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これも「読み」ですか? 4

 現代川柳の「読み」、第4弾です。

 第1弾~第3弾はマガジンにまとめました。

 今回はいつも(勝手に)お世話になっている海馬さんが仕切る「海馬万句合」第二回で選ばれた句を読んでみます。過去の名句もリアルタイムな句も読むぞ!というわんぱくな構えです。

 選句は以下の記事からコピペしました。今後しばらくは、作者名が発表されたり、選者の評が発表されたり、おしゃべりイベントがあったりなどの展開が予定されています!

 では、やっていきます。

 題は4つ。それぞれ10句ほどずつあり、ぜんぶで40句超。ふー。ひとつひとつを短めに、一気にいきます。

 なお、コメントのいくつかはツイッターにもそのまま投稿しています。あなたもハッシュタグ「#海馬万句合第二回」をつけてつぶやいてみましょう。


① 題「星月夜」

☆☆☆闇☆☆闇☆☆☆
■星が見えるなら闇なのは自明だが、さらに念押しのように闇が来る。星空の面を文字通り浮き彫りにした壮大な凸版印刷方式。

マヨボトル(口は月型)、神隠し。
■神隠しに遭った星の代わりに月。当然、月齢によってマヨネーズの出る量が変わったり、口あたりがロマンチックになったりならなかったりする。

大小の吹き矢を放つ如来像を
■それを拝むとどんなご利益があるだろう、と膨らむ妄想にこそ如来像は吹き矢を放つ。破裂して散り散りになった妄想の醜悪さに嫌気が差し、出家。

塗る 塗る ダイアローグは滴って
■滴って「ぬるぬる」になったダイアローグは円滑そう。一字空けはただの空白でなく白く塗りつぶされた痕跡かも。この世のあらゆる白がそうかも。

(自分用)1:02 星月夜
■「星月夜」という曲の1分2秒目にごく個人的ななにかがあったのかもしれない。その場合、簡潔すぎて書いた本人すら思い出せず後で困るパターン。

プルトップ開けるあたまは未接続
■かつて飲料缶の飲み口にあった「プルタブ」があたまに浮かんだ。開栓すると缶本体からタブが切り離される(接続が切れる)仕組みだった。

乾いている暇のない鎌のカーブ
■カーブの月が濡れている理由、仮説1は血。殺人鬼は怖い。仮説2は雑草の水分。草刈りをありがとう。ただ、草刈りもする殺人鬼ならやっかい。

早まるなとマヨネーズのアティテュード
■ぼくマヨネーズ。だめだよ太るかも使わないで早まるな〜、的な態度か。今回2句目のマヨ句。あの星は川柳人にとって一等星以上の輝きなのだろう。

ぱり んぷ せすと (ほし を ありがと)
■以前書かれた内容を消し、別の内容を上書きした羊皮紙。なので、かっこ内は以前書かれた内容に思えた。誰かが誰かに言ったお礼、の上でやる川柳。

ここ 見てて ロバが立てなくなるシーン
■「立てなくなる」とわかるのは立とうとしているからだ。計算高い句の作りに悪だくみ感。無邪気を装った残酷さ。ロバの耳に入れないようにしたい。

もう一度点棒計算したかった
■どこが好きかを自己分析できているのがいい。冷めた言い方になるが、今際の際の発言は言葉の価値を底上げする。だからこそ分析の裏打ちを評価。

軸吟 猫ぎらいの彼奴まで渦を巻くとはね
■猫を嫌うのは渦を描いた画家本人か、作品を見た第三者か、あと「きゃつ」は CATSなのか。渦は句の中のどんな謎も飲み込み片付けるルンバ。


② 題「エノケンの笑ひにつゞく暗い明日/鶴彬」

マントルに向かうハイエースで吠えた
■地球の中心あたりまで、使いやすさのあまり盗難されまくる車で向かうらしい。たしかに耐久性は高い車ではあるが。蛮勇だろうと勇気は勇気。

