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サウナ行っただけの随筆

サウナに好んで行くヤツは被虐嗜好のマゾヒストでキショい。言うていたのも今は昔で、あいつらは別に好き好んで熱気に茹でられてたわけではなく、その先にはカタルシスがあったと身を持って知って以来、俺もすっかりサウナに憑かれてしまった。

お盆で父の実家がある和歌山に帰省した折も、最近やっとこ会得した運転術を活用し近所のサウナへ向かった。子供の頃から親が運転する車の窓から見ていたチェーンの温泉施設。幼心に残る景色の多くが、今や取り壊されたり建て替えられたりで移ろい変わってしまった中で、この温泉施設の店構えは変わらないように見える。行くのは初めてだ。

暖簾をくぐる。靴を脱いで下駄箱に入れる。受付で下駄箱の鍵を渡して金を払う。大人600円。中に入ると、意外にも綺麗な内装で、拍子抜けした。物心付いた時からあるもんだから勝手に田舎の古い銭湯だと思っていたが、良くも悪くもチェーン店らしく経年は感じられない。昔ながらのスーパー銭湯がすのこの木目やタイルの褪せに残すような時代の面影はここには無い。でもきっと、家族を乗せたステップワゴンの車窓から眺めてたあの頃から、この内装はあまり変わっていないんだろう。

脱衣所に入る。荷物をロッカーに入れて脱衣をする。フルチンで浴場に出てから、タオルを取り忘れたと気付きロッカーに戻る。今度はタオルという注釈付きのフルチンで浴場に出た。

どうせたっぷり汗をかくので、初めに浴びるシャワーは軽めで良い。肛門と陰茎陰囊を重点的に洗って体内から排出した糞尿のカスだけキレイにすれば十分である。次は湯に浸かる。サウナに先駆けじんわりと内部から体を温める。首までとっぷり使って浴場を伺うと、かけ流しの湯が流れる腰掛けに、ガキがM字開脚で座ることインリンの如し、チンチンは実に単純なシルエットをしていた。

体の芯がしっかり熱を持ったことを確認したので、いよいよ本丸サウナに向かう。これが極上であって、クッソ暑い。他店のロウリュタイムが永続しているイメージを持たれたい。サウナ内のテレビではアンガールズ田中の大回しでおバカタレント相手のクイズ番組をやっていた。突然デカい親指が画角いっぱいに写ったと思ったら、いつの間にか剃髪していたボディビルダーの横川某であった。コイツは業界に珍しく爽やかさがあるで評判であったのに、毛の無い筋肉ダルマと成り果てればなんとも陰茎的で、やはり髪はあった方が良い。

12分の所をそのクソ暑さに10分で切り上げて、すぐに水風呂へ入る。あアア冷たい冷たい冷たいッ冷ッ...?刺すような冷たさに備え硬直した筋肉がいささか緩む。ちょっとぬるいな 。でも深さがあるのは良い。おかげで容易に全身が浸かるし。ん〜〜60点。表層心理の裏側に確かにあるそんな評論を横目で見ながら、今はともかく肉体に集中する。しばらくすると体内から温度が湧き上がってくる。柔らかでじんわりとしたその種火は、いつもよりも心なしか弱々しいが、それでもあの酩酊感は予感させる。

全身に温度が行き渡り、皮膚と水との境界線が曖昧に塗られる。鼻下に迫った水面には埃が浮いて鼻息に揺れている。頃合いである。なるだけ体を水で打たないよう、ウミヘビのようにゆっくりとくねりながら水を出る。タオルを手に持ち露天に出る。真白いガーデンチェアに座る。目をつぶる。

脳のシワに溜まったカスやモヤや老廃物がゆっくり溶けてドロドロと頭蓋を滴りはじめる。流れたあとから葡萄の一粒一粒が脱皮したように水々しさに晴れてゆく。首筋から頸椎が、冷えた透明な繊維一本で繋がる。風音や光の揺曳が変形されることなく新鮮に感ぜられる。そうしてしばらく酩酊に酔う。数分経つと肉体は平静を取り戻し頭は覚めた。俺はもう1セットこれを繰り返した。2回目は1回目ほどの酩酊は訪れなかった。ガーデンチェアに座らずござに寝たからかもしれない。脳のどろどろを降ろすには重力の力を借りたほうが良いのだろう。あと俺の骨ばった体にはこの石床にすだれを敷いたような硬いござは相性が悪かった。

2回のサウナセットを終えて満足した俺は一日+サウナの汗を流しにシャワーに向かう。ハゲたくないのでゴシゴシ擦らないよう頭を洗う。隣には小橋建太みたいな恵体学生が座っていた。
体を流してから、脱衣所に入る前にきちんと髪を絞りタオルであらかた水気を拭き取る。すると脱衣所から入ってきた小学生らしき兄弟がチンコを蹴り合い始めた。少し体が大きく見える兄の方が強い。ブアカーオのように左右見事に蹴り分けてチンコを捉える。と、突然二人で向き合いくねくね踊り始めた。中々のシンクロニシティで楽しいのならまぁよろしい。そうして脱衣所に入りロッカーを開ける。服を着る。ストロングスタイルみたいなパンツ履いたジジイの隣りで髪を乾かす。荷物をまとめて脱衣所を出る。受付をすませて帰ろうとすると、受付台の右手に小型の冷蔵ショーケースが置いてあり、ビンの牛乳が売っていた。銭湯行った後のビン牛乳というのは、どうしてこうも人の心を惹いてやまないのか。油脂成分が舌に融着するようにして味蕾を刺激する。うめっ。好き。チュッ♥。

END

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