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#6 なぜもっと『ネプリーグ』の偉大さを語らないのか

 アクセスしていただきありがとうございます。
 新年度のスタートから、まもなく二ヶ月が経過。皆さま、いかがお過ごしでしょうか。
 2023年3月のテレビ界は、長寿番組の終了が相次ぎましたが、終わる番組があれば、続く番組があるのも、また事実です。
 ここ数年、特にゴールデンタイムに放送されるバラエティー番組は、以前に比べ長寿化する傾向がみられるようですが、クイズ番組界において、長寿番組の代表とも格付けされているのが『ネプリーグ』(フジテレビ)ではないでしょうか。ネプチューンのゴールデンタイムの冠番組であり、放送年数は彼らトリオとしてのキャリアにおいて、およそ3分の2を占めている、云わずと知れた彼らの出世作品です。
 ですが、この番組、長く放送されているにもかかわらず、『QUIZ JAPAN』のようなクイズの専門書籍でさえ、あまり表立って語られる機会がありません。それどころか、番組のオンエアにて一部出演者から「出題される問題が簡単」という理由でなめられることも、しばしあります(そういう人たちに限って、言った傍から不正解を出し、赤っ恥をかくのがオチです)。

 ではなぜ『ネプリーグ』は、クイズ番組乱立時代に突入した現在でも長く続いているのか、なぜ語られることが少ないのか、そして時に下に見られることがあるのはどうしてなのか。

 番組の歴史は2003年、関東地区の深夜での放送スタートまで遡ります。当時、クイズは数あるコーナーのひとつにすぎませんでした。ネプチューン三人とゲスト二人の五人で、五文字になる問題の答えを完成させ、5問連続正解するとボーナス賞金が獲得できる「ファイブリーグ」が誕生したのはこの時です。
 2005年4月18日から月曜午後7時に放送時間を変更する際、クイズを全面に押し出した企画にリニューアル。深夜時代から続く「ファイブリーグ」をはじめ、漢字の読み問題、一問多答形式の3ステージを戦い、ポイントを多く獲得したチームが、最終ボーナスステージ「トロッコアドベンチャー」へ挑戦できる、という当時の構成は現在とほぼ変わっていません。

 基本的な番組の成り立ちを振り返ったところで、ここからは放送時期の時代背景を押さえていきます。
 フジテレビのクイズ番組の歴史でいえば、『ネプリーグ』の放送スタート時は『クイズ$ミリオネア』(2000~2007年レギュラー放送)と『クイズ!ヘキサゴンⅡ』(2005~2011年同)の間に位置しています。『ミリオネア』は放送当時、最高賞金1000万円という触れ込みから、切実な理由で賞金が欲しい理由のある者から、自身の新たな称号を手に入れるため、『アメリカ横断ウルトラクイズ』(日本テレビ)や『パネルクイズアタック25』(ABC朝日放送)での出場、優勝経験のあるクイズ猛者たちまで、全国から集結しました。番組は挑戦者vs司会者という構図を通して、4択クイズを15問連続正解で1000万円獲得という緊迫感溢れるステージを通して、正解か不正解か、1000万円獲得できたのかできなかったのか、そんな空間から生まれる濃密な人間ドラマに、出場者も観覧者も視聴者も惹き付けられ、後に多くの挑戦者が当時の熱狂ぶりを懐古しています。
 一方、『ヘキサゴン』は2007年頃から「おバカキャラブーム」の火付け役となりました。『ヘキサゴン』がクイズ番組にもたらした「おバカキャラ」について、メディア論が専攻の早稲田大学修士課程修了の黄菊英は、今までのクイズ番組で最も重要視されていたものが問題の答えや解答者が正解できたかどうかという「結果」だったのに対し、解答者が正解からかけ離れた答えという「ボケ」に、司会者がどう「ツッコミ」を入れるのかという、いかに面白い「新鮮な間違え方」という「過程」を作って見せられるかになった時代の、新しいキャラクターの登場を意味する、と分析しています。

 このように、様々な媒体で語られることが多い二つのクイズ番組で板挟みとなった『ネプリーグ』は、当初は相対的に存在感が薄かったようにもみえます。そこからどのような過程を経て『ネプリーグ』がクイズ番組界に長く君臨する存在になりえたのか、その理由を三つの視点で紐解きます。

