勉強は家でできるなんて死んでも言って欲しくない

「勉強は家でやる」が当たり前にできる人たちは、自分がいかに恵まれた環境にいたのかを認識していただいて、それが「普通」だと思う感覚を改めて欲しい、とコロナ騒動で思うことが増えました。

公立の小中学校に通っていれば、それが「普通」ではない子どもがいることがわかるはずなのに、遥か昔の記憶で忘れてしまったのか、それともそういった子たちが目に入らなかっただけなのか、どちらにせよ、もっと周りの人に目を向けて欲しいと感じます。

学校はライフラインです。

よく言われるのが、文字の読み書きです。これを当たり前にしたのは、日本の教育の大きな意義の一つです。知的に遅れがある子も、平仮名や片仮名を使って文章を書くことができるのは、日本語の優れた点でもあります。

これを家庭で当たり前に教えられれば、理想的です。でも、現実はどうでしょうか。親からまともに文字の読み書きの手ほどきも受けずに、学校に入ってくる子ももちろんいます。漢字に至っては、学校や塾に丸投げしている家庭も多いのではないでしょうか。

文字の読み書き一つとっても、これを一から全部家庭で行うのは、相当な労力を要します。自分で勉強をする、というのはさらにそのもっともっと先の話です。私が見ているのは中学生ですが、中学生になったら自動的に自分で勉強できるようになるかと言われたら、そんなことは全くありません。全て小学校からの積み重ねです。

生徒たちがどんな家庭環境であろうと、経済的に苦しかろうと、義務教育においては平等です。同じように教育を受けることができます。ただし、それは学校の中のみです。一歩学校の外に出てしまえば、勉強どころではない生徒もいます。そしてそれは一人や二人の話ではありません。

家に帰って、親の代わりに家事をしたり、下の子の面倒を見る生徒がいます。

親や家族との関係が悪く、日常的に虐待を受けたり、夜遊びをしたりする生徒がいます。

経済的に苦しく、消耗品や日用品すらまともに買ってもらえず、給食で一日の食事のほとんどの栄養を賄っている生徒がいます。

知的や情緒などに障害があり、自分一人で勉強を進めたり、普段と違う環境で集中したりすることが難しい生徒がいます。

そしてこれらは複雑に絡み合い、簡単には解決できない問題であることが多いです。数年間教員をやってきて、これらの要素をもった生徒が一人もいないクラスなんていうのは、一度としてありませんでした。人数としては決して多いわけではありません。ですが、必ずどのクラスにもそういう生徒は存在していると考えてもらって構いません。

インターネットを眺めているとよく見るのが「自己責任」もしくは「親の躾がなってない」理論です。「自分はできた」「周りはみんなそうしてる」という少なく狭いサンプルが、さもスタンダードであるかのように大きな主語によって語られているのを見ると、虫唾が走ります。そもそも、インターネットでそういった持論を展開できる人たちは、ある程度恵まれた環境にいるわけですし、本当の社会的弱者はネットの世界で自分の意見を述べることすらできません。経済的に苦しい親を持つ中学生は自分のスマホを持てません。

恵まれた環境の人間が、恵まれない環境にいる人間のことを100%理解するというのは、きっと難しいと思います。恵まれた環境にいたと自覚している一教員である私も、全ての事例に完璧に寄り添うことは不可能です。なんでこんなことくらい、と思うことも少なくありません。

ただ、忘れてはいけないのは、当たり前ができない子どもたちは、自分でその環境を選んで生まれてきたわけではないということです。その親もまた然りです。そしてそれを、たまたま恵まれた環境にいた私たちが外側だけを見て批判してはいけないのです。

令和2年3月2日、新型コロナウイルス流行による一斉休校で、学校というライフラインが絶たれました。

令和2年4月7日、いくつかの都市を対象に緊急事態宣言が発令されました。幸い、私の住んでいる地域は対象から外れましたが、休校延長が入学式・始業式の前日に急遽決定しました。この状況がいつまで続くかはわかりません。

テレビのワイドショーやネットニュースでは、発言力のある人たちが各々の考えをあれこれ自由に述べています。発言力のある人たちの多くはきっと、恵まれた人たちです。もちろん、長い人生の中でその人たちなりに苦労はしてきているでしょうが、それでも成功を掴み取るだけの土壌があったはずです。しかし、世の中にはその土壌すら与えられていない子どもがたくさんいます。

勉強は家でできる。

休校措置をめぐって、嫌というほど目にした意見です。本当にそうでしょうか。緊急事態宣言が解除され、平穏が戻った後、振り返ってみてください。あなたの周りの子どもたちは、本当に家で勉強をできていたのかどうか。そして、上には上がいるように、下にも下がいると、想像力を働かせて考えてみるきっかけにしてみてください。

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