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第44回 第4逸話『カリュプソ』 その2

 今、レオポルドは台所に立っている。まだぐーぐー寝ている愛妻モリーのために朝食を作っているのだ。ニコニコ楽しそう。
そこへ飼い猫(鼠ハンター)が顔を出す。
「おやこんなところにいたのか」
その猫にも朝食のミルク注いだ皿を差し出す。
 そして、妻のためのパンにバターを練っている時、何気に気づく。

「そうだ。たまには他のものもいいかな? う〜んそうだなあ、ハムエッグ、いやだめだ。卵は今旬じゃない。羊の肝臓。…ドルゴッシュの店(いきなり矛盾してるがここの店主名は架空。それにはちゃんとワケがあるのだが、まあ後程。でもその直前に記されてあるバックリーの店もハンロン牛乳店も実在した店)で豚の肝臓を買ってくるか。それをバターで炒めて、仕上げに胡椒をふりかけ…」。
ジュルッと涎を出す。
「ちょっと出てくるよ。何か欲しいものはないかい?」
 愛する妻の返答はなし。

 彼は外着に着替える。いきなり喪服を着る(伏線)。それと帽子。ちょっとそこまで買い物に行くだけなのに、わざわざ帽子。
実はこの頃(1900年ごろ)の男子は、外出には必ず帽子をかぶっていたらしい。それこそシャツを着たりズボンを履くみたいに。
そういやこの頃を舞台にしたヨーロッパ映画やアメリカ映画でも、男子はどいつもこいつもアホみたいにみんな帽子をかぶっていたなあ(ゴッドファーザー2とか)。
これ何と日本もだそう。
夏目漱石(1867〜1916)がそうだったらしい。彼の書いたエッセイか何かに「外出したいが、帽子がなくて困った」、という文があるらしい

ヘェ〜。

 で、ブルームも帽子に手を伸ばす。

”プラストー商会の高級帽…”

 とブルームの独白。

 「高級帽…」

「帽子」じゃなくて「帽」

ジョイス筆の原文では、"high grade ha…”となっている。

 日本語訳じゃ分かりにくいが、なぜ「子」まで書いていないかっていうと、これ、帽子の内側に表記されたブランド名を何気に目にしたブルームさんの独白だから。その表記には、「hat=帽子」の後ろの の文字が擦れて消えていたから。
だから日本語訳も「子」がない、というわけ。

 …何だかなあ。


帽子の中に白い紙切れを確認する(これはのちの伏線)。
ポケットを探ると鍵がない(第一話のマーテロ塔の鍵云々を思い出させる)。「あ、ズボンを履き替えたからだ」

モリーを起こさないように気を遣いながらドアをゆっくり閉め、でも半開きで開けておく。ここん家のドアはオートロックだから。
通りに出る。

 時は1900年代初頭、なんて愛妻家なのでしょう。
本当に奥さんを愛しているんですね!


 …続く。




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