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創作小説『やせたいオトコノコ。』 第6話 デブはハブ?

得意のバレーで優勝、そして打ち上げも満喫し笑顔で帰宅した晴太郎を落ち込ませたものとは??

※今回の投稿には登場人物が特定の体型の方や動物を非難する場面がございますが、私自身はそれらを非難しているわけではありません。ご了承ください。
また本投稿に登場する過度な食事制限は大変危険なので絶対に真似をしないでください!

 そのとき目に飛び込んできたのは蒼志のストーリーだった。

 では一体、なぜ晴太郎がそれを見て複雑な心境になってしまったのか。
 蒼志のストーリーは彼らの去年のクラス・2年6組のメンバーで体育祭中に撮った集合写真と、それに「元2-6最高!」というコメントが添えられたものだった。そこには蒼志以外にも碧羽や葵をはじめとしたかつてのクラスメイトたちの姿はあったが、晴太郎の姿は無かった。

 というのも2年6組のメンバーで集合写真を撮るという提案をしたのはあの葵だった。彼は散々周囲の女子の悪口を言っていた晴太郎が好きではなく、かつ一番の被害者と言ってもよい、葵と仲の良い碧羽の存在もあったので晴太郎を誘わなかったのだった。また、葵はかつて晴太郎の属していたグループのリーダーを務めていただけでなく当時のクラスでは学級代表も務めていたことから権力が強く、晴太郎を誘わないという意見にも多くの元クラスメイトに賛成してもらえたようだ。そもそも権力云々より前に悪口を垂れ流す人間が好かれるのはおかしいことではあるが・・・

 晴太郎は自分が太っていたからハブられたのだというとんでもない勘違いをし、憤怒した。ひとつは彼自身の存在を良く思わず、果てにはグループから追放した葵に対して。もうひとつは彼が属していたグループよりも権力の弱いグループにいた蒼志とその友達が誘われていたのに、自分はハブられたことに対して。


「痩せれば何でも上手くいくんじゃなかったの・・・!?」


 その日以降、晴太郎は衝撃的な行動に走った。平日・休日問わず自宅の周辺をひたすらランニングした。ひたすら、というよりは自棄になって、といった方が正しいかもしれない。その時にはいつも、体育祭で使ったあの白い鉢巻に油性ペンで「40キロ台切ってやる!」と書き、その文字が見えるように巻いていた。
 そして自分で用意した千切りのキャベツだけが入った弁当を持参し、昼休みはそれを食べるようになった。一緒に弁当を食べる男友達からは「またダイエットか?」と軽くイジられたが、事実なのでうなずきだけして黙々と食べた。
 家では朝食こそ食べたが、米やパンなど炭水化物は一切摂らないようにしていた。夕食は炭水化物抜きどころか食べないに等しく、水や無糖の炭酸水で気を紛らわしていた。案の定彼の母はそんな彼の食生活を心配したが、彼の「痩せるためだから」という言葉で悔しいながらもそれを黙認せざるを得なくなっていた。
 その反動で家族が寝た後で毎晩のように泣きながらカップラーメンをすすったものだった。さらに手は震えて頭は回らず、お腹が痛くなって授業に集中できなくなるなど、次第に彼の身体は蝕まれていった。

 また運動や食事といった体重に直接反映されるような行動以外でも彼の「ダイエット依存」が垣間見える言動は目立った。
 たとえば、LINEのユーザーネームを「痩せる。」にし、ステータスメッセージには無数の「痩せろ」の文字を連ねた。極めつけはピーク時の自分の写真とトドの写真を並べた背景。
 はたまた、体重や体型を気にする癖の矛先がついに他人にも向いてしまい、クラスの女子の名前を挙げ連ね、「あの女顔は整ってるくせに脚は太いよな、着てる服に対して失礼だよ」「アイツは痩せたら絶対可愛いのに、あーあもったいない」などと批判を繰り返した。せっかくクラスにもすっかり馴染めたというのに、彼から遠ざかるクラスメイトもちらついた。

