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断病亭日乗

○37歳・男
○基礎疾患なし
○ワクチン未接種
○非肥満
○喫煙者

・8/26
前期追試験のため都内の大学へ。対象者16名全員が感染症陽性のため欠席していた。帰宅後、江戸川乱歩『火星の運河』を読む。

・8/31
ふと変な動悸を感じる。突然胸を内から殴られたような、壁に背をもたせていると反動で身が浮くほど強力、日に数回。直後に立ち上がると軽いめまいと嘔気はきけあり。永井荷風の『新帰朝者日記』とくと味読。

・9/4
動悸が続く。乗り物酔いのようなめまいがして、なにか読んでもなかなか中身が入ってこない。上記の大学から連絡、となりの教室で追試験を受けていた学生および教員全員が陽性・発症とのこと。早めに寝る。

・9/5
『パンズ・ラビリンス』と『鑑定士と顔のない依頼人』を観る。左足首を観賞中ずっと掻いていたようで、気づいたら爛れていた。虫刺されか。

・9/6
めまいと動悸がする。昼寝してもシャワーを浴びても変わらず、夕方念のため薬局へ行って抗原検査キットを購める。右左の膝裏に妙な張りがあり、歩調がおかしい。往復15分でどっと疲れるも発汗なし。帰宅して座り込むと深酒したようにぼうっとする。空腹のはずが食欲なし、ただ壁にもたれてじっとする。両膝の裏に柔軟体操で伸ばし続けているような痛みが出てきて、体温を計ると37.6℃。ぬるま湯に浸かっているような火照りが引かない。30分してまた計ると38.8℃。奮起して立ち上がったら天地が逆転しかけてへたり込み、カマドウマのように這い回って就寝準備。冷えピタ系がないのでハンドタオル数枚を濡らし絞り冷蔵庫へ入れておく。枕の上に冬用の掛け布団を重ねて背から傾斜をつけた仰向けで寝転ぶ。疲労感はなはだしく、上唇をかすめる鼻の呼気が熱い。眼球を動かすと脳髄まるごと引き攣るような刺激痛あり。まぶたを閉じてもぎんぎん脈打ち寝つけない。どれだけ水を飲んでも喉が渇いてたまらない。

・9/7
日付が回ったころ39.9℃。用意していた冷えタオルを額に置いて両脇に挟むが、どれも30分経たずふやけてしまう。尋常ではない発汗。両膝裏の張りと痛みが股関節にも及んで不快を極め、数秒おきに両脚を蹴り上げるように痙攣させていたが、そばの本棚に両足を乗せて高くしてみると少し楽になった。明け方40.4℃。眼窩奥の痛み、下肢の違和感、倦怠感がひどい。引き続き回転性のめまい、動悸も頻繁にドンと打つ。意識は混濁まで行かないが朦朧、ただし目は冴えている。吐き気はあるが嘔吐なし、咳なし、鼻水なし。頻尿。何度めかの用足しから戻ってきて、知らぬまに寝ていた。昼ごろ目が覚める。あまり変化なく重だるい。体を拭いて着替える。塩を振った水を飲む。味覚あり。39.2℃。横になり17時すぎまで眠った。喉にこぶのような腫れを感じる。重たい痰がひとつ出た。やはり鼻水も咳もなし。ようやく腹が減ってきたのでオートミールを粥にして梅干と食べる。症状に変わりなし、めまいだけ落ち着いている。38.9℃。このまま荒療治で大丈夫かと案じつつうつらうつらしながら、活力の回復を感じ始める。ただし眼球を動かすたび奥に痛みあり。そのうち寝た。

・9/8
ぐずぐず布団の中にいて、9時ごろ起きる。やはり喉が腫れているようで、水を一気飲みしたら引いた。38.2℃。倦怠感と下肢の違和感あり、目の奥も痛いが立ち上がってもふらつかなくなった。ものすごく腹が減っていたので普段食を口にする。昼37.9℃、夕方38.2℃、体感ぶり返しの気はしない。シャワーを浴びて寝る。

・9/9
起きたら喉が乾燥している。37.2℃、両脚の倦怠感と目の奥の筋肉疲労みたいな痛み、あと異常なし。買ったきり忘れていた抗原検査キットをやってみる。やり方にコツがあると薬剤師に言われたが思い出せないので、とりあえず綿棒を鼻腔に深く目頭あたりまで突っ込んでぐりぐりやったら、今回初めて鼻水が出た。結果は陽性だった。

・9/15
平熱36℃台に戻り、めまい・眼窩痛・下肢痛は失せた。倦怠感はある。ときどき胸の底の方で痰が絡むが、咳は出ない。毎夕の散歩を再開。日に数回は動悸がドンッと打つ。熱が下がり切ってから鼻詰まりがひどくなった。20時〜25時あたり特に詰まり、頭がぼうっとする。鼻汁は出ないが嗅覚味覚ほぼなし。

・9/25
いつしか動悸はしなくなった。夜半の鼻詰まりは軽快、熱感は消失、かわりに空咳が出るようになった。味覚と嗅覚は回復したようだが断定はできない。太腿から尻まわりが異常なほど細くなり、パンツのウェストが合わなくなっている。ためしに体重計に乗ってみたら夏前から10kg落ちており、身長ひく110を下回った。背骨がごつごつ浮き出ているのが触ってわかる。久しぶりに会った学生に「頬がこけた」と言われた。




そして、私はまた凶暴なる舞踊をはじめた。キリキリ廻れば、紅白だんだら染めの独楽こまだ。のたうち廻れば、今度は断末魔の長虫だ。[…]尺取虫が這うように、[…]芋虫のようにゴロゴロと転がってみたり、または切られたミミズをまねて、[…]私はありとあらゆる曲線表情を演じた。

江戸川乱歩 『火星の運河』






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