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「緊急事態」の今、お店の発信で取り組んで欲しいこと

昨日「緊急事態宣言」が出され、これまで以上に実店舗の運営が厳しくなってきました。
大手百貨店や駅ビルなどの商業施設も次々に臨時休館を発表しています。

アメリカではニーマン・マーカスの倒産を筆頭に、どの百貨店も支払いサイトの引き延ばしや買い付けのキャンセルを行うなど混乱を極めていますが、おそらく同じことがこれから日本でも起きていくはずです。

また商業施設が休業することによって、テナントとして入っているブランドも休業を余儀なくされます。

小売はまだまだデジタル化が進んでいない業界でもあるため、休業中に社員ができる業務は限られており、結果として売上もほぼゼロになってしまう企業も少なくないのではないでしょうか。

そんな中で、お店にできることとして残されているのはオンラインでの発信です。

とはいえ小売企業のほとんどはこれまで店舗集客のためにしかSNSを運用していなかったり、社員のSNS利用をあえて制限してきたところばかりだと思います。

そこで、これから発信体制を整えたい企業向けに「取り組んでほしいこと」をまとめました。

「発信」への考え方

まず大前提として知っておいていただきたいのは、SNSで発信することは「商品を買ってください」と話しかけることではない、ということです。

店頭の接客でも、入店されたばかりのお客さまに突然「これがおすすめです!」と声かけしたりしないように、インターネットの世界でも急に自分たちの商品やブランドを押し付けるような発信は好まれません。

人間の本質はリアルだろうとバーチャルだろうと普遍であり、お客さまは「自分にとっていいものがほしい」のです。

だから、もしれこれからオンラインの発信に力をいれるのであれば、SNSを単なる告知チャネルと見なすのではなく「接客する場所」だと考え、自分たちが伝えたいことよりもお客さまが知りたいことを軸にコンテンツを考えるようにしてください。

実店舗の接客では買ってもらったとき以外にお客さまの満足度を測ることは難しいですが、オンラインでは良くも悪くも自分たちの振る舞いがエンゲージメントとして明確に現れてきます。

普通の人間関係と一緒で、ひとつひとつの投稿に一喜一憂するのではなく長い関係性を築いていく意識でコンテンツを考えてみてください。

本当に価値のあるコンテンツを投稿しつづけていれば、必ず信頼が蓄積され、強いエンゲージメントが生まれます。
その信頼があってはじめてコンテンツの拡散可能性が高まります。

バズったとしても売れるのは一瞬です。
それよりも、たとえ地味でもコツコツとファンを増やし、おすすめしてくれる人を増やすことで、買い「続けてくれる」お客さまを増やす方が大事なことだと私は思います。

広告やキャンペーンで獲得した見せかけだけのフォロワーを1万人獲得するよりも、本当に価値を感じて広めてくれる人をたった10人でもいいから作ること。

本当の意味で人を動かす「発信」は、そうした地道な活動の繰り返しによってしか生まれないということを、ぜひ念頭においていただければと思います。

百貨店のみなさんへ

売上仕入れの仕組み上、自社ECでの販売も苦境に立たされているかと思いますが、百貨店には他には絶対に真似できない「バイヤー」という資産があります。
彼らは単にモノを仕入れる交渉をするために全世界を飛び回ってきたわけではなく、十年以上かけてありとあらゆる逸品を見て審美眼を磨いてきた人たちです。

たとえ売るモノがなくても、百貨店にはバイヤーの経験と知識、人脈という資産は最後まで残っているはずです。
ぜひ彼らの知見をコンテンツにして新しいビジネスのあり方を模索してください。

これまでは原則として社員が顔出し実名でSNSをやることを禁じてきた百貨店が多かったと思いますが、実店舗での勤務ができない今、社員の力をフルに使うにはSNSの利用を推進し、世の中に有益な情報を届けることでビジネスにつなげていく必要があると私は考えています。

もちろんSNSの活用に慣れている人の方が少ないはずなので、当初は投稿の事前チェックやレギュレーション制定などで苦労すると思いますが、苦労するだけの価値はあるはずです。

