ナンバMG5、伍代くんの軌跡 ~難波家崩壊編② ドラマ最終回まで~
今週も深夜に失礼。どうも太刀川です。ナンバMG5のドラマ、ついに最終回ですね。いや、すごかった。この残り時間で全部終わるのかよぉおおお~~~!!なんて思ってましたが、めちゃくちゃ綺麗に終わらせてくれました。ウルトラCです。その分「もしかしてここから一転して絶望に叩き落とすのか……?」という恐れはあるものの……。
ま、ここから劇場版を作るとなると不穏な気もしますが(校長周りの挙動がどうも怪しいですし)このドラマはハッピーエンドなんだ! そうなんだ! と自分に言い聞かせることでとりあえず次に進みましょう。原作のデッドエンドの最後をマジで劇場版でやったら、全国の劇場が情緒の墓場になりますからね。プロデューサー、悪魔だよアンタ!!
毎度のことながらネタバレが多いので、先に原作を読んでから読むのをおすすめします。
このシリーズの初回はこちら
ちなみにドラマ版の最終回はこちらで一週間の間見ることが出来ます。
伍代くん、難波家へ
さて、このところは、先週なかったので、てっきりカットされてしまったのかな~~と思ったところなんですが、なんとドラマスタッフ、ちゃんと入れてきてくれました。
原作だと、渋谷のグリとグラが登場したあたりです。剛は伍代の家で同棲中。グリとグラは剛を餌に猛を呼び出そうとします。しかし、家出中の剛は猛に頼ろうとしません。見かねた伍代くんは、そのまま……
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難波家に乗り込みます。難波家の両親に剛のことを伝える伍代。
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剛がずっと悩んでいたこと、家族にひどいことを言ってしまったことを後悔していることを二人に伝えます。絵面がご両親への挨拶みたいになっていますが、まあ概ね間違っては居ないし……。
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帰り際のお父さんのセリフがいいんですよね。お父さんやっぱり嬉しい。剛には、ここまでしてくれる友達がいるんだから。あえて顔を見せないのもいいです。原作この回のお父さんとお母さん、本当に表情が良いんですよ。シンプルな絵柄なんですが、心に来る。
その後、伍代は猛に、剛がグリとグラに絡まれていることを伝えます。
「アイツはヤンキー一家に生まれて いやおうなく暴力の世界で育ってきたけど、見つけたんだ」
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作中最強の人間である猛にも一歩も引かないこの態度。いいですね。その後、伍代が帰ってから一人でベンチに座って
「剛がいいやつだって……?」
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って呟くシーンがすごい好きなんですよね。表情が堪らない。伍代がいくら距離をつめても、やはり兄弟の絆は強い。ドラマ版でもここらへんの再現度が高すぎてびっくりしました。
兄弟の和解(原作では)
その後、原作では、剛は渋谷のグリとグラに絡まれて喧嘩になります。圧倒的な強さで二人をボコボコにする剛ですが、本当は喧嘩をしたくない。なんで自分の周りにはこんなクズばかりが寄ってくる?剛が暴力を捨てようとしても、過去が暴力とともにつきまとってくる。逃げ場のない、泥沼のような人生。もはや明るく楽しいヤンキー漫画は終わり、気がつけば世界は暗く終わりの見えない暴力だけが吹き荒れるゴミ溜めに変わってしまっている。
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所詮、色々と理由をつけても、自分の振るっているものは暴力なのだ。渋谷のグリとグラはそれを象徴するようなキャラクターです。結局のところ、剛もこいつらクズと同類じゃん。っていう。(これ、先週の記事と被りますね)
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単身、グリとグラを倒した剛ですが、心は晴れません。
しかし、そこに伍代から話を聞いた猛が現れます。
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「オラァな オメーもさ… オレらと同じだと勝手に決めつけていた… 強さで… 存在を証明するっつーか… 強けりゃ強いほどカッケーと思っている人間 だってオメーは男だし 難波勝とナオミのガキだし。
――オレの弟だから」
このシーン、コマの運びとセリフが本当にかっこいいんですよね。猛の気持ちが淡々と漏れ出しているというか……是非単行本で確認して欲しいんですが、ドラマだとここが完全再現されてたのがマジで良かったです。あ、ここをラストに持ってくるんだっていう。
猛は知らず知らずのうちに、弟である剛のことを決めてつけていました。自分と同じ喧嘩が大好きで、暴力を誇るような人間だと。でも、本当は剛はそうじゃなかったんですね。
成長した剛の喧嘩を見た猛は問います。「お前が本気になれば全国制覇だって可能だろう。それを捨てちまってお前は満足なのか?」
剛は答えます。
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剛の本当にやりたいこと。それは喧嘩で最強になることでもなく、ヤンキーとして名前を刻むことでもなく、大切な友達と一緒に、普通の高校生活を送り切ることなんですよね。
それを聞いた猛の表情が本当に良いんですよ。
