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キミのため、やりきれない過去を宝物にしよう。

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皆さんは人を殺したことがありますか?
多くの人は「ありません」と胸を張って、
言い切れることかと思います。
僕は「無い」とは言い切れない、
友人を見殺しにしてしまった過去があります。

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その友人(A子とします)とは、
小学校からの幼なじみでした。
中学卒業以来、会っていませんでしたが、
同窓会で人づてに僕の連絡先を聞いたらしく、
「懐かしくて連絡した」とメールが届き、
メールをする仲になりました。

夜中まで他愛のないメールを
繰り返していた時のこと。
A子から「今から家に来てくれへん?」と
突然連絡が入りました。

別にすることもなかった僕は
「良いよー」と軽い返事をし、
自転車で5分の距離にある
A子の家へと向かいました。

家に入るとベロンベロンに酔ったA子。

すると、A子は突然「ウチ、1000万円の借金あるねん。男に借金持たされてなー」と大笑いし始めました。

僕は同調して笑える気分にはなれませんでした。

A子は表情こそ大笑いしていたのですが、
血が出るほどに歯を食いしばっていたからです。

それからA子の今までの話を聞きました。
18歳で結婚し、すぐに離婚したこと。
男は自分で抱えた1000万円の借金を
A子に押し付けて逃げたこと。
A子は借金返済のために水商売を始めたこと。
つい最近双極性感情障害だと診断されたこと。
借金や病気を理由に両親から絶縁されたこと。
妹がA子のために一緒に暮らしていること。

僕はそんな壮絶な過去の体験を
ただただ聞くだけしかできませんでした。
この時、僕とA子はまだ20歳。

若く知識の乏しい僕は「何かあったら、連絡して!すぐに行くから」と伝え、その場を後にしました。

その後は連絡をこまめに取り合い、
夜中に「海が見たい」と言うA子のために
車で2時間ほど飛ばして連れて行ったり、
「お子様ランチ食べよ」と言われれば、
朝方までファミレスで他愛のない話をしながら、
お子様ランチを笑いながら食べたり、
A子の赴くままの不思議な日々を過ごしました。

勘違いする人もいるかもしれませんが、
A子とは恋人ではなく、肉体関係もありません。 

そんな不思議な関係の不思議な日々を過ごし、
ある日からA子からの連絡が途絶えました。

僕は勝手に「新しいパートナーが出来たのか。或いは病状が安定したのか」などと浅はかに考え、僕からも連絡をすることはありませんでした。

連絡が途絶えた3-4日後のこと。
知らない番号から電話が掛かってきました。
電話に出てみるとA子の妹でした。

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「どうしたん?」と僕が聞くと、
妹は「A子、死んだ」と、か細いのに耳中を
駆け巡るような声で話始めました。

僕は認めたくない気持ちと恐い気持ちが合わさり、すぐにでも電話を切りたかったのですが、妹は続けて「A子は前から死ぬことを決めてたんやと思う。だから、最期にあんたに会いたかったんやと思う」と言いました。

僕はA子の初恋の相手であり、
A子は昔のような淡い気持ちに
戻りたかったようなのです。

体中の血が凍ったのは、
寒い冬のせいではありません。

A子を見殺しにしてしまったのではないか。
なぜもっとA子に寄り添わなかったのか。
医療や市役所に連絡すべきだったのではないか。
そもそもA子とのつながりが無ければ、
こんな想いをしなくて済んだのではないか。
答えが出ない自問自答を繰り返し、
僕は家から出れなくなってしまいました。

大学へ行けずダラダラと
毎日映画を観て過ごしていたある日のこと。
A子の妹から電話が掛かってきました。
正直、電話に出たくありませんでしたが、
何度でも掛けてきそうな気がしたので、
手を震えさせながら出ました。
「A子はそんなこと望んでないよ」の第一声。
妹は僕のことを気にしていたらしく、
僕の周りの人に僕の現状を聞いていたのです。

続けて妹は「姉ちゃんのためにも、楽しんで生きて。あなたと会ってた時の姉ちゃんは、人生で一番幸せそうやったから」と。

僕は声にならない声で「うん」とだけ言い、
それからは何事もなく現在に至ります。

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今でも寒い季節になると、ふと思い出します。

だからと言うと、すごくおこがましいのですが、「死にたい」と思っていても死なないで欲しい。

自分のためにも、周りの人のためにも。
どれだけ今は孤独で、世界を信じられなくても、その感情を飲み込んで欲しい。
必ず悲しむ人が居る。
少なくとも僕は二度と血が凍るような
悲しい経験はしたくないし、
同じ経験を持つ人を増やしたくもない。

最後になりましたが、A子のためにも、
無知な僕なりに今できる僕のベストを
尽くしたいと日々考え生きています。

メガッパ

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