 そんな異常ともいえる生活を始めてから一週間ほど経ったある日のことだった。
 3時間目。晴太郎の大好きな体育の授業。種目はこれまた彼の大好きなバスケ。授業終了のチャイムと共に、「気をつけ!礼!ありがとうございました!」で男子一同、教室に戻っていく最中のこと。
「いやー、今日も楽しかったな」「めっちゃ汗かいた!あぁ家帰ってシャワー浴びてぇ」「それシャワー入りたいんじゃなくてただ帰りたいやつやん」「あ、バレちまった、てへぺろ☆」と他愛ない会話をする男子たちの後ろで、彼は自らの身体に異変を感じた。
 視界が真っ白になり、暑いのか寒いのかわからない。さらに追い討ちをかけるかのようにまっすぐ歩けなくなる。
「つらい・・・」彼はそう小さく呟き、ついにバタン、と仰向けに倒れてしまった。偏った食事とそれに見合わない過度な運動が貧血を招いたのだった。彼の前後にいた男子たちがそれに気づいた。
「お前仮病もたいがいにしろよ」「いつもサボってるから狼少年になってるぞ」などと口々に冗談めかして言いながら彼の身体をゆすったが、もともと色白な彼の顔がいっそう青白く見えたことから男子連中の一人がただごとではないと思い、大声で先生を呼び、また保健室の先生を呼びに駆けた者もいた。
 保健室の先生が二人がかりで担架をかつぎながら急いでやってきたが、保健室まで運ばれたあと、晴太郎はそのまま早退となった。息子が貧血で倒れた、との連絡を職場で受けた彼の母は学校まで迎えに来たが、帰りの車の中では「受験が近いのにそんな馬鹿なことやっちゃって!」と説教をし倒した。
 彼は家に着いてからしばらくベッドの上で安静にしていたが、太ることを危惧し、起き上がってスクワットをした。
 その日をもって千切りキャベツ弁当も夕食を抜くのも辞めた。次の日には回復し、何事もなかったかのように学校に行ったが、鉢巻をつけてランニングをしていたという彼の奇行がいつしかどこからともなく噂になった。それでも痩せることで自分をハブった旧友たちを見返すため、と思いランニングは続けた。

 ある日曜日のこと。晴太郎はいつものように白い鉢巻を巻いてランニングをしていた。その日は休日ということもあり少し遠くまで行った。がむしゃらに走っていると、道路を挟んだ向こう側に人の気配を感じた。

(え、あれは・・・)

 学校ではいつも肩につくくらいの髪を下ろしているのからうって変わって後ろで一つに束ねていたのと、制服のスカートではなく黒いスキニーパンツをはいていたのが気付くのに時間がかかった原因ではあった。しかし歩き方や雰囲気から碧羽だとわかった。彼の方をやや冷やかな目で見ていたが、その目は以前よりも意志が強いようにも見えた。予期せぬ遭遇だった。
 我に返った彼は今自分のいる場所が碧羽のバイト先のカフェの近くであることに気付かされた。
 というのも彼女は高1の時から専門学校への進学を希望していて、晴れて受かったら高校入学時から続けているファストフード店でのバイトに加えてもう一つバイトを掛け持ちすると意気込んでいた。その理由として行きたい専門学校の学費が高いことや、入学後もかねてより習っているダンスを続けたいことを挙げていたようだ。そして見事体育祭前にはその専門学校に合格し、カフェでのバイトをすることにもなった。そのカフェは真海高校から割と近いこともあって真海高校の生徒が学校帰りに立ち寄ることも多いため、たまたまそこで彼女の姿を見かけたクラスメイトが話題にしていたのも耳にしていた。
 だからこそ晴太郎はこのように思ったのだった。

(あいつでさえ夢に向かって頑張ってるのに俺ときたら何やってんだか・・・)

 晴太郎は気付かぬうちにそう漏らし、とぼとぼとその場を後にした。



~筆者談~

 まずはじめに・・・この回は読んでいて辛くなる方も多いと存じます。とりわけ晴太郎と似たような経験をされた方やそのような方を見たことがある方の当時の辛い記憶を思い出させてしまっていたらと心配にもなります。
 ここまで読んでくださった方には感謝申し上げます🙏(最後まで読めなかった方を批判するわけではないのでご安心ください!)