ぶつぶつの手袋で集める紫煙
■作業の休憩時間、滑り止めの突起がついた軍手でたばこの煙をかき消しているのが見えた。でも軍手ではなく手袋。いや、軍手だって手袋だけども。

オノデンの坊やに注ぐシャンディ・ガフ
■坊やはビールカクテルを飲むだろうか。秋葉原という土地の独自性とシャンディ・ガフのほどよい変わり種っぷりはお似合いか。乾杯。

概念は襲われパパとなりにけり
■概念なのでどうとでも取れそうだが、ひとまず概念が襲われたのか「襲われパパ」になったのかで明るい句にも暗い句にも変容するぞ。油断するな。

The vanishing point vacuums laughter lines
■たしかに透視図法を使った新しい笑いじわの延ばし方は広く世界に通じる言葉で訴えるべき技術だろう、と、英語で書いたことにしたい。

光速−光速−Take the “E” train
■ジャズの名曲が流れているようなムード。きっと遊び心に満ちている。そのことだけがわかって、なんの遊びをしているかまではよくわからない。

脛を刈る音をたてない円相場
■音も出ないほど完全にきまった柔道技みたいな円相場? そこはかとなく円とそれ以外の通貨の対抗図式を感じるのも柔道のイメージによるものか。

鳩をかきまぜる いっかいやってごらん
■あれは鳩の群れを「かきまぜ」ていたのか。「蹴散らす」とか「おどかす」だと思っていたから新鮮だ。もう大人だけどいっかいやってみよう。

真空の完全がある/鶴彬
■いくら5音で使いよいとはいえ、いくら自句が題とはいえ、自身が川柳そのものになるのはどんな気持ちだろう。逃れがたい運命を見た。

軸吟 夕やけニャンニャン壺の中
■いったん出てこないか、みんな待ってるぞ、と言いたい。ほら、太陽には夕やけ以外の魅力もあるんだしさあ。なんかおまえ言い方おもしろいしさあ。

③ オーストラリアのアーティスト、パトリシア・ピッチニーニの作品

 (参照:Patricia Piccinini's hyperrealist sculptures
 https://www.youtube.com/watch?v=Z86MSk317nA

肉感を(とりっぷほっぷ)撒き散らす
■音楽ジャンル「トリップ・ホップ」を知らずにこの「とりっぷほっぷ」を目にしただけの者には、なんか題のイメージに近いっすね、がやっとで………

参鶏湯が熱いうちに潰す村
■いや、その言い方をするならほとんどの村がそうだ。あるいは、故郷を思い出させるための装置としての村か。「潰す」という動詞の覚悟感がいい。

123とてつもない5678
■「4」と言うのがやっとの隙間で「これはまったく道理に合わないぞ………」と呆然としている。句に2種類の時間が流れているかのよう。

理解室ひとつの鍵もありません
■ぱっと見で理解できないからこそ標榜する「理解室」だ。なんの鍵も与えられていないが、そもそも鍵があるようでは理解室ではない。

親子丼=きりひと讃歌=模型店
■単語の固有感。まったく知らない人の頭をよぎる走馬灯を見せられているよう。説明はないが、しかし確信としてきっぱりと「=」を使っている。

赦してやるけどメタはもらってくよ
■フィクションを楽しむ現代人としてメタの概念を奪われるのはかなりの痛手。まさしく「赦し」と引き換えでぎりぎり釣り合うかどうかの瀬戸際。

セックスの観覧席もあたたかい
■べつにこの席は特別な席じゃないよ、という並立の「も」だろうか。背徳の空間なのにやけにあたたかく迎えてくれる。なにかしら裏はある。

人として生きる気はないウナギイヌ
■なにか期待していたわけでもなく、別にがっかりしてもいないが、ウナギイヌはそうなんだ、と残る情報。そもそもなにとして生きているつもりだ。

