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高齢化にはなるが、 生産者が増えていく環境は整う

宮崎県・高千穂郷で干ししいたけを販売している杉本和英さんは、非常にエネルギッシュです。高齢化、低賃金などネガティブな就農問題が叫ばれている昨今ですが、「それを変えるのが人間の知恵であり、テクノロジーである」と言い切ります。しいたけを使ったキーマカレーの開発から始まった、生産者からしいたけを「買い続ける」ための杉本さんのアイデアは、未来に向けて取り組むべき課題を提示してくれています。

杉本和英 
1970年創業以来、宮崎県・高千穂で、農家から干ししいたけを直接買い取り、全国へ販売している「杉本商店」の社長。干ししいたけひとつで事業を拡大、成長させ、新商品の開発などにも積極的に取り組む。2020年、農林水産省より「サステナアワード2020伝えたい日本の”サステナブル”」受賞。

2020年代表取締役 __ (1)

絶対にほかで真似ができない産地と生産者。ビジネスにおける最高の戦力

杉本 最初に、どうかこの動画(約3分)をご覧ください。

杉本さん顔写真

――生産者の笑顔がとても印象的な動画ですね。高千穂の美しさ、現場の雰囲気、杉本商店がめざすことがよく伝わりました。

杉本 ありがとうございます。百聞は一見にしかず、ですかね(笑)。コロナでオンラインになったとき、商談をしてもなかなか響きにくいな、と思って。ならば、生産者の思いや自分たちの取り組みを伝えるためにと昨年作ったんです。宮崎の制作会社の方と僕との3人で。

――え? 3人だったんですか? 

杉本 はい。とにかく「見ている方々に“ささる”動画を作ろう」と、3日間、カメラをまわし続けました。編集も一緒にやったんですよ。今の時代、動画は非常に有効なツールです。HPでも動画でいろいろ紹介しています。英語と日本語を用意しているので、海外の方にも理解していただきやすいですしね。オンラインでイタリアのバイヤーに見せたときも、よくわかったと言ってくれて、いろいろ質問してきました。答えられるだけ答えたあと、プライスリスト送るから、もし、何かあったら連絡ちょうだいね、って話になって。プライスリストを送った翌日、彼はいきなり入金してきたんですよ。なるほど、これが大事なことなんだな、と思いました。つまり、コロナによって動けないのは人間だけであって、情報そのものは動けるわけです。人間が動けないなら、そこに行かないとわからない情報をどんどん与えれば人にはささる。干ししいたけはどんな場所で、どんな人が、どんな作業でつくっているのか。すごくていねいで、大変で。でもだからこそ、こんなにおいしくて、ということが伝えることが大事で、それが僕たちの仕事なんですよね。

――動画のなかでも、「絶対に真似できないのは産地」とおっしゃっていました。

杉本 そのことを確信したのが、世界中がコロナで動揺し始めた頃の2020年、ドイツのビオファ(世界最大級のオーガニック食品とナチュラルコスメの国際見本市「BIOFACH / VIVANESS 」)に行ったときです。干ししいたけは日本のほか中国が国際的に大きな産地なんですが、中国勢はコロナで出国できなくて、出展は僕たちとブルガリアの女性の生産者だけだったんですよ。その生産者が初日に僕のブースに遊びにきて「日本人に聞いて、同じやり方で作っている」と話しかけてきてくれました。そこで、彼女にクヌギ原木の説明もしながら、自分たちのしいたけを食べてもらったら、顔色を変えてどこかに行ってしまったんです。そしてまたブースに帰ってきたんですが、手に白樺を持っている。白樺でしいたけを作っているのだが、そのほかはまったく同じやり方をしているのに、味も風味もまったく違うと彼女は言う。

――すみません、そもそも、白樺でもしいたけができるんですね?