たとえば公式アカウントでインスタライブを配信し、バイヤー個人のアカウントをゲストとして招待して各バイヤーの「買ってよかったモノ」を紹介するだけでも立派なコンテンツになります。

さらに各バイヤーが専門性を生かして自分のコレクションや、お取引先に掲載許可をいただいた写真などを使ってモノの選び方やTIPS、最近のおすすめ情報を発信したり、ストーリーズなどを使って質問に答えていくことで、個人へのファンがついていきます。

その上で公式HP上に各カテゴリーやバイヤーごとの有料コンテンツやコミュニティを一括して作れば、世の中が正常に戻ったあともビジネスのひとつの柱になっていくかもしれません。

SNSに慣れてきたら、お取引先や職人さんとコラボしてライブ配信したりコンテンツを作ることで、これまでとは異なる商品のご提案にもつながっていくはずです。

私は百貨店勤務時代、「百貨店とはアクセラレーターだ」と教えられてきました。
新しいブランドをいち早く見つけ、売場という私たちの資産を投資することで成長を促進し、世の中に素晴らしいものを増やしていくことが使命なのだと。

私が「店舗はメディアだ」と考えるようになったのも、こうした本質的な百貨店の役割を教育されてきたことが根底にあると思っています。

ぜひ売場にこだわらず、オンラインの世界でも最高の審美眼を持つメディアとして発信していただければと思います。

駅ビル、ショッピングモールのみなさんへ

駅ビルやSCの場合は、テナントさんたちの集客支援がもっとも期待される役割だと思います。

その際、ぜひブランド単体ではなくオリジナルの切り口による「面」の紹介を意識していただくと、施設側の発信がよりお客さまに届きやすいのではないかと思います。

たとえば「オンラインMTGで映えるトップス特集」や、「おうち時間を楽しむひと工夫アイテム特集」など、おうち時間を軸にした切り口で各ブランドの商品をまとめた投稿は、ブランド横断で紹介できる商業施設ならではのコンテンツです。

さらに地域密着型の施設も多いと思うので、施設が投稿したコーディネートやレシピ、How toなどを「やってみた」と報告してくれたお客さまの投稿をストーリーズで紹介するといった交流もおすすめです。

また、施設によってはその地域の最新情報も流すようにすれば、よりお客さまのエンゲージメントが高まり、でかけられるようになったら足を運んで買い支えようと思ってくれる人も増えるでしょう。

もし施設内にスーパーやドラッグストアなど営業を続けるお店が入っているようであれば、ライブ配信やストーリーズで「現在の混雑具合」を定期的にお知らせできると安心感も増すと思います。

ショッピングモールに中にはECを持っていないところもあり、こうした発信をしたところで自分たちの直接的な利益にならないケースもあるかもしれません。

しかし休業中も家賃をゼロにはできない以上、彼らのビジネスを支援することは施設の役割のひとつだと思います。

全国展開しているブランドにとって、その地域をよく理解している駅ビルやショッピングモールは、単なるチャネル以上の意味を持っているはずです。

SNSを通して寄せられたお客さまの声や動きから見えることを適宜共有し、営業再開時にテナントが健全にビジネスを続けられる状態を作れるように支援していただきたいと思います。

ブランド経営者のみなさんへ

生産ラインや物流、商品の輸入経路は無事でしょうか。
万が一この状況が半年近く続いた場合、手持ちの在庫を売り切ったらもう売るモノがない!という状況に陥る可能性もあります。

オンラインでもものは売れるとはいえ、梱包や発送、納品の受け取りや返品対応などはオフィスか倉庫に出社しなければ行えない以上、地域によってはECの運営作業も難しくなる可能性があります。

もし万が一まったく出社できなくなったとしても仕事を作り、雇用を守るためにまずは「家でできる作業だけで完結できる商品」について考えてみてください。

たとえばカレンダーや塗り絵、ポスターなどは自宅で印刷でき、梱包材もそこまでかさばらないので自宅で保管もしやすいはずです。
プリンターと専用の用紙だけ手配して従業員宅で保管してもらえば、たとえ出社できなくなったとしても販売しやすい商材です。

