見出し画像

【エッセイ】キッカケ:初めての夜

私が本格的にハイキングやバックパッキングを始めたのは、2020年の秋だった。
山に一人で行ったら何か変わるのではないかと、何の根拠もない理由で始まったのだ。

マスタードカラーの帽子がトレードマーク

当時の私は希望を失っていた。
挫折を経験し屈辱を味わい、人生に絶望していたのだ。
自分なりに色々なことを試してみたが、何をやっても心から喜びを感じることが出来ずにいた。
私は一体何をやっているのだろう。

やる気の無い兎、ただのアル中

デイハイキング(日帰り登山)は過去に数回経験していたが、山で一夜を過ごせるほどのギアを持っていなかった。
ましてや秋冬のニューヨークの山なんて、寒くて凍死する可能性だってある。
私はネットやYoutubeを使って、山に籠るにはどんなギアが必要なのかを調べ始めた。
そして徐々にギアを揃えていきつつ、デイハイキングで経験を重ね、一泊二日のバックパッキングに備えた。
当時の私は、気づいたら休日のほとんどをハイキングに費やしていた。
山との週末婚状態だ。

パッキングをする兎

2020年2月5日(金)、決戦の日。
ペンシルバニア駅からニュージャージートランジットの電車に乗り込み、ニューヨーク市から1時間半ほどのタキシード駅へ向かった。
目指すはハリマン・ステート・パーク。
雪山が見えてきた時、私は胸をときめかせていた。
どんな冒険になるのだろう!

雪山に興奮する兎

が、山の中に入ってみると雪は予想以上に深く、トレイルにはハイカーの足跡がほとんど残っていない。
本来であればスノウシューが必要な深さだった。
また雪山と通常の山とでは景色が全く違い、トレイルから外れることもあった。
だが私は何かに取り憑かれたように前進していったのだ。
まるで目的地に旦那様が待っているかのように。

煩悩だらけの兎

3-4時間ほど歩いただろうか。
山の頂上らしき広くなっている場所にたどり着いた。
本来の目的地とは違ったが、これ以上進むのは困難だと判断した私は、今夜の寝床をそこに決めた。
もちろん誰一人いない。
雪が深いため足で雪を踏み、テント場を作った。
初めて張るテントに心が躍る。
お洒落な色のスモークグリーン。
テントから見える一面の雪景色。
私だけの空間。

アル中王国を築いた兎王妃

近くに大きな木が倒れていたのでそこから枝を集め、焚き火台に火をおこした。
夕日が落ちると寒さは増したが、焚き火が私の身体を温めてくれる。
焚き火台で焼いたステーキにかぶり付きながら、キンキンに冷えたビールと焼酎お湯割りを飲み干す。
ほろ酔いで透き通った夜空を見上げる。
お月様と星たちが私を照らしている。
ロマンチックな時間はあっという間に過ぎていった...

焚き火で暖をとる兎

ゴゴゴーーーーーー。
ザッザッザッ。

真夜中、寝袋にもぐりこんでいた私は震えていた。
寒い!(マイナス10度って)
風が強い!!(もはや台風なんじゃ?)
外に何かいる!!?(鹿?狐?それとも熊!?熊なわけはない)

自然界の恐怖に私はほとんど眠ることができず、寝不足のまま朝を迎えたのだった。

寝不足で目が開かない兎、そして下山



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?