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#12 松丸亮吾という「革命」

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 8月21日放送の『午前0時の森』(日本テレビ)にて「売れっ子クイズ作家が感動した“名作クイズ”」と題し、矢野了平、日髙大介、近藤仁美、壯庭回(そうば めぐる)らクイズ作家4人が出演、これまで自身に大きな衝撃を与えた名作クイズについて語りました。
 そのなかで、矢野がプレゼンした名作クイズは、『今夜はナゾトレ』(フジテレビ)で出題されたこの問題です。

Q 下の図の文章を完成させて下さい。ただしA、Bには対義語が入ります。

『東大ナゾトレAnother Visionからの挑戦状』第1巻(扶桑社)より

 皆さま、もうお分かりでしょうか。ヒントは文章の上にある曲線の矢印が何を表しているのかを考えてみてください。


 正解はAには「ひがし」、Bに「にし」を入れると、「日が沈むのは西」という文章が完成します。図の曲線は太陽の動きを表していたのです。AとBは「東」と「西」の対義語の関係になっています。

 矢野曰く、この問題の凄いところは、かつてひらめきが求められる問題はなぞなぞや言葉遊びが中心で、それ故に答えを聞くとどこか強引さが漂っていたものの、それも含めてギャグとして楽しんでいた(オンエアのなかで日髙が出した例題が「Q.野球がヘタな動物って何? A.オランウータン〈おら打たん〉」という粗雑なダジャレでした)。だが、「謎解き」というジャンルが確立されたことで、問題の完成度がこれまで以上に飛躍的に高まり、答えに厳密性を求めるようになった。さらにこれまで、消費されてきたクイズをイベントなどのビジネスへと発展させることができた、と分析しています。
 そんなクイズ番組に「謎解き」というジャンルを開拓し、一大ブームを巻き起こしたのが、謎解きクリエイター、松丸亮吾です。彼がクイズ界に与えたインパクトについて、矢野は2021年のweb記事で行われた、日髙と当時『今夜は~』の総合演出を担当していたフジテレビの木月洋介(きづき ようすけ)との座談会のなかでも、「1つ革命を起こした」と語っています。また、木月は“登場感”があったとする松丸とのある1日を鮮明に覚えていました。

木月:覚えてますか?湾岸スタジオで会議した日。もともと松丸くんたちに『ナゾトレ』でクイズの監修をやってもらおうと思ったんですけど、名刺の裏に書いてある謎解きが面白すぎて「このまま問題にできるじゃん!」「出てもらおう!」って、それで急きょワンコーナー作ることになって。

矢野:まさかこんなブームになるとは…。

木月:『マジカル頭脳パワー!!』とも明確に違いましたもんね。

矢野:1問の中で、ちゃんと伏線や物語があるから、解いたときに「よくできてるなあ」って驚きがくるんですよね。


 このように木月と矢野から称賛された松丸亮吾は、東京大学の謎解き制作集団、AnotherVisionの二代目リーダーでした。学業との両立のため、対外的な活動はしてこなかったあるとき、自らの書類申請のミスでもう1年、2年生をやる羽目に。そこで彼は1年休学することを決断。やりたいことをやろうと謎解きに全ベット、お願いされた対外的な依頼は全部やろうと思ってイベントを仕掛けていくうちに、AnotherVisionの評判が広まり、やがて木月から白羽の矢を立てられたのです。2016年にスタートした『今夜は~』の謎解き問題「東大ナゾトレ」にコーナー出演を果たし、子供から絶大な支持を集め、謎解きの関連本はベストセラーとなりました。

