これから関わる子供たちにも、本気で伝えていく。

あなたの未来は明るい。

だから私の未来もきっと明るい。


 


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