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【読書】「Learn or Die 死ぬ気で学べ。プリファードネットワークスの挑戦」

Amazon Kindleをチェックすると「Kindle本ストア8周年キャンペーン」でKindle Unlimitedがなんと2ヶ月99円。さっそく入ったので、これから読みたい本や気になる本をたくさん読んでいきたいと思います。

この本を選んだ理由とPFN

この本を選んだ理由としては、まぎれもなく「ずっと読みたかった一冊」だったことです。実のところ、この本がKindle Unlimitedにあったから入ろうと思ったほどです。

最近、いやここ数年、「AI(人工知能)」という言葉が流行りと化していますが、それに伴って、にわかAI企業が増えています。何かと「AI」や「人工知能」という言葉を使って、顧客や一般人にアプローチする手法のようですが、実際には、IT企業であるかどうかも怪しい企業達が大勢と存在します。

企業だけに問わず、書店の店頭に並べられている書籍でも見受けられますね。こういうことが起きてしまう原因の一つとしては、「AI(人工知能)」という言葉の定義が未だに人々にとって曖昧なものであって、かつ抽象的であるからかもしれませんね。

しかしながら、Preferred Networks(以下PFN)はそれらとは全く違い、「純粋な(ピュア)AI企業」と呼べると思います。というのは、PFNはAI及び人工知能という名の機械学習(深層学習や強化学習を含む)の技術を中心に、その技術開発と研究にかなりの力を入れている数少ない日本の技術系IT企業だからです。そして、そんなPFNには僕にもちょっとした思い出があります。

それは僕がまだオレゴン州に留学していた2015年頃、専攻をコンピュータサイエンスに決めた僕は茫然とも、「なぜ日本のIT企業は世界に対抗することができないのか?」と考えておりました。

要因は様々あるとは思いますが、その時はやはり「自社開発」が大きな要素だと思いました。当時はアメリカにいたので、なおさら日本の「プログラムはお金を払って外注する文化」に違和感を感じていたのもあります。エンジニアを称賛するアメリカに対して、日本はエンジニアリングの文化と人々がそっちのけにされているような感じがしました。

元々、AI(特に自動運転)が好きだった僕は、ありとあらゆる時間を見つけてたはそれに纏わる記事を読んだりしていました。そこで、「深層学習系スタートアップ企業」としてPFNが取り上げられており、そこには「単なる下請けや受託はしない」「とにかく自社開発と技術開発にこだわる」と書かれており、「日本にもこんなスタートアップがあるんだ...」と深く感激したのを今でも鮮明に覚えていますね。

我々にとって最も重要なことは、自分たちが蓄積できる技術を最大化することだ。お金は、その手段に過ぎない。つまり、順序が逆なのだ。受託の場合、作った技術は基本的には取られてしまって残らない。でも時間は取られる。その代わりに、それと引き換えにお金が入ってくるというビジネスだ。そういうビジネスにしては意味がない。(Kindle の位置No.2032)
サービスを提供している会社に技術を提供することができれば、我々は技術を開発し続けることができる。完全に下請けとなってしまうような、要件の決まっている単純な仕事を受注するのではなく、自由度の高い共同研究を行うことができれば、エンジニアたちが社会に新しい価値を生み出し続けることができるのではないか──。(Kindle の位置No.620)

【ぶつからない車】 : 赤い車は人間が動かしていて、他の車が”自動”で互いがぶつからないように物体を認識して走行しているPFNの動画です。

今の時点(2020年11月)でのPFNの企業価値は既に3500億円を超えているのですが、「スタートアップ文化」がしっかり残っている会社という印象です。自身がエンジニアでもあり、技術者でもある西川徹さんであるからこそ、「エンジニアを大切にする文化」がPFNにあるのだと思います。まさにそれは米国の名だたるソフトウェア企業やスタートアップのように、「エンジニアリング(技術)を重要視する」のようだと率直に感じました。その技術力を重要視した上で、西川徹CEOの力強い経営哲学や未来の日本のテクノロジーに対するビジョンがはっきりと描かれていましたね。

一度オフィス内の装飾を始めると、ちょっとしたことでも100万、200万円とコストがかさむ。200万円あればGPUボードが1枚買える。壁の植物とGPUのどちらがほしいか?PFNの社員は皆絶対にGPUだと言うだろう。我が社には、そういうメンバーしかいない。(Kindle の位置No.1820)

ロボット事業に注力

僕が一番最初にPFNを見つけた当時は「トヨタ自動車との自動運転技術に関する協業及び支援」が大々的に取り上げられていたので、それから数年後にPFNがロボット事業に力を入れると聞いて、少し驚きました。

僕自身の意見としては、「ロボット(パーソナルロボット)の時代」はまだ先が遠いというのが正直なところです。深層学習などを用いた技術面に関しては問題がないにしても、社会に適合、または実装するための倫理的な問題や法的な問題がなかなか追いつかないだろうと感じています。しかしながら、西川徹さんのロボティクスに対する主張や意気込みに、また一度深く考えさせられました。非常に勉強になりました。

