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本屋さんの役割

今日の夜、青山ブックセンターの山下さんと「これからの小売を書店の現場から考える」をテーマにお話させていただくことになりました。

ちなみに山下さんには半年ほど前に私のコミュニティのイベントとして店舗見学ツアーをしていただいたこともあります。
その中で伺った店舗らしさを作るための棚づくりやイベントの考え方は、他の店舗でも参考になるポイントに溢れていました。

しかし店舗見学からたった半年の間に、店舗を取り巻く環境は大きく変化しました。

本屋に限らず、店舗はこれからどんな役割を担っていくべきなのか。

今夜のイベント登壇に際して、私が今考えていることを事前にまとめておきたいと思います。

「仕入れて売る」存在の価値とは何か

今や規模の大小に関わらず、あらゆる企業がD2Cを志向するようになった。自分たちの商品を小売に卸さず、ECなどを通して直接顧客に販売する。

「販売」はもはや小売店の専売特許ではなくなり、メーカーもメディアも個人ですらも、直接顧客にモノを販売できるようになった。

そんな中でモノを仕入れて売る小売店の役割は何なのか。百貨店もショッピングモールも駅ビルも、すべて同じ問いにぶつかっている。

ひとつの解として、小売自身がメーカーとなりPB商品を展開する戦略がある。コンビニがまさにその筆頭であり、百貨店も数年前からPB開発に力を入れている。

ネスレの高岡さんが4年ほど前に「すべてはD2C化する」と予言していたとおり、小売自身もメーカーとなりD2C化していく未来はすぐそこまできている。

しかしその一方で、D2Cが増えれば増えるほど一周回ってディストリビューターとしての小売の役割が求められるようになるのではないかと私は考えている。

このままブランドや商品が乱立していけば、消費者にとっては発見や選択のコストが上昇していく。一人ひとりの購買履歴から最適なものをレコメンドしたり、組み合わせを提案する存在が求められるようになっていく。

先週読んだ記事の中で「FacebookやGoogleは結果的にD2Cブランドにとっての"中間業者"になっている」という話がでてきだのだけど、これはとても秀逸な表現だと思った。

自分たちの商品を好んでくれそうな消費者にアプローチするために、中間業者にお金を払う。これまでのメーカーと小売の関係とまったく同じ構図である。

選択肢が増え、消費者に自力で発見してもらうことが難しくなると、お金をかけてでも見つけてもらおうとする力が働く。この構図は時代が変わっても本質的には不変のものであり、本当の意味で「ダイレクト」であり続けられるものはないのだと私は思う。

「在庫を持たない小売」はメディア化していく

しかし従来の小売とGoogleやFacebookの間には大きな違いがある。それは在庫リスクの有無だ。

テック企業はあくまで情報のみを届けているのであって、在庫をもつ存在ではない。だからこそ効率的にビジネスを回すことができ、他の中間業者としての小売を破壊していった。

一方で小売自体の歴史を辿っていけば、それは「在庫を持たない仕組み」への変化であったともいえる。

買取から委託販売、そして消化仕入れへ。小売側は在庫リスクを負わず、売れた分だけを場所代としてもらうかたちに進化していった。
書店の場合はこの傾向がさらに顕著で、書店が自社の在庫を抱えることはほとんどない。

つまり従来の小売も在庫リスクを追うことなく場所の価値を高めることだけに注力し、顧客に商品を紹介する「メディア」としての役割へと進化してきたのだ。

Webの世界で「メディアコマース」が流行したこともあったが、キュレーションされた売り場の中で欲しいものを見つけ、そのままシームレスに買い物ができるという意味では、リアル店舗はまさにメディアコマースの元祖とも言える。

ECであれリアル店舗であれ、「仕入れて売る」のビジネスモデルに求められるのは顧客と商品を再接続することだ。もっと言えば、在庫を持って販売せずとも、顧客が欲しいであろうモノの情報を渡すことが価値になりうる。

外出自粛によってECへの注目度が再び高まったが、顧客は「買う」機能自体にお金を払っているわけではない。だからこそ同じ商品でもより便利な方で買おうとする。公式ECよりもAmazonで買うことを好む人も多いだろう。

書籍の場合は商品自体がデジタル化しているからこそ、この流れが顕著である。私もここ最近はほぼKindleを使って読書しており、書籍購入の90%はAmazon経由だ。

もちろん好きな書店を応援するために店舗で買うこともあるけれど、ビジネス的に見るとそうした「善意」に頼ることは本質的な解決にはならないと私は考えている。

だからこそ、購入が他の場所で発生したとしても、その作品と出会うきっかけを作ったことへの対価が小売店に支払われる仕組みを考える必要があると思っている。

具体的な仕組みについては、トークイベントの中で山下さんと話しながら実現可能性について聞いてみるつもり。独自のオンラインコミュニティを作ったり、オリジナル書籍を販売したりとすでに革新的な取り組みを実現させてきた青山ブックセンターの次の打ち手についても聞いてみたい。

小売には、人やコミュニティを再接続させるメディアとしての機能があり、その価値はこれからも変わらないはずだ。ただ、環境の変化によって価値をお金に変える方法が変わってしまっただけだと私は考えている。

価値をいかにして売上に変えていくのか。確固たる答えのない問いだからこそ、対話の中でその糸口を見つけられればと期待している。

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