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第172回「チューニングの日々は続く」

▼木曜日。朝の出アジト(出勤)時と夕方の退アジト(退勤)時と、一日に二度は電車に乗る。いずれも満員電車だ。押しあったり苛立ちあったりと、殺伐とした車内。わたしたち無免許医が打てる対策としては、まず出勤時間をずらすというものがある。病院の勤務医ではないのだし、そもそも無免許医なのだから、医療現場のしきたりに縛られる必要もない。しかし、わたしのような、ある種の「社会に溶け込みたい」タイプの無免許医は、むしろラッシュに飲み込まれたがっているのだから、つける薬がないというか、打てる対策がない▼いや、なさそうに思えるが、なにかできることがないかと毎日考えている。なぜなら、それを考えることもまた、社会に溶け込むための行為の一部、いや、もはや社会の一部そのものであるからだ。それはつまり、どういうことか。▼たとえば、殺伐とした空気に飲まれないためにどうすべきかと考えること。混雑した車内や駅構内で起きる苛立ちを他人に向けないためにはどうすべきかと考えること。答えは出ないかもしれない。職場を変えればいいのか、出勤時間を変えればいいのか、自分の心がけを変えればいいのか。やはりだめだ。答えは出ない。しかし考えるのだ。それがすなわち、社会に溶け込む/社会の一員になるということだ。細かいチューニングは、自分が社会の一員である限り、いつまでも続く。

▼これまでの無免許医



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