洋服やアクセサリーに比べると利益は雀の涙ほどしか出ないかもしれませんが、お客さまに価値を提供してお金を払っていただくという営みを決して諦めないでください。

その上で、ぜひ販売員を信じて各自のアカウントでの発信も推進していってほしいと思います。

スナップコーデが根強い人気を持っていることからもわかるとおり、そのブランドを表現するスタッフのSNSは大きな可能性を秘めています。

さらに各スタッフの投稿をオフィシャルアカウントでまとめることで、ブランドとしての発信も厚みを増していくはずです。

noteでもInstagramの投稿をそのまま埋め込みができるので、同じアイテムでもスタッフによって着こなしが異なるとか、色味で印象が変わるといったことを説明するのにも便利です。

そしてスタッフの投稿を促進するためにも、ぜひ環境を整えるための奨励金を検討してみてください。

たとえばですが、こんな背景布があれば家の中でも撮影が可能になります。

スタンドをあわせると7000円くらいですが、苦肉の策としてとりあえず布だけ配布して画鋲で留めてもらうのもひとつの手だと思います。

これに加えて遠隔操作可能な自撮り棒があれば、自宅勤務でもコーディネート写真をアップできます。

もし着用画像が難しくても、上記のような布さえあれば置き画で撮影することもできるはず。

売上が落ち込む中でお金を使うのは難しい判断ではありますが、全員でなくとも、意欲のある数人に配布するだけでも効果はあると思います。

また、状況が落ち着いてきたら商品の紹介だけではなく、家での過ごし方やブランドとして今考えていることなども発信してみてください。

アメリカのブランドもこぞって「おうちでできるエクササイズ」「簡単でおいしいメニュー」「今、正しい情報を受け取るために必要なこと」といったコンテンツページを積極的に公開してストーリーズで告知しており、もはやブランドというよりもメディアに近い動きを見せはじめています。

外出機会が激減した今、ほとんどの嗜好品は買う必要のないものです。
それでも何かを買いたいと思う気持ちは、単にモノのよさだけではなくそのブランドを応援したい、ブランドが続くこと自体に価値があるとお客さまが感じてくれることによって醸成されるのだと私は思います。

たとえモノ自体を届けられなくなったとしても、モノを通して表現したい思いや作りたい世界がなくなることはないはずです。

ぜひ「なぜやっているのか」に今一度立ち戻り、それをお客さまと共有することでより強い結びつきを作っていってほしいと思います。

販売員のみなさんへ

まずは、来月の生活費は足りていますか?
私も現場で販売員をしていた時代があるので、もしあのとき今と同じことが起きていたら、きっと来月には生活資金が途切れ実家に帰るしかなかったと思います。

しかし今、実家に帰ることもできない状況になってしまいました。

まずは勤めている企業に相談し、休業中の減額によって生活が困難になる場合は副業を認めてもらい、コンビニやUber eatsなど今必要とされている仕事で急場をしのぐことも検討してください。

