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創作小説『やせたいオトコノコ。』 第2話 悪夢

何もかも捨てて怠惰な生活を送り、太ってしまった晴太郎。だが彼にとってショックな出来事が起こる・・・

※今回の投稿には登場人物が特定の体型の方や動物を非難する場面がございますが、私自身はそれらを非難しているわけではありません。ご了承ください。
また一部暴力的な描写も含まれています。大変申し訳ないのですがそのような描写が苦手な方は閲覧をお控えください。



 新学期が始まって2か月ほど経ち、6月になった。晴太郎は毎日ジャージで登校している(ジャージで登校している理由が激太りの末に制服が着られなくなったからというのも瞬く間に噂になった)。
 しかし、今年は最終学年で登校するのもほとんど年内だけだから受験が終わればあっという間に卒業できると開き直っていたので、彼にとってどうでもいいことだった。とはいうもののイマイチ今のクラスに馴染めずにいた。

 まず彼のクラスである3年3組には、全員で40人弱に対して女子が30人近くもいる。これは真海高校が元々女子高だった名残でもあるが、彼のクラスの女子の比率は校内でもかなり高いようだ。女子が苦手な彼にとってはある意味地獄だといっても過言ではないだろう。
 また、教室を見渡しても華奢な女子や細マッチョな男子ばかりだ。失礼ながらとても痩せているとはいえない人も一人か二人ほどいるが、彼ほどではないと断言できる。
 おまけに今年の担任は体育の先生ということもあり引き締まったプロポーションの持ち主だった。

 そしてあろうことか「横宮晴太郎は学年一性格の悪い男だ」という噂が蔓延はびこりかけた。
 だがクラスメイトの長嶺空ながみねそらが発した「ある程度深く関わらなけりゃわかんねえだろ」という鶴の一声でそれは運よく撤回された。
 相も変わらず怠惰な晴太郎ではあったがこのような事態に内心焦った。


 案の定彼の去年のクラスメイトの中には陰で彼を叩くものもいた。
 特に執拗に悪口を言われ、いじめられていた渡里碧羽わたりあおばは、彼のご立派な二重アゴに対しチャームポイントのぱっちりとした二重まぶたとかけて「まぶたも二重なうえにアゴまで二重だなんて素敵だね!ふたえあご・・・・・くん!」と我慢ならずもらしてしまったこともある。
 もともと彼女は自分の嫌いな人についていつまでもネチネチと言うタイプではなく、むしろそのように言う人は馬鹿らしいとさえ考えていた。だが、友達にもことあるごとに「晴太郎殺す」などと言っているほどには頭に来たようだった。
 さらに、彼が属していたグループのリーダーである坂出葵さかいでまもるの言いっぷりはすごかった。碧羽が好きなアイドルグループのことを晴太郎に悪く言われていたのを知っていたことに加え、葵自身もそのアイドルグループが好きなため、やはり腹を立てていた。
 晴太郎の悪口が全盛期を迎えていた高2の終わり頃には、自分たちのグループからそんな彼をを追い出した。また、彼らのグループには晴太郎の変わりっぷりに心を病み、当時のクラス内にあったもうひとつのグループに移ってしまった男子もいた。もちろんそのグループに晴太郎が入る余地はなかった。そんなこともあって彼は当時のクラスで孤立した。
 葵は修学旅行など行事を含め高2になってからの学校生活の多くをこのグループで楽しく過ごしたことから「卒業旅行はこのグループで行こうぜ!」とウキウキ気分ではしゃいでいたが、晴太郎の一連の問題行動で失望したことによりそれはほとんど幻となった。
 例の噂を知っていた葵はそんな晴太郎の姿を横目に、「制服も制服買ってくれた親も可哀想だ」「なんならあいつに着られる服全部可哀想、いっそのこと全裸で生活しろや」とこぼし、そばにいた碧羽やその友達とも愚痴った。