コンピュータとインターネットが登場して、空間的な制約はなくなった。日本からアメリカへ通信するのも一瞬でできる。ネットの普及で生まれた産業も多い。ロボットが進化していくと、空間を自由自在に操れるようになる。今は、物理的に影響を与えようと思ったら、人がそこに行くしかない。だが、それもロボットが行ってくれるようになる。その先には操作する物体があるかもしれないし、話す相手の人間がいるかもしれない。ともかく空間的な制約がもっともっと緩くなり、影響を与えられるようになる。現在はコンピュータ同士で通信しているだけだが、ロボットによって、コンピュータが、ネットワークで繫がったその先の物理空間にまで影響を与えられるようになるのだ。そこには新しい産業が生まれるだろう。何を生み出したいかは人間が考えればいい。考える余地が増えたら人間は想像力を働かせ始める。(Kindle の位置No.2396)

余談ですが、サンノゼ近辺ではもう既にロボットが街に溶け込んでいますね。よく見かけるスポットとしては、ショッピングモールや夜中の駐車場です。これらのロボットの主な用途は、「パトロール」及び「セキュリティ」です。監視カメラが装着されており、不審な動きをするものを感知し次第、連絡塔へ報告される仕組みのようです。やはり米国は日本に比べて、規制緩和がなされているせいか、こういったロボット等を街ですぐさま応用するというプロセスが早いのかなと思います。

ちなみにロボティクス(ロボット工学)は米国の大学でも人気な専攻の一つであって、僕の大学内でも、生徒が自分で作ったロボットと一緒に歩いていたりと、たくさんロボットを見かける機会がありました。最近の米国のスタートアップ企業でも、ロボティクスを扱うハードウェア系もかなり増えてきているので、これからとても面白いことが起きそうな分野だと思います。日本のロボティクス、ロボティクスに関する規制緩和の進展もとても楽しみです。

面白いことをやらないなら生きている意味がない

この言葉はこの本を通して一番印象的で心に残った言葉といってもいいと思います。「パッションに忠実に」という言葉とともに、コンピュータの力で実世界の問題を解決していきたい、そのための技術を貪欲に学び続けたいという西川徹CEOの想いが伝わりました。

上手く取り繕って、そつなくやるのが良いと思っていた。だが、それでは面白くない。もっとパッションに忠実になりたかった。自分が「面白い」と思えることに、もっと敏感になるべきだと考えた。人生は有限だ。「面白い」と思えることにフォーカスしないと、最大の成果は出せない。考え方がガラッと変わったような気がする。それまでは組織が安定して、皆が互いにいがみ合うことなく、そこそこ楽しければいいよねと思っていた。今考えると保守的だった。(Kindle の位置No.912-916)

成長する人の評価基準として、「楽しんでいるかどうか」というのも挙げられていました。貪欲に学び続けられる、その環境を会社としてバックアップする。そして、「失敗を推奨する文化」とともに、その中で挑戦的だが適切な目標を立てて、周りと協力しながら、目標を達成していくことへの重要さも説いておられました。

「絶対に成功する」とわかっているような取り組みには興味がないからだ。PFNは失敗を推奨し、成功率10%以下の課題に挑み続ける。(Kindle の位置No.46)
Learn or Die(死ぬ気で学べ)については、私はよく「エンジニアはマグロのようなものだ」というたとえ話をしている。マグロは泳ぐのをやめてしまうと酸素を取り込めなくなり、やがて死んでしまうと言われている。だからマグロは海の中で常に泳ぎ続けている。マグロと同じように、エンジニアも新技術を常に取り入れ続けなければ死んでしまう。だからエンジニアはマグロのようなものなのだ。常に学び続けなければならない。(Kindle の位置No.188)

さいごに

本書は現在のAI(人工知能)の技術の中枢をなしている機械学習の一つである深層学習、そして強化学習の技術の説明にも少しだけ触れています。コンピュータサイエンスの知識がある方にとっては何も問題なく読み進めることができると思いますが、「PyTorch」や「Hadoop」などが少しだけ出てくるので、一部の方は「ん?」となってしまうかもしれません。それでも非常に丁寧に説明されているので、初見の方でも特に問題ないと思います。

米国のテクノロジー企業に比べるとまだまだ日本のテクノロジーは劣っているというイメージがありますが、これからの未来を担うであろうAIの分野においては、日本も負けていないと思います。それは紛れもなく、業界の筆頭にPFNがいるからです。そんな、日本企業として誇れるほどにPFNの技術力は素晴らしいものがあると思います。

米国(サンノゼ)に住んでみて感じましたが、日本には素晴らしい技術者の方々がいて、本当に優秀なエンジニアの方々が多いです。ただ、文化として、組織として、会社として、「世界と戦おう」という雰囲気がまだまだ足りていないだけだと思っています。

とにかく、PFNの企業としての展望とこれからの未来に対する情熱と意気込みを思い切り感じられる一冊でした。

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