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白楽器 嘘から嘘へ陽が落ちる
現代川柳と400字雑文 その94
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幼少期にすこしだけ習っていたおかげで小島さんはいまもバイオリンが弾ける。といっても腕前は小2の頃のまま、あるいはそれより後退しているらしい。いまでは、たまに思い立って押入れから取り出して弾き、そのたびなんとか「音の出し方」を思い出せるようになる、というレベル。その際に不思議なのは、前回弾いたあと、そのバイオリンを押入れの一段目にしまったか、二段目(天袋)にしまったか、かならずわからなくなっていることだ。正確には、「一段目にしまったはず」と思って押入れを開けるとかならず二段目にあり、「二段目にしまったはず」と思って押入れを開けるとかならず一段目にある。なんだか気味が悪いが、たまにしか起こらないことなのであまり気にも留めていない。まあ、わたしの記憶の仕方がなにか変なんでしょうね、と小島さんは笑って、すぐに「でもね、なんかね、この先もしいつか記憶どおりのほうでバイオリンが見つかることがあったとして、それは、わたしがバイオリンの弾き方を完全に忘れたときなんだと思うんですよね。よくわからないけど」と付け足した。
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