第32回 第3逸話『プロテウス』 その2
目を閉じて、浜辺を歩くスティーブン。
恐る恐る一歩、二歩三歩…。
”「順序に連続するもの」”
アリストテレスは、「時間とは、前と後ろに関しての運動の数である」と、言ったらしい。
”これが聴覚態の不可避的様式だ”
…視覚を奪われながら歩くことで、その言葉がより実感できるとでも言いたいのかな?
”そろそろ、目を開けようか…。嫌だ、まだダメだ俺!”
スティーブン君は、一生懸命想像力を働かし、「一人ツッコミ」して遊んでいるらしい。
目を開けようとする自分を自分が制する…。これはキリストのモノマネだと言う。マタイ伝にある、悪魔がキリストに、
「お前が本当に神の子なら、ここから飛び降りてみろ」
悪魔の誘惑と戦うキリスト、らしい(キリストが一人で葛藤しているってこと?)。
”もし、海に突き出る崖から落っこちたらどうする! 「同時に並列するもの(視覚、聴覚、触覚のことですか?)」を通り抜け、落っこちたら…”
次スティーブンはハムレットになる。もし、海に突き出る〜は、戯曲『ハムレット』1幕4場からの引用だと言う。
たまたま筆者(僕)は、『新訳ハムレット 河合祥一郎訳』が手元にあったんで探してみました。
多分43ページ、ハムレットの友達ホレイシオのセリフ「(あの亡霊は)海に張り出した断崖絶壁に(ハムレットを)誘き出そうとしているかもしれません」ではないかしら?
想像力豊かな彼は、ひとりぼっちでも楽しくやってる…。
”サンディマウントへ行こうじゃないか。ひんひんマデリン牝馬ちゃん”
なんとなく気分が高揚してきて、詩作を試みるスティーブン。
”リズムが始まる。ほら聞こえる”
おおっ、詩作って、意識して作るものじゃなく、なんだろ、突然溢れ出てくるもんなんですね。なんかかっこいい。
”よし、そろそろ目を開けよう…” スティーブンは、ここで閉じていた目を開けようと思い…。
”いや、待て。
あれから何もかも消え失せていたら? もし目を開けて、永久に暗闇の不透明の中にいることになったら。
えぇ〜い、しゃらくせぇ。見えるかどうか見てみよう”
思い切って目を開けてみるスティーブン。
”…ほら、お前がいなくともずっとこの通り”
スティーブンってやつは、自分の視覚が世界を作っている、と思っているらしい…(てか詩作はどうなったの?)。
彼は自分が見ている世界しか知らない。なぜならその世界は確かに認識できる。なぜなら今確かに自分が見ているから。
不意に目を閉じてみる(世界が消える)。
自分が目を閉じていた時間に(自分が世界から、少しの間居なくなった期間に)、ひょっとして世界は前と違っていたら…、って夢想する。
残念ながら、ちっとも変わっていない。
”ほら、お前がいなくともずっとこの通り”
これはなんとなくわかります。
なんか、デジャブ感があります。↓
スティーブンや筆者だけじゃない。
人は誰でも、自分が「今見ている世界」しか知らない…。
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