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君の隣⑩ずっと言えないこの気持ち

家に戻ってきたが、動揺して落ち着かない。
控室で
「彰人くんのまつ毛って長いね。」
って、顔の近くでにっこり微笑む水樹が可愛すぎて…
昨日の病室でも…
静かに眠る水樹の姿があまりにも綺麗で、気持ちを抑えきれずキスをしてしまった。

俺は水樹の事が、初めて会った時から好きだった。
俺が水樹に会ったのは高校3年の春。
俺の所属する写真部に入部してきたのは水樹と流風だった。
ブカブカの制服で可愛い水樹は、部員たちにあっという間に囲まれて困っていたっけ。

笑顔が可愛くて、誰に対しても優しく、自分の事は後回しで人を気遣う。
自分は無理をしてでも、みんなを気遣うから、『俺たちが水樹を見てないと』という気持ちから始まったのかもしれない。

初めの頃は全然信用されず、頼ってもくれなかった。
初めて心を開いてくれたのは高校1年の5月。
水樹の愛犬が死んだ次の日、みんなに言うと心配するからと、1日中我慢して黙っていた事があった。
1日何となく様子がおかしいから、帰り道で何かあった?と尋ねたら、ぽつりぽつりと愛犬の話を始め、初めて俺の前で泣いた。
その涙があまりにも綺麗で、泣くのは俺の前だけにしてほしい、と思ってしまった。その日、俺は水樹の事が好きなんだと、初めて自覚した。

流風は今と変わらず言いたい事をはっきり言う奴だった。
卒業式の直前
「先輩、水樹の事好きだよね?」
流風はニヤリと笑って聞いてきた。
「お、お前…」
「だってさ、先輩わかりやすいんだもん。」
「え、あ、あの…」
「先輩もうすぐ卒業じゃん、俺がしばらく水樹の虫ガードしておこうか?」
「頼む」
「はやっ」
それから2年間、流風に状況報告してもらいながら、悪い虫がつかないようにガードし続けてもらい、無事水樹が同じ大学に入ってきた。

大学でも、水樹は人気だった。
男女問わず、毎日のように水樹に近づいてくる。
彼方此方から声がかかるから、それを今度は流風と2人で水樹に気づかれないように阻止していくのはとても大変だった。
手に入れられないなら、誰のものにもさせない。
傲慢だとわかっていても、止められない自分がいて、自分自身が少し怖く感じていた。

一生俺の気持ち伝える事は無い、そばに居られればそれでいい。そう思ってたのに…
「それも限界って事か…」
「彰人くん、何か言った?」
「あ、いや、何も。」
「やっと終わったね。明日でラスト。」
寂しい…もう少し恋人役でいたかったな。
「ああ、そうだな、明日も頑張ろう。今日も一緒に寝るか?」
「あ、うん、まだ1人で眠れそうにない。」
また苦しそうな表情…
俺も辛くなる。
「大丈夫、俺がいるから。ゆっくり休めるよ。」
俺は水樹を抱きしめながら眠りについた。

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