お釣りと魔法使い

レジでお金を払う瞬間。魔法使いは現れる。

使える魔法は一つだけ。

「魔法使いが買い物をすると、お釣りがきれいに出てくる」

あるとき私はハンバーガーショップで店員をしていた。

会計金額を客に伝えると、客は不思議な支払い方をしてきた。

例えば会計が603円だった時、1003円支払うのならわかる。でもその客は、私には不要に思える小銭を、私に突き出してきた。「?」そう思いながらも私はそのまま会計を続けた。

「505円のお返しになりまーす」・・・・え??

お釣りが・・・綺麗だ。・・・なぜ?・・・わからない。いくら考えても、なぜこうなったのかわからない。

その日は店が混んでいた。次から次へと客が来る。私は一心不乱に接客をした。だがその中に、何人も不思議な会計を済ませる客がいたことに私は気が付いていた。中には、「財布忘れました」「またどうぞ」という会計まで漕ぎつけなかった客もいた。

なぜあの端数の多い会計を、瞬時にしてきれいなお釣りに変換できるのか?

それ以来私は、彼らのことを「魔法使い」と呼ぶようになった。あれは魔法以外の何物でもない。お釣りの魔法使い。

たまに、不思議な支払いをしてくるので、(あ、この方も魔法使いなんだな)とわくわくしたら、「お釣り487円になりま・・・ん?」というただの失敗だったこともあった。彼もまた、魔法使いにあこがれる見習いだったのだろうか。

そんな出来事から数年。私は近所のスーパーに買い物へ行った。「604円です」レジのおばちゃんが私に言う。私は小銭をほとんど持っていなかったため、1000円を置いた。おばちゃんが私に言う。「5円か10円ない?」・・・?なんで?よくわからなかったが、私は言われるがまま10円を渡した。「はい、406円のお返しです」

・・・お。

お釣りがなんかすっきりした。でもなぜかわからない。家に帰ってからゆっくり引き算をすれば、わかる気がする。でもあの場で、瞬間的に、「10円だせばいい感じ」と思いつくことはできない。しかし、これだけはわかる。あのレジのおばちゃんもまた、魔法使いだったのだ。しかもその力を、私にも、分けてくれた。

私は何とも言えぬ高揚感でスーパーを後にした。

レジには、時々、魔法使いが来る。そして小さな魔法をかける。今日もわたしは大量の小銭で財布をぱんぱんにしながら、小さな魔法に思いを馳せている。

#ショートショート #小説 #物語

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