 昨今の謎解きブームが起きた要因について松丸は、インターネットやスマホの普及に伴い、動画配信などでどこからでもスターになれる可能性が広がったことを例に挙げ「自分のオリジナリティやアイディアが試される時代になってきた。そんな中で、今まで行われていた知識を問うクイズよりも、ひらめきとか発想を試されるほうに、需要が高まっているんじゃないか」。さらに「小学校の学習指導要領も今まで学んできたことから応用して答えを導きだすという形に変わって、中学受験でも謎解きっぽい算数や理科の問題が増えてきている。そういった点で“謎解き的思考”というのが、今トレンドになっているのかな」と見解を示しています。
 現在、松丸は謎解きクリエイター集団、RIDDLER(リドラ)株式会社の代表取締役を務め、謎解きのイベントプロデュースや問題の監修を行っています。なかには慈善事業の一環として、新型コロナウイルス感染拡大の影響で修学旅行が中止となった小学6年生のために、学校15校ほどを訪問し謎解きを仕掛けるイベントを開催。トップにいた子のなかには、決して勉強が好きではない事例もあったので、今の時代にクラスのヒーローになる、謎解きを出題する子、解くのが早い子は、決して学力に比例するわけではないことを、彼は実感しています。

 謎解きについては「勉強が苦手な子を勉強好きにするきっかけとして、とても有効な手段」と強調。「国語・算数・理科・社会、どれをとっても最初に知識のインプットがいりますよね。勉強って必ず何かハードルが設定されていて、そのハードルを越えた人が頭を使う楽しさを分かるという、ちょっと振り落としの構造があったりするのがもったいないと思うんです。でも、謎解きは知識ではなくひらめきなので、勉強が苦手だなと自信をなくしていた子が自分の頭で考えて先生に教わるわけでもなく、答えにたどり着いた瞬間、自信を取り戻したのをたくさん見てきました。そういった意味でも、謎解きは“頭を使うことは怖いことじゃない、難しいことじゃない”というのを教える力を持っている」と力説します。
 彼が謎解きの普及活動をする上で、子供たちへの思いを大切にするのには、かつて落ちこぼれだった自身の経験があったからだと言います。男4人兄弟の末っ子で、一番上の兄はメンタリストのDaiGo。喧嘩のときも、クイズを観ていても、知識がないためいつも負けてばかり、悔しさで部屋に閉じこもり泣いていました。そんなある日、小学3年生頃に見ていた『脳内エステ IQサプリ』(フジテレビ)の問題を、家族の中で一番最初に答えたのです。知識ではなく、柔軟な発想が求められる番組の問題に正解したことで、それまで自分はダメな子、というセルフイメージが覆ったのです。
 それをきっかけに、松丸は勉強することの面白さに目覚めました。「勉強は苦手だったけど、頭を使うって案外楽しいことなんだなという意識に変わったんです。そこから勉強のハードルがグッと下がって、『ちょっと公式を覚えてみよう』とか、“ちょっとやってみよう”が積み重なるとすごい力になるんですね。勉強がどんどん好きになって、気づいたら中学受験に合格してたんです。だから『うちの子は謎解きは好きなんですけど、勉強が苦手で…』という親御さんがいたら、すごくいい第一歩を進んでるから、うまく勉強にアシストしてあげてほしいなと思いますね」と、頭を使う楽しさや自己肯定感を持つ大切さを、自身の体験を踏まえながら伝え続けています。

 なお、松丸は自身が手掛けているものは“クイズ”ではなく“謎解き”であるというブランディングを明確にしており、先述の木月は松丸と当初から「謎解きという言葉を文化にしよう」と目標設定して現在に至っている、と証言しています。テレビの放送翌日には、学校の教室で話題になるほどの「謎解き」が1ジャンルに定着したのは、東大のAnotheirVision、そしてそれを広めようと奔走した松丸亮吾の功績である。その言葉の広まりようを見れば、彼の成し遂げたことは、“革命”と呼ぶに相応しいのではないでしょうか。

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 参考記事
『矢野了平&日髙大介の生態と「謎解き」驚異の進化【令和テレビ談義】~クイズ作家編~〈1〉』 2021年9月18日 マイナビニュース
『松丸亮吾が“謎解き”に情熱を注ぐ理由ー落ちこぼれだった幼少体験と子供たちへの思い』 2021年5月18日 マイナビニュース
 また、この記事より見出しの画像を引用しました。

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