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お兄ちゃん……。メンチ切ったいかつい顔から、ふっと優しい顔になるこの瞬間。たまらないですね。難波猛という人間はバカだけど、一本筋の通った人間として描かれています。だからこそ、この言葉が心からのものであることはよく分かるんですよ。
男らしさの行き着く先は
原作のテーマに関わる話をしたいと思います。
人間ってなんでも決めつけてしまう癖があると思うんです。こいつはこんな格好しているからこうに違いない。それだけでその人全部をわかった気になってしまう。ナンバMG5の作中でも「どうせヤンキーでしょ」みたいなセリフがバンバン出てくる。でも、それって勝手に決めつけて分かった気になってるだけなんですよね。
猛が自分の弟のことを全然知らなかったように。
ドラマ版ではカットされてしまいましたが、ナンバMG5の作中には「カマくせぇ」という言葉が何度かでてきます。ヤンキーの価値観って「男の世界」なんですよ。そこでは喧嘩が強いとか、男らしいことが一番の価値で、それ以外のものは認められない。性差別だというとそうかも知れませんし、だからこそドラマではカットされたセリフだと思うんですけれど、この価値観って作品のテーマ的に凄い重要だと思うんですよ。例えば1巻の時点から触れられているんですけれど、
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剛が絵を描くのを止めてしまったのって猛が原因なんですよね。ヤンキーの家では絵を描くなんて行為は「カマ臭い」ものだから。
剛が大っぴらに絵を描くことが出来たのは、そんな家庭を離れてからのことだったんですよね。油絵だって家に持って帰れないから公園で描いているわけで。
吟子が剛の描いた絵を見て「兄ちゃんにこんな一面があるなんて知らなかった」っていうシーンあるじゃないですか。剛は本当は色んな才能があるのに、家族はそれを知らないし、見ようともしなかったんですよね。
価値観の相違というか、生きている世界が違う。
でも、その「男らしさ」の行き着く先は……結局止まることのない暴力の連鎖なんですよね。ナンバデッドエンドはその虚しさに切り込んでいっている作品だと思うんですよ。
でも、猛は変わることができた。ボロボロの剛を前にして、猛は始めて剛に向き合って、そして弟の価値観を認めるんですよ。
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この一言が本当に重い。猛は自分と違う価値観の世界を認めることができたんです。ドラマ版がこのシーンをラストに持ってきたの、こう考えてみると必然だったような気もします。
家族の物語としてのナンバMG5
さて、猛につれられて、剛は難波家に戻ります。今まで嘘をついていてごめんと土下座して謝る剛に、とーちゃんは「お前は悪いことなんてしていない。ウソなんてついてない」と言います。
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「生まれた時ゃ元気に育ってくれりゃいいや…なんて思っていたのに どんどん期待がデカくなっちまってよ…自分にできなかったことガキに期待しちまって……」
ナンバMG5の設定が秀逸なのって、ヤンキー物をやりながら「親の期待に答えようとする子供」ってのを描いているんですよね。勝のこの独白って価値観がヤンキーでなければどこでもあるものですし。
子供に中学受験させる親の気持ちというか……
七巻でサラッとでてくる内容ですけれど、剛が喧嘩強くなったので、母親を喜ばせたい気持ちもあったんですよね。
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剛は家族のことが好きなんです。価値観がちょっと違うけれども、それでも大切な家族で、だから裏切りたくなくて……
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でも勝は、ここではっきりと「お前が好きなことをするのが、父ちゃん一番うれしいよ」って伝えるんですよね。めちゃくちゃ泣ける。猛と同じように、あまり賢くない描写がされる父ちゃんですが、要所要所でしっかり父ちゃんとしての器のデカさを見せてくれるんですよね。父は偉大なり。
こうして、剛は難波家に戻ります。めでたしめでたし。
……一方、その頃伍代くんは、家に残された松の餌皿を拾い上げて寂しそうな顔をするのでした。
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正直になろうぜ、伍代くん!
さて、いかがでしたでしょうか。伍代くんの話をしたかったんですが、気がついたら難波家の話をガッツリしてしまいました。だってドラマ版が本気出すから……。
さて超ハッピーエンドで終わったドラマ版ですが、一つ気になることが。実は原作は、ドラマ版の最終回の続きも少しあるんですよね。ていうか、あのドラマのハッピーエンドから、急転直下して絶望に叩き落とすというか……(それでも鬱ENDにはならないわけですが!)
ドラマ版、よくみると、長谷川先生とか、恨みを持つ校長とか、このあとの展開のために必要な要素を地味に散りばめてるんですよね。まさか……まさかやるんですか??この続きを???劇場版とかで???大丈夫??劇場に行ったファンの情緒が虐殺されない???
今、私の中で、ここで終わらすのがいいんだろうが!というのと、いや、最後までやるのがいいんだという気持ちがせめぎ合っています。なお、この記事は伍代くんがいかに凄いキャラなのかということを広く世間に知らしめるためのものなので、この後の原作最後までの内容もまたどこか別の所で書こうと思います。それではまたそのときに!