杉本 できますよ。でも、クヌギの木のほうがどうしてもおいしいんですよ。だからといって、ブルガリアにクヌギの原木を持って行って育てても、15年はかかるし、何より、気候が違う。クヌギの木は古来より九州に余るほど生えている。そして昔から自然にしいたけ菌が浮遊している。そんな環境は、将来的にはテクノロジーでできるかも知れないですが、現実的にはむずかしいでしょう。産地というのはゼロからつくれない。つまり、産地に競争力がある。ほかにまねできないものを作るそこに価値をいち早くつけてあげて、生産者にいつでも作ってください、どんどん買いますからね、といえることが一番のビジネスモデルだと思います。

原木しいたけの栽培方法。生産者の話の動画

原木しいたけ生産者

「売り続ける」ことだけではなく
「買い続ける」ことが未来につながる

――どんどん売るのではなく、どんどん買う、ですか。

杉本 「売る」のではないです。「買う」です。生産者、日本の農林水産品の生産者は、今、ものすごい勢いで高齢化していて先細りの状態ですよね。でもうちの場合は高齢の生産者たちは自分たちが育てたものをどんどん持って来てくれています。また、世の中は生産者不足なのに、うちの場合は新規の生産者が増えている状態なんです。取引先は去年1年間で20軒くらい増えました。何が起こっているかというと、高齢化によって一軒一軒の収穫量は小さくなっているのは間違いないのだけど、小さくなったことで、これまで農協に出せていたものが出せなくなっていた。それを、うちなら引き取れる。これって、ものすごい競争力だな、と感じたんです。他社はおそらく真似できないでしょう。やろうとも思わないんじゃないですかね。それがわかったときに、僕たちの仕事は決してしいたけを「売る」ことではないと気づきました。要は、いつ、だれが、どんなに少量でも持って来さえすれば現金化できますよというメッセ―ジを送ることで、生産者の励みになる。だから、買い続けることこそが、僕たちの一番の企業理念なんです。未来永劫、買い続けるためにはどうしようかっていう考え方でビジネスを進めています。

――いつくらいからそのような考え方になったのですか?

杉本 5年前くらいですかね。僕は大学を卒業してから、転々として、最後は東京で会社勤めをしていたんですが、2011年の東日本大震災がきっかけで実家の杉本商店に戻ってきたんです。戻ってきた当初は、びっくりしました。僕が子供の頃と何も変わっていなかったんですから。まわりの生産者さんが持ってきます。それを現金で買います。買ったものを袋に詰めて全国に出荷します、と。当初、それがすごく怖く感じたんです。結局、そんな昔からのやり方が自分たちの財産になるんですけどね。でも当時は、世界中が激しく動いているのに、変わっていないのは危険極まりないと思った。営業の柱がひとつしかないわけですから、それがダメになったらどうするのか? を考えていました。しいたけの購買層は高齢者層なので、若年層向けの新商品の開発などもしていかなくちゃいけないと考えた。それで、しいたけを使ったレトルトカレーやおかず味噌という加工品を作りました。

――カレーをしいたけに入れる発想はないですね。

杉本 逆に僕は、初めて東京に来たとき、カレーにはしいたけを入れないんだってびっくりしましたよ(笑)。我が家は何にでもしいたけを入れますからね。コロッケにも餃子にもビーフシチューにも(笑)。

――では開発はスムーズでしたね(笑)。1個おいくらで販売したのですか?

杉本 だいたい500円くらいになりました。レトルトのしいたけカレーは大量に作れるわけではないのでどうしても1個あたりの単価が高くなります。「椎茸屋が作ったキーマカレー」という商品名で販売し、それなりに売れてよかったんですが、驚いたのが、高級レトルトカレーの購買層と、干ししいたけの購買層がまったく同じなんです。いいものが売れる。高齢者夫婦にとってカレーライスは困難な食事なんですよね。カレーは少量作りにくいから、一度作ってしまうと何日もカレー。どちらかが夕飯はいらないとなると、余ってしまう。食材や製法にこだわっている1人分のレトルトカレーなら、少々高くても保存がきくし、おいしいものをひとつ買っておこうという購買層にうけたんです。ちょうどその頃、百貨店さんも高級レトルトカレーに力を入れていました。カレーを置いてもらうと、今度は百貨店のバイヤーさんに「このカレーに入っているしいたけは?」となる。こうなると、いい循環です。

シイタケ屋がつくったキーマカレー

――カレーをきっかけに百貨店に干ししいたけも置いてもらえるようになったんですか?

