覚悟の意味を知っているか
4月から入ってきた新人くんが、早々に休みまくっている。どうやらプライベートなストレスを抱えているらしかった。なんでわたしがそんなことを知っているかと言えば、新人くんがとにかくひたすら喋るからである。
自分の恋人の話を。
おいおい、いくら自分の恋人だからと言って、そこまでおおっぴろげに彼女の状態を公言していいのかい。彼女のプライバシーを尊重しないのかい。恋人の人権を守ろうって気はコレっぽっちもないのかい。
簡単に言うと、精神的にアレな恋人の話だった。そして、自分は彼女に虐げられているが、彼女のために我慢しているという己の武勇伝。
いいんです、自分はずっとずっとこの先耐えて生きていきますから。覚悟してますから。という。
「相手、途中で死ぬかもしれないのに?」
と、わたしのふいの言葉に周囲を凍り付かせてしまった。
「あらゆるものを犠牲にして、でも相手は生きてる保証なんてないのに?」
言葉を継げなかった新人くんを見ていると、覚悟ってなんだろうって思う。
新人くんは、ついに耐えられなくなり、早々に長期休暇に入った。全然ダメじゃん。
何がダメって、自分の好き勝手な恋愛のために周囲を振り回している、そのことに気付いていないということ。やっぱり、耐えられていないんだということ。
結婚してる場合じゃないよ。覚悟って、いったい何の覚悟? 仕事休んで周囲に迷惑をかけてまで貫き通す犠牲的愛? それを覚悟といったのか。
ただ、それもそれでアリなんだとわたしは思う。キレイじゃないかと。社会的立場を失っても手に入れたい愛なら、いいんじゃないかと。個人の自由だし。
ただ、何もかも手に入れたいという甘えはごめんだ。
覚悟っていうなら甘えるなよ。無力感に打ちひしがれて、地に這いつくばれ。同情を期待するな。自分は大変な子を支えているんです。それが何の免罪符になる? 口を閉じろ。きっちり一人で抱える覚悟をしろ。
それで新人くんが、半ば廃人になってでも必死に彼女と生きようとするなら、わたしは拍手をしたい。そんな気概を見せてほしいって、本当は期待してるんだ。絶対に、逃げないと誓って。
彼女は人間だ。病名ありきじゃない。地上から、彼女の落ちた深い穴を覗き込んで、あーでもないこーでもない、なんて考えてほしくない。おまえもしっかり、その穴へ落ちるんだ。そして一緒に地上を見上げ、悩むんだ。どうしたら、陽の当たる場所へ戻れるんだろうって。
荒廃した穴倉で、共に光を希求するんだ。そうでもしてくれなきゃ、キミの今休んでいる穴埋めをしている意味なんて、わたしには全くないんですよ。
共依存に陥ってないで、しっかりしろ。ダメなら離れる覚悟をしろい。あなたの一挙手一投足が、彼女の心を乱している現実を受け入れろ。この状況が、彼女に負の影響を与えているかもしれないと、落ち着いて考えてみてほしいんだ。
新人くんが10年後、わたしと同じくらいの歳になったときに、何を後悔して何を受け入れているんだろうか? 若気の至りだと笑って、平凡に生きていたとしてもしょうがない。でも、わたしは完全に落胆するんだよ。くだらないなって。
覚悟って、なんだろうな。大切な人を救うって、安易にできることじゃないって思う。それでもやっぱり、手をつないで、世界を歩いて欲しいなって思うんだ。そこに光が差さなくとも。新人くんには、力強く歩んでほしいんだ。足枷をもろともせずに。
※本記事は、2018年5月に自サイトにて投稿した文章を加筆修正したものです。
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