見出し画像

失敗に対する「初動」が、組織の強さをあぶり出す

ここ数日、ずっとニュースを賑わせていたコインチェックの巨額流出事件。

私は特に仮想通貨を大量に保有していたわけではなく、技術的なところもよく理解していないので今回の原因や解決策について言うことはありませんが、ひとつ驚いたのはその初動の速さでした。

ベンチャーとはいえ数百人規模の組織なので、ある程度何かあった際の対応策は事前に練ってあっただろうとは思いますが、それにしても銀行やカード会社のような大企業と同程度かそれ以上のスピードで会見をし、初期対応として補償を決定して通知したことは、危機対応として評価に値するレベルなのではないかと思いました。

補償額が自社の保有現金内で収まったのは不幸中の幸いだったとは思うものの、数百億円の補償をこれだけのスピードで決定するのは並大抵のことではないはずです。

もちろん、彼らのサービスとしての管理体制の甘さや、不正送金の早期発見の仕組みが不足していたなどの過失はあるとはいえ、そもそも悪いのは不正送金をしたハッカーです。

銀行やカード会社のような歴史あるビジネスモデルであれば、盗難や不正利用が起きた際の補償のための保険の仕組みがあったり、そうしたリスクをこれまでの実績をもとに算出して積み立てておくこともできますが、新しいビジネスモデルの場合はこうした整備が追いついていないことが多く、有事の際の対応が後手後手に回ってしまうケースも多々あります。

特にお金を扱うサービスは常にセキュリティの強化とそれを突破しようとする犯罪者とのいたちごっこであり、資金の紛失・流出リスクをゼロにすることはできません。

これはどの企業も同じで、失敗や事故の可能性をゼロに「近づける」ことはできても、「ゼロにする」ことは不可能です。

であるならば、もしも重大なミスが起きた際に初期対応として何をするか、その際の指示系統はどうあるべきか、どのような優先順位で解決に当たるかを事前に想定して備えておくことも、危機回避のための企業の責任なのではないかと思うのです。

特に、組織が大きくなればなるほど、事業の社会的影響力が大きくなればなるほど、初期消火を誤ると延焼範囲が無限に広がり続けてしまいます。

初動でひとつ悪手をうつと、その焦りから冷静な判断ができなくなり、さらなる悪手を呼び込むことになってしまいます。

だからこそ、平時に「万が一」を想定して備えておくことが、その組織と事業の強さを作るのだと思います。

この週末、ちょうど「八甲田山 死の彷徨」という日露戦争前の雪中行軍の記録をもとにした小説を読み、危機に瀕した際の組織の動かし方を改めて学んだこともあって、今回の一連の騒動を事前の準備・渦中での決断・責任の取り方に分けて考察したりしていました。

もちろん渦中で多額の資産を失った人からすれば、今回の事件は到底許すことはできないものだと思いますし、犯人のみならずプラットフォームであるコインチェックに対して「なぜもっとセキュリティを強化できなかったのか」と恨みをもつのは自然な心理でしょう。

しかし、自分が実害を受けたわけでもなく、ただ野次馬的に仮想通貨の危険性やセキュリティについて論じるのは、物事の本質を見誤り、今後の世の中全体の発展を阻害する可能性もあります。

今回の件に限らず、自分はあくまで冷静に俯瞰できる立場にある場合は、対象を批判したり責任追及の流れに乗っかるよりも「自分の事業に生かすべき教訓はないか」を考える方が、よっぽど建設的なのではないかと思います。

危機への対応が後々の評価につながるのは、企業だけではなく個人も同じこと。

他者の失敗をエンターテイメントのように弄ぶ人なのか、そこから新たな学びを得て生かすことができる人なのか、SNS上ではそういった態度もすべて蓄積されていることを忘れてはいけないと、改めてそんなことを考えた週末でした。

★noteの記事にする前のネタを、Twitterでつぶやいたりしています。

日々のコラムの最後に、海外の小売トレンドのニュースを載せています。
月額マガジンの購読or単品での購入もできます。

今回ピックしたのは「JD.comがアメリカを拠点とした物流を計画中」という話題です。

ーーーーー 以下、購読者限定コンテンツ ーーーーー

ここから先は

1,479字

¥ 200

サポートからコメントをいただくのがいちばんの励みです。いつもありがとうございます!