杉本 はい。百貨店の「棚」に新規に入ることはむずかしいんですよ。特に干ししいたけは古くから流通されている食材なので、取引先も古くから固定されている。新規が入って売り上げが落ちるなどすると怖いから、このままでいいじゃないか、となる。干ししいたけに限らずとも、基本的な日本の農産物が置かれている棚の仕組みはそうなんです。でも、加工品のカレーを持っていくと、おもしろい。杉本さん、あなたのところの干ししいたけは? となって、カレーも干ししいたけも置いてもらえるようになる。干ししいたけの底力って実はすごいんじゃないか、と感じ始めていろいろ見直してみると、うちには高千穂という産地がある。しいたけの菌がある。そしてそれを育てるすばらしい生産者がいるじゃないか、と思い始めるようになっていました。

日本の人口は減少しているが
マーケットは世界にある

――輸出に取り組まれたのも、そうした生産者から「買い」、それを「売る」場所を求めたからですね。

杉本 今までの日本のビジネスモデルは、誰よりも安く仕入れた原料を、誰よりも早く機械を動かして、大量に安くつくった人が勝ちっていうゲームのルールでした。でもそれは間違いなく産地にダメージを与えるんですね。要は、生産者が一生懸命作った産品が、今まではキロあたり4000円だったのが3000円になり2000円になり……となっていくと、未来は明るいと思えないです。後継者にも、やめておけ、となる。担い手に負担を強いてはダメです。だから、「売る」ではなく「買い続ける」なんです。それにようやく気づいて、僕たちがどうやって戦っていこうかと考えたとき、日本の人口は減るけれど、世界の人口は間違いなく増えていく。そこだ、と。これは僕の推測ですが、安全に食べられるものを作れることが、世界においてはものすごいステイタスになると思いました。数年前に将来に向けて生産を維持するために生産者と一緒に「杉本商店有機出荷者協議会」を設立しました。

――最初はどこに売り込みをかけたんですか?

杉本 香港でした。でもすぐに無理だと思いました。スーパーマーケットの陳列棚を見ればだいたいその国の台所事情がわかるんですが、そもそも、香港には調理しないといけないものが棚にないんです。それもそのはずで、香港ではだいたい外食なんですよ。また、当時は日本で500円で売られているしいたけが、450円で売られていました。当時の政権が海外に日本の農作物を輸出しようとしていたので、国や自治体が負担した分、安くなってしまう。香港の相場があってないような状態でした。買い続けるための理想的な戦略は、日本で500円で売られていたものが、輸送コストがこれだけ、売り場でのマージンはこれだけとなると、1000円以上になる。それでも買ってくれるお客さまを見つけることに努力をすることです。そこで、アメリカとヨーロッパにフォーカスしたんです。

――アメリカは日系スーパーがあるので需要があったのではないですか?

杉本 アメリカの日系スーパーには売り場がありました。ただ、そこも価格競争で……。また、欧米の一般的なスーパーマーケットには干ししいたけを置く売り場がなかった。苦戦しましてね。そんななかでお誘いがあったのが、ドイツのベルリンでした。これは総務省の事業で、干ししいたけをドイツで売ってもいいということで現地まで行ったんですが、ある手違いで売ることができなくなって、結局、持って行ったものを全部試食として配ることになったんです。1200食分です。

――1200食!?

杉本 2日間、延々と配っていました(笑)。でもお客様がたくさん集まってくれて、どういうところで作っているの? どういうことをやっているの?と いろいろ聞いてきてくれたんです。僕の話を聞いてくれたあるドイツ人が「Wow! Sustainable!!」だと。最初はなんなんだろうな? と思ったけれど、そのドイツ人の話を聞いていると、生産者がやっていることに感動していることがどんどん伝わってきた。そして、試食で食べていただいたときの反応がよかったんですよ。僕たちが海外にいったときはだいたい中国産との戦いなんです。海外の方で干ししいたけを食べたことがある人はたいてい中国産です。中国産の干ししいたけと日本の原木栽培の干ししいたけとでは、味、触感、すべてが違う。ありがたいことに、我々の干ししいいたけはかならず評価が高いです。実はドイツのイベントはベジタリアンやヴィーガンをかなり意識したものだったということも結果的によかったです。ベジタリアンやヴィーガンといっても、以前は肉を食べていたから肉の味を知っている人たちが多い。彼らは植物性だけだと、どうしても食感やうま味、コクが足りないと感じてしまう。それが、干ししいたけで肉に近い満足感が得られると感じてくださるわけですから衝撃を受けるんですね。意識が高い人たちが多いので、高価格になっても理解してくださるんです。

――ちなみに、1200食の試食はどういう料理で提供したんですか?