まだ補償や給付の見通しは立っていませんが、低金利の融資制度もあるので、本当に厳しいときはこうした公的制度も調べてみてください。

当面の生活に不安はなく、しばらくは自宅待機で働けるようであれば、ぜひこの機会に物撮りやスナップ写真の自撮りを練習してみてください。

SNSで反応のよい投稿ができるスキルはこれから確実に求められますし、お店が再開したあとでも必ず役に立ちます。

突然顔出しをする必要はないので、まずは匿名でいくつか練習としてアップしてみて、撮影や加工、文言作成の実験をしてみてほしいと思います。

その際気をつけてほしいのは、SNSは一瞬で世界中に届く可能性があると自覚すること。

炎上リスクはもちろんですが、ちょっとした情報から家や勤務先を特定されて危険な目に遭うこともあります。

特に居住地や家族にまつわる情報を投稿する際は、余計なものが写っていないか、必要以上のことを書いていないか、慎重に確かめましょう。

また、投稿を見てくれている人たちは全員将来のお客さまです。

たまに心ない言葉をぶつけられることもありますが、店頭での対応と同じく落ち着いた対応を心がけましょう。

DMでの対応も、ともすると公にされて問題になる可能性があるので、お客さまと必要以上にDMでやりとりせず、適宜会社に報告するようにしましょう。

SNSで少しでも不安なことがあった場合は、自分で解決しようとせず会社に都度報告して判断を仰ぐことも重要です。

みなさんの発信は、単に会社の売上を増やすためではなくお客さまにホッと一息つける場を提供するという役割が大きいと私は思っています。

きっと常連のお客さまのほとんどは単にモノが欲しいわけではなく、みなさんとの会話を楽しみに通ってこられていたはずです。

これからお店が1ヶ月以上休業することに悲しんでいるのは、お客さまも同じです。

だからこそぜひオンラインでお客さまとのつながりを維持し、この不安な状況の中で少しでも楽しい時間を提供してあげてください。

最後に

人の命と明日の生活が危機に晒されている今、嗜好品の買い物は不要不急なものかもしれません。
ニュースでは小売の仕組みが大きく変わり、店舗やブランドが淘汰されたり再編されていくだろうという話も出ています。

しかし、人がよいものを作り、そのよさを伝え、欲しい人のもとに届けるプロセスはそこに人間らしい営みがあるかぎり不滅の価値を持っています。

歴史を振り返ってみても、人はどんな状況にあっても生活の楽しみを作ることを諦めませんでした。

関東大震災や太平洋戦争といった大きな危機の中でも多くの百貨店が残り続け、今も存在しているのは、美しいもの、新しいもの、よりよいものを求める心はなくならなかったからです。

バブルの崩壊や東北大震災を経ても大手アパレルやセレクトショップがまた復活を遂げられたのも、いいものを作って届けることを諦めなかったからです。

お店の核である「売る」という機能が危機に瀕している今、これまで以上に厳しい時期が続くと思いますが、思いを伝えることは決して諦めないでほしいと思います。

先日、とある方から「本当は閉めようと思っていたけれど、最所さんのおかげでもう一度がんばってみようと思えた」とメッセージをいただきました。

そのとき感じたのは、オーナーや経営者ががんばる気力を失った瞬間に、本当の意味でお店やブランドがなくなってしまうのだということです。

破産や店舗閉鎖によって器としてのお店はなくなってしまっても、またもう一度やりなおそうという気持ちさえあればそのお店が培ってきたスピリットを継承して新しいお店を作ることもできる。

しかしモチベーションを完全に失ってしまったら、そこから再起させることは誰にもできません。

気持ちだけでは食べていけないのも事実です。
綺麗事だけでは生活していけません。

でも、自分たちの存在意義やお客さまに感謝される喜びを失ってしまったら、生きている意味を見出せなくなってしまうのもまた事実だと思います。

情報発信はすぐにお金につながるわけではないし、今の困難な状況を打破してくれる魔法ではありません。

ただ、真摯に伝え続けることで1人でも深く応援してくれる人が現れたら、そのためにまた頑張ろうと思い続けられるはずだと思うのです。

だから、たとえモノが届けられなくても、今お店として届けられるものは何かを一緒に考えていきましょう。

発信に関しては、私もnoteを通じて少しでも役に立てるように日々模索しています。

もし相談ごとがあれば私のSNSへご連絡いただければ。

noteの利用について相談したい場合は、下記のお問い合わせからもご連絡いただけます。
その際、もしお店関連の相談の場合は「最所宛」と入れていただければ、なるべく迅速に私が対応できるようにしたいと思います。

そして最後に、これまで現場で販売に従事してきた方々、そしてこれから梱包や配送業務などで出勤しなければならない方々が健康に日々を過ごせるように、この試練が少しでも短くなるようにと祈っています。

今日もそれぞれの持ち場でがんばりましょう。

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