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夏景かな、夏景かな

大学受験の内申点欲しさに早朝からゴミ拾いボランティアに行った日、荷物から目を離した隙に携帯電話と電子辞書を盗まれた日、はじめて自分の意識から現実味が消えた日、化女沼レジャーランドのそばで「あなたのことが好きです」と気になる異性から打ち明けられたけど、風が吹くたび空気中に漂う堆肥のにおいが気になって正直それどころではなかった日、全て夏だった。

夏はなんでも楽しいし、おいしい。
中でも夏の観光名所は最高、だいたい“涼”があるから。




学生時代、ランドスケープデザインという講義の一環で、福島県南会津下郷町に位置する『大内宿』へ足を運んだ。茅葺屋根の民家がずらりと立ち並び、水路では瓶ラムネがキンキンに冷やされているのを眺めつつ、あちこち散策したのが思い出深い。

自由時間には同期たちと売店でしんごろう(五平餅に似た郷土食)を買って食べながら「お昼ご飯はなんだろう?」と予想しあった。「お昼ご飯はこの講義の履修生みんなで一緒に食べますよ」と事前に講師から説明があったのだ。女子大生の胃袋、底無しである。

「やはり宮城県からわざわざここまで来たのだから、この辺で有名な“ねぎそば”ではないか」と私が言うと、生葱が苦手だという同期が「それは困る!」と青ざめた。ねぎそばは大内宿周辺で味わうことができる名物のひとつで、生葱を箸のかわりとして、麺をたぐって食べる一風変わった蕎麦だ。

しかしながら私の予想は大外れ、ソースカツ丼。とある民宿の大広間で網戸から入る風を感じつつ、みんなでぺろりとたいらげた。

今年の夏はゲリラ市街劇のようだった。突然アツいオープニングが始まったかと思えば、いつの間にかエンドロールが流れていた。先日、妹とその友達が我が家の玄関でやっていた手持ち花火の焦げたにおいが家の中にも流れ込んできて「あ、夏終わったな」と感じたのだった。いつ始まったというのだ、夏は来る前に1通、私にDMをよこして欲しい。でも好きすぎる、夏。

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