杉本 ヴィーガンを意識していなかったので、干ししいたけの煮物をいかにおいしく出すかを考えていたんですよね。だから、最初は手羽肉をベースに醤油とみりんと砂糖で味つけをした普通の煮物です(笑)。でも別の機会にサンフランシスコの「Winter Fancy Food Show」に出ることがあって、ベルリンでの経験を生かしてオリジナルの煮物とヴィーガン用に大豆と昆布だけでとっただしで煮た干ししいたけの2種類を出した。すると、圧倒的にヴィーガンのほうがよく出るんです。ヴィーガンにおける干ししいたけの可能性を感じていますね。今しいたけパウダーを作っているんですが、このパウダーにも無限の広がりがあると思っています。たとえば、ヴィーガンにおける代替肉ですね。プラントベースの肉のなかにうま味のひとつとして干ししいたけパウダーを入れれば満足感につながります

米国での椎茸粉試食イベントで説明する動画
https://youtu.be/ZPLOgMhLVqE

海外での動画

雇用先の新規開拓と
働きたい人たちのサポートを


――そうやって海外に販路を求めていくと、生産が追い付かないということはないですか? 生産者の高齢化や離農の問題も聞きますが。

杉本 もちろん、数年前から、生産農家さんが減っていく問題があるのはわかっていますから、いろいろ取り組んでいます。そのひとつが、伐採作業を請け負い、原木を提供するシステムです。しいたけの栽培は木を切るところから始まっています。高齢の方が山に入って木を切るのは非常に危ないんですよ。労災のなかでは非常に死亡率が高いんです。くぬぎの木は広葉樹で枝を広げながら育っていくので、重心がどこにあるかわからない。切れ目を入れたらどっちに倒れるかわからないから危険なんです。そこで、そうした伐採作業をうちで請け負い、高齢の生産者は植菌だけをすればよい状態にしています。生産者が自分たちで育てたしいたけを軽トラで持って来てうちでおろすと荷台が空になるので、そこに原木を持って帰ってもらおうという仕組みです。

――それはいいアイデアですね。生産者への負担が少ない。

杉本 でも、いける! と思って、最初3000本の原木を用意していたんですが、うまくいかなくて。2500本余ったんですよ。これがまたラッキーなことに、ちょうどそのタイミングで、近所の障がい者支援施設の女性が、利用者の障がいがある方に、何か仕事をさせて欲しいと飛び込みで来られたんです。当時、手が追い付かない作業があったので、現場を見に行くことにしました。そうしたら、お菓子がつくれるくらいの衛生設備が整った施設だったんです。でもそこで、利用者の方々が封筒を貼る作業をしていた。それだけではもったいないなーと思いながら施設を出ようとしたら、そこに小さなしいたけの畑があったんですよ。そのしいたけをどうしているんですか? と聞くと、入所者の家族に分けたり、バザーで売ったりしているという。うちは2500本の原木が余っているわけですから、原木を渡してしいたけを作ってください、それを現金で買いますからと言いました。すると、ぜひやらせてください、となって。

――しいたけ栽培が障がいを持つ方々の支援になったということですね。

杉本 人手不足になることばかり考えていましたが、埋もれた労働力はあるんですよ。彼らの作業台はこれまで安くて、県内でも下から二番目の工賃だったそうなんですが、しいたけはキロ2000円以上のお金になります。今はその施設の工賃は県内でトップクラスなんですよ。この成功例をもとに、いろいろ広げています。先ほど干ししいたけパウダーを作っていると申し上げましたが、これは最初、アメリカ向けだったんです。アメリカのamazonでの販売は昔からあったのですが、中国産や韓国産だけでした。そこに杉本商店のパウダーを入れてみたら、すごく売れて。慌てて日本でも売り出して、障がい者支援施設でも作業できるようにしました。そこでアメリカのFDA(アメリカ食品医薬局)の登録工場になりました。万が一僕らがいなくなっても、彼らが自立できるようにしたくて。こういうことの積み重ねが真の持続可能だと思っています。

