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服を縫うのは、けっこう手間なんです

服を買うときに
「わっ、安い、ラッキー!」
なんて感じたこと、ありますよね。
でもそれ、そんなに喜ばしいことではないんです。

安い服の裏側

最近は服だけでなく、100円で買える便利なものも増えて、日常が安さに麻痺しているように感じます。
安くてあたりまえ、のように。
反面、そんな値段を見て疑問に思ったことはありますか。
どうしてこんなに安いんだろう、と。
安すぎないか?
海外製だから安いんだろう。
確かにそうです。
日本よりも物価や人件費の安い国で生産すれば、安い商品ができます。
でもその安さが誰かの苦しみの上に作られたものだとしたら、どうでしょう。

「労働力の搾取」

コストを下げる、ただそれだけのために海外の生産現場では、低賃金のうえに劣悪な環境で過酷な労働を強いられている人たちがいます。
私は長いことアパレル業界で仕事をしており、23年前からは海外生産に関わってきました。
取引先のアパレル会社からは日々
「もっと安く、もっと安く」と言われます。
その安さがどうやって作られているか、関心がないのですね。
「知らない」って罪なんです。
安い服を買わないで、と言っているのではありません。
知ってほしいのです。

利益が正しく分配されない

ファストファッションに限らず衣服の多くは、中国をはじめアジアの国々で生産されています。
ベトナム、インドネシア、ミャンマー、バングラデシュ、カンボジアなど。
世界の生産工場といわれた中国はめざましい経済発展を遂げましたが、そのほかの国々はまだまだ発展途上にあります。
本来であれば雇用を創出し豊かになり、知識やスキルを高めるというメリットがあります。
にもかかわらず、彼らの生活は一向によくなりません。
工場労働者には十分な賃金が支払われず、長時間労働も要求されます。
縫製の依頼をする側は、仕事を受けたい工場の足元を見て安い工賃を提示します。

依頼者側による、安価な大量生産と利潤の追求です。

1987年に公開された映画「ウォール街」の中に有名なセリフがあります。
「Greed is Good」(強欲は善だ)
資本主義の浅ましさを象徴した言葉ですね。
そんな時代は終わったと思っていましたが、やっぱりまだあるんです。
資本主義が悪いとか、ファストファッションを無くしたいとは思いません。
ただ、利益は正当に分配されるべきなのです。

映画「ザ・トゥルー・コスト」に見る実態

少し古くなりますが、2015年に公開された映画
「ザ・トゥルー・コスト ~ ファストファッション 真の代償〜」
を紹介します。
この映画はある悲惨な事故がきっかけで作られました。
2013年にバングラデシュのダッカ近郊にあるラナ・プラザという8階建ての商業ビルが崩壊し、死者1100人以上、負傷者2500人以上という、痛ましい事故が起きたのです。
このビルには複数の縫製工場がありました。老朽化したビルの壁には亀裂ができ危険な状態のところに、ミシンなどの振動でいっきに崩壊したのです。
警告を受けていたにもかかわらず、縫製工場のオーナーは無視し、不安がる労働者に就業を強制した結果、起こった惨事です。
この事故が世界に広がり、アンドリュー・モーガン監督は「ザ・トゥルー・コスト」を制作しました。


映画の中にはアパレル商品の生産過程における弊害がいくつも映し出されています。
労働者への低賃金や健康被害、女性蔑視などの人権問題。
染色工場からの汚水排出による環境問題と周辺居住者への身体被害。
原料の綿花栽培に関する遺伝子組み換え種と薬害問題。

目を覆いたくなるシーンがいくつもでてきます。
なぜ先進国のイケイケ企業のために、こんなに苦しむ人々がいるのか。
こういうのがグローバリズムなんだろうか。
企業が利益をだすことを悪いとは、もちろん思いません。
しかしそれによってもたらされた被害に向き合い、全力で落とし前をつけてほしい。

残念ながらこの映画は現在、Amazon Prime で見ることができません。
なぜだろう。
オトナの事情か、それともショッキングなシーンがあるからかしら。
予告映像だけなら見ることができます。
もし興味をもたれましたらDVDを購入してご覧いただき、ほかの方々とも共有していただけたらと思います。
私がチェックしたときは残り1個だったので即購入しましたが、また入荷しています。

そして、現在のバングラデシュはどうなっているのでしょう。
今年は「メイド・イン・バングラデシュ」という映画が公開されました。
縫製工場で働くひとりの女性が、労働組合を作るために奔走するストーリーです。
彼女たちの環境は変わっていません。
Tシャツ工場では1日に1650枚縫い上げていますが、労働者のひと月の賃金はわずかそのTシャツ2~3枚分です。
なんとも……
私が生きているあいだに、バングラからの明るいニュースを聞きたいと切に思います。

無知の罪を知ろう

私はやっぱり服が好きです。
しゃれごころは一生もち続けたい。
だからこそ、服作りに関わる人たちにも明るくいてほしい。
服は人の手の作業で作られています。
それが「労働力の搾取」になってしまうことは、けっして許されません。
「ザ・トゥルー・コスト」の中で、ひとりの女性が涙ながらに訴えます。
私たちの血で作られた服なんて着てほしくない。
どうか、海の向こうで何が起こっているか、知ってほしい。

ファストファッションでおしゃれの楽しさを知ったという人もいます。
決して「悪」ではないんです。
規模の大小にかかわらず、フェアトレードがあたりまえの世の中になってほしいと、心底願います。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。


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