 さて、今回の筆者談はものすごい長さになりますがぜひ見ていただけると幸いです。
 彼のダイエットにまつわる異様な言動・・・周りの女子に対して攻撃的な態度をとっていた過去がありながらも、どこかで大きな闇を抱えていたのでしょうね。この場面から、一度自分やその周りの人が彼のような言動をしていないかそっと振り返るきっかけになれば、と思っています。

 また、彼自身は2年6組のかつての友達にハブられたのが悔しかったようですが藍斗や蒼志をはじめとした自分のことを理解してくれる良い友達がいるから充分じゃないか、と思う方も少なからずいらっしゃると思います。
 しかし彼にとっては旧友を見返したいという気持ちの方が強かったのでは、と考えると友達に関する価値観や個人の考え方は様々なんだなぁと改めて思わされます。

 晴太郎がクラスの女子に対して発した「痩せたら可愛いのにもったいない」という発言ですが、似たようなものとして「メガネ外せばかっこいいのにもったいない」「二重にすれば可愛くなるのに一重のままじゃもったいない」などという発言を実際に聞いて悶々とすることがあります。
 でも、そのような発言をする人の中には晴太郎のように頑張って自分の見た目を変えた人も多くいるので、他人にも同じことを求めたり厳しく当たってしまうのではないかと思いました(もちろん全員が全員そうではないですが)。
 世の中にはいわゆる「美の基準(例えば、二重で色白で体型は細くて華奢で、みたいな)」ってものが未だにありますよね、、SNSを見てるとそれが顕著に表れてることも多いですし、第1話の筆者談でも言いましたが、考えようによっては「太ってる」の基準も厳しいですよね。
 太り過ぎが原因で病気を引き起こしてるようなことがあれば減量は必要になると思いますが、人の見た目に関して何が「もったいない」のかは自分が決めることだと思うんです。今はプラスサイズなんて言葉もありますし、オシャレで機能的なメガネだってアイプチを使わずとも一重の良さを生かすメイクだってあります。自分が満足しているのならば外野が口出しする必要はないのでしょうか。

 なお、晴太郎の母の「そんな馬鹿なことやっちゃって」という発言における「馬鹿なこと」とはダイエットそのもののことではなく、夕食を抜いたり野菜しか食べないなどの偏った食事やそれに釣り合わないような半ば自棄ともいえる運動のことを指しています。勘違いしてしまった方、不快に思われる方がいましたら申し訳ございません。
 作中で晴太郎が殆ど炭水化物、つまり糖質を摂らなくなったという描写に関して、確かに糖質の摂りすぎは長い目で見ると動脈硬化や心筋梗塞、脳梗塞などの病気を引き起こします。ですが脳の唯一のエネルギー源がブドウ糖だったり、不足すると基礎代謝や集中力が低下してしまうという事実もあります。実際行き過ぎた糖質制限で頭がボーっとしたり手が震えるなどといった話もよく聞きますし、糖質に限らずですがどの栄養素も過不足なく自分に適した量をしっかり摂るのが一番です😌
 体を動かすのももちろん大事ですが、運動量が食事の量に見合っていないと怪我や疲労の原因となったり、女性の場合は生理が止まって骨が脆くなるなど危険です。何事もバランスが大事とはまさにそのことですよね。
 また、この回に登場した食事制限や運動方法は心身に害を及ぼしかねないので真似をするようなことだけはお控えください。くどいようですが再三お伝えします。

 きつい内容でしたが、この出来事が晴太郎にとってのまたなるターニングポイントでもあります。
 次週の投稿をもって最終回となります。よろしくお願いします🙇‍♀️

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