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――担い手の持続可能ということですね。

アシストさえあれば高齢者も
女性も力仕事ができる

杉本 新しい担い手を見つけることも大事なんですが、今やっている人たちを維持していくことも大事です。今を維持しつつ、新しい担い手を入れるという考え方です。今の担い手のサポートというと、杉本商店有機出荷者協議会は今年、アシストスーツのイノフィスと宮崎大学とで共同研究することになったんです。

――アシストスーツ? 生産者の力仕事をサポートするということですか。

杉本 高齢の生産者の多くは「機械があればまだまだできる」とよく言われています。それは非常に重要なメッセージだと思いました。意欲的にまだまだやれるなら、僕たちはサポートしたいな、と考えたんです。何かいい方法はないかと考えていたとき、宮崎大学の工学部の先生の試みを知りました。その先生は人間の腰の負担の数値が出るアイフォンのアプリを開発したんですが、それをどう生かすかを探っていた。そんなとき、国のSDGsの事業でイノフィスさんのことを知ったんです。イノフィスさんも、農業や林業の現場に入っていきたいけどどうやって取り組んでいいか、とっかかりがまずわからない状態だった。すぐに宮崎に来てくれて、一緒に山に入って、アシストスーツが本当に使えるかどうか自分たちで試してみました。そうしたら、すごく楽になるんですよ。そこで産官学で連携して実証実験をすることになった。宮崎大学で開発された腰の負担の数値化が、ここで生きるわけです。

イノフィスのHP
https://innophys.jp/

――経験がある人たちの動きは無駄がないですからね。それをデータ化していくとおもしろいですね。アシストスーツのようなものがどんどん入ってくると、女性がトラクターを使いたいとか、フォークリフトを使いたいとか、力仕事の現場に女性が入ってこられるようになりますね。

杉本 ありですね、かっこいいです。働き方が変わってくると、都会で働いている人たちが宮崎にも拠点を持って、しいたけ栽培をやってみたい、と思う時代も来るかも知れない。フィジカルなストレスの軽減は、そうした余裕を生むように思います。僕たちがイノフィスさんを選んだ理由は、動力源がエアーであることです。これなら、どんな山のなかでも、インフラがなくても使えるんです。イノフィスさんの機械をつかって僕たちがやろうとしているのは、高齢者の男性女性、若年層の男性女性、すべての人たちに効果があるかどうかを実証することです。効果があることがいえれば、それをデータにして、各自治体にそれに対する補助金を作ってもらえます。たとえばアシストスーツが14万円として、国の補助によって7万円で買えることになれば、浮いた7万円で、シイタケの栽培以外に稲作だったり、牛の世話だったり、トマトの収穫だったりできるじゃないですか。生活に余裕ができます。あと、アシストスーツはビジュアルにインパクトがあります。山のなかの伝統的な栽培を行っている高齢者が、どこよりも最先端のアシストスーツをしょってやっている。映像としては非常におもしろいでしょう。それを動画で海外に発信することも大事だと思います。やれることはまだまだたくさんある。もっと僕たちが埋もれている価値をひろいあげて磨いて、商品にのせていく必要があると感じています。

――すばらしいですね。おもしろいです。人の仕事というのはどんどん変わってくる。そのほかにも考えている事業はあるんですか?

杉本 直近でやりたいのは、しいたけ栽培を山以外で育てることです。たとえば、高齢化問題でいえば稲作もそうで、休耕田が出てきています。そこで、人工ホダ場を作ってしいたけ栽培ができるのではないかと。しいたけの栽培は自然に任せているので、たまに、雨がふってくれれば、と思うときがある。それが休耕田で育てていれば、水路があるのでバルブを開いて散水することができます。収量自体は多くならないでしょうが、質はいいものができると思います。成功すれば、モデルケースになるんじゃないかな、と思っています。

――まだまだアイデアはありそうですね。九州以外で育てるお気持ちは?

杉本 それはないです。しいたけに適した環境はやはり九州です。最高のブランド力だと思っています。アイデアは僕が考えたわけではなく、現場に行けばヒントがあるんです。生産者の声を聞いて、どうやったら解決できるかな? と生産者と一体となって考えたものを実行していけばいい。解決をするために、テクノロジーは重要だと思います。30年後は、そうしたテクノロジーの発展で働き方が改革され、おもしろい生活ができると思っています。

インタビュー:吉川欣也  土田美登世(構成)

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