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ララちゃんへ #わたしと海(2023/7/26追記)

ララちゃん、これはママが小学生の頃のお話。

星に手が届きそうな真夜中に
私達は大きなワゴンに乗り込むの。

それは私にとって、おそらく妹にとっても
年に一度の大イベントだった。

海なし県に住む私達は
深夜に出発するスタイルで海に向ったんだ。
誰が決めた事なのかは分からないけれど、
子供の頃は「海は夜出発するもの」と
当たり前のように思っていたんだよ。

ママも親になって、
共働きだったじぃじとばぁばが、私達を思い
仕事から帰って来て、準備を整えて
そのまま深夜に出発するという
何とも弾丸な旅を毎年していてくれた事に
心から「ありがとう」と感謝状を贈りたいくらい。

ママはね、ずっとこの日を楽しみにしていたの。

「はやく出発の日になって欲しい」
それと同時に
「まだ出発の日になって欲しくない」
このジェットコースターみたいな気持ちを
散々繰り返すんだ。

そして、とうとうその夜が来るの!

寝ぼけながらワゴンに乗り込んで、
ビーグル犬のピックも一緒だったよ。
大興奮のピックがね、後部座席を倒したシートで寝ていた私の顔を踏んできた。

おじいちゃんが大人しくさせたんだけれど、
何かトントントンと音がしているなぁと思ったら
それはピックがしっぽを振っている音だった。

起きるとまだ朝方の道路を走っていたよ。
でもね、車に流れ込む空気や匂いで明らかに違う場所にいるのが分かるの。

「見えてきた!海だ!!」

ママは胸が高鳴ったよ。
「今年も来たよ!」って胸の中で挨拶するの。

海に誘われるように
私の両腕を温かい風がすり抜けていく。

その瞬間から
わたしと海の時間がはじまるんだよ。

#わたしと海

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