ファイナンス(企業財務)の基本㉑:「CAPM理論」について、まとめてみた

前回は「リスクの定量化」の続きで、「ポートフォリオと個別株式のリスク」について書いてみました。
今回は、前回までの内容の集大成的な位置づけになるのですが「CAPM理論」について書いてみたいと思います。

CAPM(Capital Asset Pricing Model)理論とは?

自分としては、CAPM理論を一言で表すと「株主の期待収益率rEを具体的に求める方法」です。(もちろん、本当はもっと深い意味があるかと思いますので、これは一つの解釈と思っていただければと思います)

CAPM理論に基づくと(実は、これまでに書いてきた⑮〜⑳をまとめる形になるのですが)、株主の期待収益率は、下記の式で表すことができます。

E(rE) = rf + β × (E (rm - rf))
 E(rE):個別株式の期待収益率
 rf     :リスクフリー・レート
 rm   :マーケット全体の期待収益率
 β   :この後、説明

上式の「β × (E (rm - rf))」の項を「リスク・プレミアム」といいます。
また、リスクフリー・レートrfは、通常、リスクがゼロとみなされる国債などの利回りを適用します。

ベータ(β)は、「市場全体が1%変化する際に、任意の株式のリターンが何%変化するか」を表したものです。

ベータが1より大きいということは、市場平均の変動よりもリターンの変動が大きいことを表します。
ベータが1である場合は、株式のリターンの変動は市場平均と同じことを表します。
ベータが1より小さい場合は、リターンの変動は市場平均のそれよりも小さい、低リスクの株式であることを表します。

 本来は、「市場全体が 1%変化したら、その株式のリターンは何%変化するか」を将来にわたって予測する必要がありますが、現実的には、それは困難です。
そのため、実際は、過去の対象株式の値動きと、同時期の市場全体の値動きのデータを集め、それからベータの値を回帰分析で推計することが多いです。

なお、リスクフリー資産(国債など)のリターンは、市場平均の変動にかかわらず一定と見なせるので、ベータはゼロです。

不確実性プレミアム

投資家側からの期待収益率という観点でみると、投資家は事業者よりもシビアな観点からリスクを評価するとも考えられます。

具体的には、下記のような要因を加味して、リスクを定量化します。

  1. 事業見通しの誤差の可能性

  2. 経済環境全体に激変が起こるかもしれないという懸念

  3. 業界平均には納まらないその会社独特の要因

これらは「不確実性のリスク」と呼ばれます。

この観点から、不確実性のリスクに相当するリスクプレミアム(「不確実性プレミアム」)を加味して、下記のように表すこともあるそうです。

期待収益率
= リスクフリー・レート + マーケットリスク・プレミアム + 不確実性プレミアム

不確実性プレミアムは、上記1~3の要因が小さな事業については無視できるほど小さくなりますが、大きい場合(たとえば、2008年後半以降のような世界経済の動きが不透明な時)は、急激に大きくなります。

CAPM理論でリスクを定量化する前提

CAPM理論は、企業(事業)価値評価のための割引率を求めるのにとても有用な理論ですが、以下の前提を置いていることには、留意する必要があります。

  1. リターンのばらつきは、正規分布に従う

  2. 過去のリターンのばらつき度合と平均値は、将来にも適用できる

現実世界では、「暴落・暴騰」というような大きな価格変動が、正規分布から計算される確率以上の頻度で起こることがわかっているそうです。

すなわち、1、2の前提は、現実には適用できない状況もあるということになります。それでも、1、2の前提を置いても合理的だと見なせる状況は多いと考えられます。

したがって、実務の上では、 CAPM理論を万能視することは危険ですが、前提の妥当性を確認しながら使っていくべきであると、個人的には考えます。

CAPM理論以外のモデル

CAPM理論は、そのシンプルさなどから、実務上も広く用いられているようです。

一方でCAPM理論には、限界もあります。過去のデータから回帰分析でβ値を求めるとしても、期間の取り方によって数値が変わったり、回帰分析で説明しきれない部分が残ったりするといった点が、よく議論になります。

詳細の解説は割愛しますが、証券投資の世界では、CAPM理論以外にも、さらに説明変数を増やした「マルチファクター・モデル」などが使われているそうです(正直、自分のレベルではCAPM理論で十分と思ってしまっているため、CAPM理論以外の説明はできません)。

事業価値評価への適用

前述したように、事業価値評価においても、事業価値評価の「割引率(細かくいうと、WACCの計算式中のrE)」を求めるのに、CAPM理論が使われます

具体的には、株式市場における株価推移データからβ値を求め、CAPM理論によって計算できる期待リターンを割引率(WACCを求める際のrE)として使用します。
株式を上場している会社であれば、自社のβ値がわかりますし、非上場の会社でも、類似の業種で上場している会社のβ値を用いることができます。

このことから、将来生み出すキャッシュフローが同じとき、事業の現在価値とリスクとの関係は、以下のようになることがわかります。

  • リスクフリー・レートが上昇(下降)すると、事業価値は減少(増加)する

  • (リスクフリー・レートが一定とした場合)株式市場全体の期待収益率が上昇すると、事業価値は減少する

  • β値が高まる(市場全体に対する会社のリターンの動きが大きくなると認識される)と、事業価値は減少する

今回は、ここまでにします。
次回、「企業価値と資本構成」について、書いていきたいと思います。

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