 ある日の学校帰りのことだった。その日の朝は雨が降っていていつものように自転車ではなく徒歩で登校したため、下校も徒歩だった。
 晴太郎は通学路の途中にあるコンビニで買ったコロッケを食べながら、中学以来の友達の御影藍斗みかげあいと三枝蒼志さえぐさそうしの三人で歩いていた(この三人はほぼ毎日一緒に登下校していることから「チーム登下校」と呼ばれている)。
 彼らの前にはピカピカの赤いランドセルを背負った三つ編みの女の子、その隣にはピカピカの水色のランドセルを背負った髪を二つに縛った女の子―どちらも小学校低学年と思しき二人が並んで歩いていた。彼女たちは時おり晴太郎の方を振り返ってくすくす笑っていた。
(感じ悪、何笑ってんだよ・・・)と彼が睨みかけたそのときだった。
 赤いランドセルの女の子が明らかに彼の方を指差し「うわ~、あの人豚さんみたい!」と笑いながら言った。続いて水色のランドセルの女の子が「キャー!デブ菌うつるうつる~!」と叫んだ。そして彼女たちは「逃げろ~!!」と一目散に走っていった。
 ほどなくして、彼は上の空となって食べかけのコロッケを地面に落としてしまった。

 彼女たちがチーム登下校の三人の視界から完全に消え去った後、地面に落ちたコロッケを指差しながら藍斗が口を開いた。
「失礼かもしれないけどさ、晴太郎、こんなのばっか食べてるからあの子らに豚みたいって言われるんだぞ?」
 それに続いて「おい、これ以上太ったら友達辞めるよ?いや、まぁ、冗談だけどな」と蒼志。
 晴太郎はそうかもな、とだけ答え、下を向いた。
 自分でも薄々気づいていたことだったが、それをまさか通りすがりの小学生にまで言われたのが恥ずかしかった。
 その後、三人の間には気まずい空気が漂い、沈黙が続いた。別れる時にしても、またね、の一言すらなかった。
 家に帰ると母と妹がいたが、目もくれず無言で階段を上り2階の自室に入った。
 ベッドに寝転がるともやもやとしたものが彼の中に広がった。

 晴太郎は去年のクラス・2年6組の教室の後ろ側の入り口の近くにつっ立っていた。また廊下側から3列目、後ろから2番目の机には彼の黒いリュックが置いてあった。この席はそのクラスで最後に席替えをしたときの彼の席だ。
 しばらくして前の入り口から碧羽とその友達の四人が入ってきた。
 碧羽は「あのデブ無理~」と他の友達の中の一人に泣きついていた。「あのデブ」とは間違いなく俺のことだ、と彼は悟った。
 その四人は彼の席のもとへ行くやいなや、机の四方を囲むように立ち「デーブ!デーブ!」と唱和した。度々碧羽から「死ねぇ!」という罵声も上がった。
 ほどなくして彼女たちは机上にある彼のリュックを殴り、椅子でそれを叩きつけ、机を蹴り始めた。
 リュックは瞬く間にぼろぼろになり、机は倒れて中に入っていた教科書類が散乱した。
 彼は怖気づいた。

「俺がデブじゃなければこんなことにはならなかっただろうに・・・」



~筆者談~

 かなり暗い内容でしたけど第2話でした。

 晴太郎は「学年一性格が悪い」と噂されていましたが(実際問題それは間違いではなかったのですが笑)、その噂を真に受けようとしなかった空くん、人として上出来だと勝手ながら感心してしまいました・・・!

 しかし「服が可哀想だ」という言葉、どう考えても鬼畜ですよね😅だって「服のための自分」じゃなくて「自分のための服」というスタンスの方が縛られずにハッピーでいられる気がしません?あくまでも個人的見解ですが🤔性格とか知性も大事ですけど、外見やお洋服の着こなし方だってその人の大切な要素ですし、それをストイックに極め続けている人もいるので・・・価値観の問題ですね。
 そして子供の純粋さって薄汚れた私の心を浄化させてくれることもありますけれど、時にはそれが残酷な言動に繋がることもありますよね。今回の下校中のワンシーンはそれを垣間見ることができるようなものでした。怖い怖い😨
 あと余談ですが、悲しいことに豚って太っていることの象徴として捉えられていますよね。ですが豚の体脂肪率って10%にも満たないそうです(ちなみに人間だと男性は10〜19%、女性は20〜29%が健康的だといわれています)。したがって太っている人に対して豚呼ばわりするのはその理論には適わないですし、両者にとって失礼とも言えますよね〜。

 あと小説中で藍斗くんが晴太郎の食べていたコロッケに対して「こんなもの」と言うシーンがありましたが、決してコロッケのことを馬鹿にしているわけではございません。コロッケ美味しいですよね〜笑

 長くなりましたが、明日もお楽しみに!!

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