  1. クイズ番組の新しいフォーマットの確立

  2. ユーティリティープレーヤー林修の登場

  3. ドラマや映画などの宣伝効果の高さ

1.クイズ番組の新しいフォーマットの確立

 先述の『ミリオネア』は、日本では2000年頃に起きた、いわゆる「IT革命」の影響を少なからず受けることになります。インターネットの一般家庭への普及により、問題の答えを検索して調べることが容易くなったからです。現在も数多くのクイズ番組の制作に携わる放送作家の矢野了平は、レギュラー終了後、定期的に特番として放送されていた頃の『ミリオネア』に関わったテレビマンから聞いた話として、「番組の収録中、控え室にいるマネージャーたちも一緒にクイズを考えて楽しんでいたが、スマホの普及後、マネージャーたちはパパッと検索してしまっていた」と証言しています。これはお茶の間にも同じ光景が見られ、クイズ番組が視聴者を惹き付ける「問題の答えは何か」という最大の吸引力が、スマホの普及によってその根底が覆されてしまった、と続けています。
 それに比べ『ネプリーグ』に言えるのは、これまでのクイズ番組に比べ出題のテンポが早く、その分、出題量が多くなったということです。スマホで答えを検索する時間を与えさせないほどのその量は、例えば4月10日放送の『ネプリーグSP』では放送時間が実質約90分に対し、出題数は139問、1分間におよそ1.54問出題されている計算になりますが、出演者のトーク時間などを省くと、その数値はさらに上がるのは確実です。
 また出題範囲、出題形式の多様性も特徴のひとつに挙げられます。いずれのステージもゲーム性が強く出ていますが、小学生で習うものや入試、時事問題から、芸能、音楽などのエンタメ、さらには知識では解けないひらめき問題に至るまで、あらゆる問題をあらゆる形式で出題することで、簡単すぎず、難しすぎない難易度を設け、老若男女問わずクイズを楽しめる番組作りを『ネプリーグ』は可能にしたのではないでしょうか。
 この『ネプリーグ』以降には、ゴールデンタイム進出から数年後、10人で難易度の異なる問題10問を協力して正解しステージクリアを目指す「プレッシャーSTUDY」を足掛かりに、学力ベースのクイズ番組へ路線変更した『クイズプレゼンバラエティー Qさま!』(テレビ朝日)、ともにくりぃむしちゅー・上田晋也がMC、有田哲平が解答者の立場を一貫している『くりぃむクイズ ミラクル9』(テレビ朝日)、『今夜はナゾトレ』(フジテレビ)、そして『東大王』(TBS)と、現在もゴールデンタイムで放送されているこれらのクイズ番組がいずれも『ネプリーグ』に見られる複数のステージ制を採用しています。
 この歴史を見ると、21世紀の日本のクイズ番組は『ネプリーグ』の新しいフォーマットが誕生したことで、これまで以上の長寿化が進んだ、と言えそうです。

2.ユーティリティープレーヤー林修の登場

 2013年、番組初登場時には、起用されたCMで流行語を放ち、一躍時の人となっていた、東京大学法学部卒業の予備校講師の頭脳は番組に大きな刺激をもたらしました。解答者としてあるときはチームの助っ人、またあるときは高学歴チームの一員として、数々の難問を撃破する凄腕のクイズプレイヤーにも似た役割をこなす一方で、彼をはじめとする東進ハイスクール講師が問題の解説を行う役割も担っているため、芸能人が生徒のポジションとなる学校のような構図となり、アカデミックな要素も持ち合わせる番組へと変貌しました。
 そんなユーティリティーに「できる人」代表の一人である林修ですが、最新音楽などの苦手なジャンルに悪戦苦闘する様子や、インテリらしからぬ解答を出してしまう、などの人間味ある一面が出た時が一番面白いのかもしれません。

3.ドラマや映画などの宣伝効果の高さ

 クイズに限らず、俳優などの演者が番組に出演する際、自身の作品のお知らせ、いわゆる番宣が差し込まれますが、『ネプリーグ』の場合、ドラマや映画、あるいは舞台などの作品名がそのままチーム名になり、また、ドラマ作品は、例えば月曜9時放送なら月9チームと放送時間帯で呼ばれることもあるため、ほかのクイズ番組と比べアナウンスされる頻度が多く、宣伝効果は高いと言えそうです(俳優としての活動も長くなった原田泰造の俳優陣への絡みは絶妙なものさえ感じます)。
 また、ここ数年見られる現象として、月9ドラマの初回放送日には、午後7時にその作品の主要キャストが登場する『ネプリーグ』の2時間スペシャルを放送し、そのままドラマ本編と直結した演出が施されており、視聴者をそのまま惹き付ける工夫がなされています。
 豪華俳優陣が一丸となって果敢にアトラクションに挑む、答えが分からず、残り時間が少なくなって慌てふためく、思わぬ珍解答に爆笑が起こる、正解を出して喜びを露にする、そんなスターたちの素の一面を見せることもあるこの番組は、2020年5月4日と6月8日には、貴重映像満載の総集編が放送されました。

 これら3つの視点で『ネプリーグ』の長寿の理由を分析しましたが、何より番組の核となっているネプチューンの存在の大きさも特筆すべきではないでしょうか。彼らはMCとしてではなく、大御所から若手俳優、アイドル、芸人、アナウンサーやアスリートなどのゲストと一緒にクイズをするという立場を一貫しており、進行はすべて局アナの“天の声”が担当しています。それはネプチューンが様々な番組のスタイルを経験しているからこその手腕であり、スタジオや出演者の空気を読み取り、時に俳優陣のフォローに回り、大きな見せ場を作る芸人としての力量も垣間見ることもできるため、番組がマンネリ化しにくいのではないでしょうか。3月5日放送の鼎談番組『ボクらの時代』(フジテレビ)にて、堀内健は「この年まで芸人をやれるとは思っていなかった。ここまで来たら、ずっとプレイヤーとしてやっていきたい」と語っています。ここでいう“プレイヤー”とはもちろんクイズプレイヤーという意味ではなく、演者という意味のプレイヤーのことを指しているはずです。長い歴史を積み重ねて出来上がった、番組の偉大さを決してひけらかすことなく、ネプチューンは今週もエンターテイナーとしてクイズを続けている。その姿が、彼らを老若男女問わず愛されるトリオにしたのではないでしょうか。

 なお、今年は『ネプリーグ』誕生から20周年、2年後の2025年にはゴールデンタイム放送20周年のアニバーサリーイヤー、名倉潤は磁器婚式、もしくは陶婚式の節目を迎えることになります。

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 参考文献・記事
『クイズ化するテレビ』黄菊英/長谷正人/太田省一 青弓社
『ユリイカ』2020年7月号「クイズの世界」 青土社
『15年変わらず続く「ネプリーグ」 クイズ番組激戦区の中で生き残る“強度”の源は』ORICON NEWS 2020年6月15日
 また、見出しの画像はフジテレビから引用しました。

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