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「小売業の繁栄は平和の象徴」

先月の「読んだ本一覧」にも書いたのだけど、最近意識して小売関連の名著を読むようになった。
その中でも感銘を受けたのが、イオン元会長・岡田卓也氏の著書だった。

イオンがもともと「岡田屋」という地方の呉服店からはじまったことを知る人は少ない。
岡田氏は七代目として家業を継ぎ、買収や提携を繰り返して日本トップレベルの小売グループを築いた。

もともと老舗のDNAを持っていることもあって、その家訓からは学ぶことも多い。

「大黒柱に車をつけよ」
「上げに儲けるな、下げに儲けよ」
はどの著書にも出てくる岡田屋の家訓だが、時代が変わっても受け継がれる普遍的な真理がそこにはある。

3冊ほど岡田氏の著書を読んだ中でもっとも印象に残ったのが、書籍名のひとつにもなった「小売業の繁栄は平和の象徴」のフレーズだ。

自身も戦争を経験し、戦後すぐに家業の立て直しをしてきたからこその重みがある。
戦後いち早くお店を再開した際に、「本当に戦争が終わったんですね」と顧客に泣かれたエピソードも印象深い。

小売業は平和な世の中でこそ発展できる業界だ。
必需品だけではなく、生きる意味をもたらしてくれるものを世の中に流通させていくこと。それが小売業の使命だと私は思っている。

「モノを買う」という行為は、理想の自分を描く行為でもある。
どんな雰囲気の自分になりたいか、どんな空間で暮らしたいか、どんな人と出会いたいか。

かたちとして残るからこそ、何年も先の自分を描き、理想に近づいていく行為でもあるのだ。
そしてこれは、平和で先が見通せるからこそできることでもある。

私はここ最近古典や哲学書を手に取る機会が増えたのだけど、「いかに平和を作るか」への興味の根底には、平和がなければ小売業は繁栄しえないという意識が根底にあったのではないかとこのフレーズを読んでハッと気づいた。

私たちの生活が危機的な状況に陥ったとき、真っ先に削られるのが服飾品やアートといった贅沢品である。
現在の状況下での消費の落ち込みが、まさにその事実を指し示している。

つまり小売はどの業界よりも平和維持に敏感であるべきであり、政治にも意見をして関与すべきなのだ。
以前岡田氏がインタビューで「小売はもっと業界団体が結束して政治に働きかけなければならない」と主張していたが、単に自分たちの業界への我田引水を目論むのではなく、商売ができる社会を維持するという意味でももっと政治に関心を持たなければならない。

私たちは平和な社会、豊かな社会という土壌でしか生きられないからだ。

とはいえ、直近はまず自分たちが生き抜くことで精一杯の企業が大多数だと思うし、先に自分たちが生き延びる方法を考えるべきである。

しかし事態が収束したあとに政治に対して評価すべきポイントは、「自分に何をしてくれたか」だけではなく「社会全体を平和にすることに尽力したか」だと私は思う。

たとえ自分たちの業界に有利な施策を打ってくれたとしても、その分だけ他の業界がダメージを受けて社会不安が広がってしまったら、結局のところ小売業界は続かない。

顧客と直に接する業界だからこそ、自分たちだけでなく顧客の安全と平和、繁栄を考えることがまわりまわって自分たちの繁栄をもたらすのだ。

誰もが苦しい時期だからこそ、小手先の工夫だけで乗り切ろうとする甘言にひっかかることなく、長期的な視点で価値あることを見つけるために。

「平和」という当たり前に見えて難しい社会をどう作るかを、私たちひとりひとりが考えたい。

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