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なぜ『感想戦』が必要なのか

野球が好きだと話すと、『どうやってルールを覚えたの?』と聞かれることがよくある。

野球部のマネージャーをしていたわけでもなく、兄弟や家族に野球経験者もいないし、野球好きの友達すらいなかった(よく聞かれるけれど、野球経験者と付き合ったこともない)。

記憶を辿ってみても意識して野球のルールを勉強しようとしたことはないので、見ているうちになんとなく覚えた、というのが正直なところだ。

それでも10年以上見続けていればなんとなくうまい選手の違いもわかるようになってくるし、一歩目が早いとかスローイングが綺麗とか肩が強いといった要素についても話せるようになる。

ただ経験がないことはやはりハンデで、バッターボックスに立ったことがないので球のキレや伸びを感覚的には理解できないし、どう配球を組み立てるべきなのかもいまいちピンとこない。

こればっかりは解説してもらわないと理解できない分野なので、最近はひたすら中継の解説を聴きまくっているのだけど、中継だけではなく現地観戦のときも副音声的に解説が聴けるといいのにな、と思うようになった。

観戦経験が少ない友人を野球に連れていくときはまず応援の楽しさを感じてもらうことを目標にして解説しているのだけど、ある程度野球に興味を持ちはじめたら人は自然と競技自体についてもっと知りたくなるものだ。

でも私の知識レベルでは、野球という競技の要諦であるバッテリーとバッターの心理戦まで解説することができない。

決め球がこれだから先にこの球を見せて次で振らせるとか、一度インコースに投げ込むことで内を意識させるとか、一球一球の攻防は将棋や囲碁に近い戦略性がある。

さらにアウトカウントやランナーの有無、バッターの傾向、風の向き、これまで見せてきた球種など考えるべき要素が多い上に、配球がある程度読めるようになると守備位置も盗塁もどんな指示が出ているかを想像しやすくなる。

ちなみに野球は他の競技と比べても圧倒的にデータの種類が多く、セイバーメトリクス以外にも何百種類のデータを計測・分析し、ひとつひとつのプレイの決断につながっている。

年間140試合以上をどう戦うか、さらには次の5年を見据えたときにどんな育成・補強をするべきか。
贔屓チームというアバターを使って戦略を考えるのもまた、野球のひとつの楽しみ方だ。

ここ数年でカープ女子ブームやベイスターズの躍進もあって女性を中心に野球ファンが増えつつあるからこそ、応援が楽しいとか選手が好きという視点以外の『野球という競技自体の面白さ』を伝えるための仕組みがそろそろ必要なんじゃないか、と私は思っている。

そもそも『ファン』はとてもボラティリティの高い存在だ。

ずっと負け続けていれば応援も楽しくないし、球場から客足は遠のいていく。
選手が好きで通っている人も、その選手が移籍したり退団してしまえば少しずつ興味が薄れていくこともある。

『熱狂を共有できる場所』の代替物は星の数ほどある上に、人は飽きる生き物だ。

だからこそライトファンに野球自体の『楽しみ方』を知ってもらい、野球という競技そのものへの愛着を形成するフェーズにきているのではないかと私は思っている。

そしてそのために必要なのは
①クオリティの高い解説コンテンツ
②感想をシェアできるコミュニティ

の2つではないかと思う。

まず①に関していうと、現状の解説という仕事は明確なライセンスがあるわけではなく、正直なところ人によって当たり外れが大きい。(個人的には元ロッテの里崎さんと元横浜の高木豊さんの解説がすき)

解説への満足度をフィードバックする仕組みもないので、解説として声がかかるかどうかが知名度に依存しているのはもったいないなと思う。

地上波全盛期ならまだしも、今の時代にDAZNやパ・リーグTV、各球団の配信チャンネルを契約して観ているのはファンの中でも相当熱心な層のはずだし、技術や戦略について解説してほしいというニーズはわりとあるような気がしている。

ちなみに前述の里崎さんと高木豊さんはどちらも自分のYoutubeチャンネルを持っているのだけど、放映権の関係で実際のプレイ動画をみながら解説することはできないのをいつももったいなく感じている。

たとえば2人が有料で試合を解説してくれる有料動画があったら観たい人はたくさんいるだろうし、試合動画を使う権利を付与した上で売上のうち何%をもらうといったモデルができれば放映権ビジネスの新しいかたちを作り出せるのではないかと思う。

この仕組みであれば人気が収入に直結するので解説レベルをあげるモチベーションにもなるし、『解説者でみる試合を選ぶ』という新しい楽しみ方にもつながるはずだ。

一方で、ただ解説を聞いて学ぶだけでは飽きがきてしまう。

飽きずに深めていくためにはインプットとアウトプットの循環が必要で、学んだことをもとに自分なりに考えたことを発露し、そこにフィードバックをもらうといった仕組みを作る必要がある。

そこでポイントになるのが②の『感想戦』だ。

お股ニキさんが著書の終盤で感想戦の重要性について書かれていたのだけど、今は試合における戦略や選手の評価などを語れる場があまり多くない。

勝ち負けや選手のストーリーではなく、純粋に野球という競技の技術や戦略について語る場があれば、お股ニキさんのようにプロ出身でなくともプロ顔向けの理論を語れる人がもっと増えるのではないかと思う。

アメリカではプロ経験のないコーチや監督もいるように、ファン側の目が養われていけばプレイヤー以外の方法でプロ野球に関わる人口も増えるはずだ。もしかしたら解説者として人気になる人も出てくるかもしれない。

そして感想をシェアする場所を作ることで、『球場以外』に体験の場を作ることもできる。

以前パブリックビューイングについてこんなnoteを書いたのだけど、サテライト放映と感想戦は相性がいいはずだ。

応援歌を歌ったり、野次を飛ばし合うことも野球の楽しみ方のひとつだけれども、それとは別に『野球の戦略を語る』という楽しみ方ができる場所があれば、これまでとは違う可能性が開けるのではないかと思うのだ。

ちなみにこの『感想戦』はスポーツに限った話ではなく、ビギナーファンが何かにハマっていく過程でこれからますます重要になっていくように思う。

なぜならばインターネットの発展によって『知の高速道路』が年々整備され、初心者レベルの知識であればあっというまに身に着けることができるようになり、誰もが『実践の場』を求めるようになってきたからだ。

得た知識を披露したり、自分でも再現してみたり、自分が主体となりクリエイティビティを発揮すること。そしてその延長線上で人とつながり、コミュニティを形成していくこと。

穏やかにゆるやかに広がっていく『好き』の連鎖は、こうして作られていくのではないかと私は考えている。

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