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実績と信頼と言葉の重みと

久しぶりに就労移行支援事業所に顔を出した。受給者証の更新のために。

そこで支援計画を作ってくれる担当の社会福祉士と話をした。

「赤城さんは能力のある方だからいずれは社会に復帰して――」

またか、と思った。できたらとっくにしてるわ、と怒鳴りそうになった。

どうも僕は健常者に見られがちだ。外面がいいからだろうか。

前の会社でも最後、精神的にボロボロになって、なんとか出勤したものの寝込んでしまうようなときでさえ心配する言葉はなく、サボってると怒られた。

辞めようかと親に相談したときも根性が足りないと怒られた。

僕も僕でそんなもんかと満身創痍の心で働き続けた。結果、心が壊れた。いや、正確に言えば「また」壊れた。

親が事の重大さを知ったのは、主治医に怒られたからだ。そのときは通院すら一人では行けないくらいだった。

就労移行支援事業所に通い始めてからは、もちろん就職する気でいた。できると思っていた。むしろ担当のスタッフがセーブするくらい気合いが入っていた。

だけどいざ実習、見学の段階になると引きこもるようになってしまう。それも一度や二度だけではない。

主治医は「生活保護受けてるんだから無理しないで」とずっと言っていた。「人それぞれの生き方がある」と。

今年の6月あたりから約2ヶ月、僕は通所できなかった。通所どころか家事も身支度もなにもかもができなくなった。そこでようやく気づいた。僕はもう働けないんじゃないかと。

だけどもう一度だけ頑張ってみた。結果はこの通り。

統合失調症とPTSDが絡まって、自分が働いているイメージ(職場の雰囲気とか、人間関係とか)を想像すると軽いパニックみたいになったり、悪夢にうなされたりと心がかき乱される。その結果、統合失調症が悪化して無気力になってしまう。電池切れのような感じ。

就労移行支援事業所の担当の人は、まあ、立場もあるのだろうけど「能力があるから、体調さえ整えればすぐに就職できる」と言い続けた。

僕はギブアップしたかった。心も折れていたし、なによりこれ以上心を乱したくなかった。今度こそ入院か廃人になると思った。

担当の人が納得したのは、通院同行で主治医の話を聞いたからだ。

先生は普段よりも噛んで含めるように話をした。正直、笑いそうになるくらい。

次は市のケースワーカー。この人も「まだ若いんだし、経験もあるんだし」とせっついてくる。人それぞれ立場があるのはわかるけど、それにしても執拗だった。

この人が納得したのもやはり主治医の話を聞いたからだ。人が変わったかのようだった。まだ11月だし、異動じゃないよなと思ったくらいだ。

みんな、先生の話を聞いてやっと納得する。

その前に同じことを何度も何度も僕が言い続けてきたのに、それには一切耳を貸さなかったのに。

そして今回、社会福祉士にそう言われ、挙句の果てには病院を変えてみたら、なんて言われる始末で。

就労移行支援事業所の担当の人も「その発想はなかった」みたいな感じで。

「薬の調整でなんとかならないのかな?」って言われたから、「今の病院ではたぶん無理なんで、それこそ病院変えてコンサータっていう薬を出してもらえればできると思いますよ」と言った。

コンサータとはナルコレプシーやADHDの治療に使われる覚醒作用のある精神刺激薬のこと。

担当がその薬について調べて、「それならいまのままのほうがいいね」と言った。当たり前だ。

障害者福祉のプロでもこうなのだから、実社会なんてもっとひどいだろう。

だから怖い。他人なんて信用できない。


僕の病気・障害を説明するのはすごく難しい。ある程度主だったものはあるにせよ、その時々で症状が違うから。

でも、ただ一人、僕の言葉を受け入れてくれた人がいる。行きつけの飲み屋のマスターだ。

僕はふらっと寄って飲んだくれていた。

会社を辞めたときも行って、その日はボトルを2本空けた。

おそらくマスターは、僕が壊れていく過程を見ているからわかってくれたのだろう。診断こそされていないけれど当時の僕はほとんどアル中だった。

この店のことはいずれ機会があれば別で書こうと思う。

とにかく、そのマスターだけが僕の言葉を受け入れてくれた。

たまに呼ばれて手伝いをしているのだけど、そのときはやっぱり怖い。そんな優しい、信頼できるマスターの店で、なのに。最初の1時間くらいはガチガチ。

それでも懲りずに声をかけてくれるから、マスターには感謝してもしきれない。

人が信じられないと書いたけれど、マスターのような人もいる。

要するに自分が傷つきたくないんだ。当たり前だ。過去に散々痛めつけられてきたんだから。これ以上誰が好き好んで傷つきに行くんだ。

痛めつけられて、抉られて、自尊心を蹂躙されて、プライドなんでズタズタだ。ボロキレのほうが役に立つ。

それでも誰にも恨みは無い。最後、こんなダメな自分だけが許せなかったけど、それももう大丈夫。

思ってたより長くなってしまったけど、最後は僕の、世界で一番好きな作家の言葉で締めくくろう。


人生は見かけどおり醜いが、あと三、四日生きるには値する。なんとかやれそうだと思わないか?――チャールズ・ブコウスキー

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