フトッタネズミハワタシノテヲミチビイテ、チイサナクシャミヲヒトツブコボシタ
■たしかに個人的には題の作品の質感にハダカデバネズミを彷彿としたが、そのネズミとこのネズミが同ジネズミデアルホショウハナカッタ。

familyは代表的なオノマトペ
■厳密に考えれば、事象そのものの意味からは独立した、あくまで追加情報として存在するのがオノマトペ。だとすれば「家族」もまあそうかもな~

神話のバックヤードに回る
■個人的に、まだぎりぎり興味本位で「墓のうらに廻る」ツアーに参加できる程度の身なので、神話のバックヤードには怖気づいているが、まあいっか。

軸吟 家族ゲームへ皮ふのランプシェード
■題の作品と「皮ふのランプシェード」という有名な悪趣味と森田芳光の映画が結ぶ三角形。その一角を支えるのは松田優作の怪演だろうか。

④ 題「おれ」(西脇祥貴選)

二十票差で吾輩は猫である
■夏目漱石の脳内会議。次作のタイトルをどうするか。「吾輩は」までは決まっているが、吾輩はなんだ。猫、犬、鳥、象、餅、おれ………

空港におれドラえもん、性別おれ
■あっ、ふだんは「ぼく」じゃないんだ。きょうはオフですか。これから海外ですか。もしかしてドラミ、すいません、ドラえもんって言ってますよね。

お(れおれ((お[れおれ〈お〉れおれ]お))れおれ)お
■ひらがな17音17文字+約物シンメトリー。どこまでもおれの我を貫き通すおれ曼荼羅は「おれ」を崩壊させる。題「おれ」のありうべき終着点。

冬のドレス着せおとことだけ名乗る
■ドレスを着た本人ではなく、着せたほうが名乗っている。かろうじてファッションショーの舞台裏が考えられる。その場合の主役は当然ドレスである。

ずっと前ここには雨が降っていた
■こちらの主役は雨。ただ、過去に降った雨だという。そう知覚できるのは、わざわざそれを言葉にするのは、いったい誰なのだろう(A:たぶんおれ)

無視を終えDamn,Damn,と咲く祈祷
■無視で済ませず、ときには強く非難することも必要だ。いろんな「おれ」のいろんな祈りがいろんな花となることが許されているイメージ。

真夜中の脱衣所におれを捨ててく
■「おれ」の我の強さが醸し出す悲哀。無様と形容もできようが、そう言うのもやはりおれである。まとわりつく自意識との戦いにどんな結論を出すか。

どこにいるのよ 急に転ぶから
■前後が微妙につながらないあたり、声の主は複数かもしれない。行き先を告げずどこかに行くことも突然転倒することも許さない人たち。

おれである。豆腐の四隅くずしつつ。
■「ユーモラスな悲哀」が「おれ」のひとつのパターンとすれば、豆腐はぴったりくるアイテムだ。豆腐の隅を崩すおれは、また崩される豆腐でもある。

せんせい!ぶんべんだいに俺はなれますか?
■無邪気な響きが「出産の過酷さを知らず好き勝手をわめく男性」のようで一瞬目を伏せたが、明るさは将来の武器か。結論だけ言うと、なれます。

彼女がおれというときの涼しい眼窩
■を、鏡を見ながら真似するのはどうでしょう。実際に「おれ」と口に出して。そのうえでもう一度彼女のそれを確かめてほしいです。報告待ってます。

じゃない方のおれがおれと漫才をする
■じゃない方、という言い方で人称を複雑にされた同じ人がふたりいて漫才をする? 意味のミラーハウスのような句だと思った。

軸吟 だからそのトマトはおれに刺してくれ
■かなり無理難題を言うおれだ。軸吟、つまり「おれ」という題で集まった句を選ぶおれの句。自己主張は、あえて口にした選への責任感とも読める。

 以上です。短めコメントも積もり積もればさすがに長いですね。結局何句ありましたか。ぼくが数えたかんじだと、4京句ありました。投句されたみなさんと、選者の海馬さん西脇さんに、ありがとうございましたの11文字をお送りします

 ありがとうございました



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